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「見るな」

作者: 須原綺奈子
掲載日:2025/12/31

 友人からゲーミングPCが届いた。というのも、自作PCを買い替えるからと古いので良ければ譲ってくれるという話だったのだ。PCを持っておらず、知識もそれほどない私には願ってもない話だ。もちろん必要なパーツは実費で出すことにはなったのだが、それでも一から揃えるより格段と安く、簡単に手に入ってしまったのだ。

 私は早速、初めてで念願だったゲーミングPCをコンセントとモニターに繋ぎ、電源を入れた。聞こえてきたWindowsの起動音は、ゲーム機を買って初めて起動するときの高揚感を思い出す。新しいゲーミングライフの扉を開けるようにロック画面でキーを押し、デスクトップに入る。すると、最初に目に入ったのはデスクトップの真ん中にポツンと置かれたとあるフォルダだった。「見るな」と書かれたそのフォルダは、質素なデフォルト背景と何もないデスクトップのせいで、名前に反して目立っていた。初めからこんなファイル作られるのかと異質な状況を疑問に思い、送ってくれた友人にこのファイルのことを聞いてみたが、「なんやそれ、知らんな」と一蹴された。すぐにゴミ箱に移動させようかと考えたが、「見るな」と言われれば見たくなるのが人間の性というものだ。私は恐る恐るフォルダを開いた。

 すると中には、「はじめに」と書かれたテキストファイルと「確認用」と書かれたフォルダがあった。ウィルスみたいなものがあるのではないかと少し危惧していたが、何かの設定用フォルダが残ってしまっただけなのかと思い、そのままテキストファイルを開いた。



「このフォルダは動作確認用です。

 

 問題なく動作するか確認したい場合は「確認用」フォルダへ移動してください。


 ※動作確認は任意です。」

 


 最近のパソコンはこんなのもあるのかと、少し感心すらした私は言われるがままに「確認用」フォルダへ移動した。するとその中には「手順1」というテキストファイルと、「画像1」という画像、「次へ」というフォルダが入っていた。手順に従えば動作確認ができるのかと思い、テキストを開いた。

 


「このフォルダ内にある画像を、問題なく開くことができるか確認してください。

 

 画像を開いたらすぐに閉じ、「次へ」フォルダへ移動してください。

 

   まだ終わりません。」

 


 画像を開くだけの確認に少し違和感を覚えながらも、画像を開いた。確認用の画像ならどこかの風景や、イラストなどかと思ったが画面に映し出されたのは予想とは全く違うものだった。読めない文字で書かれた使い古されたような「御札」で、一瞬のうちに気味の悪いディスプレイと化した。開いてはいけないものだったのかと思い、不本意ながらテキスト通りすぐに画像を閉じた。困惑し情報の整理が追い付かないままフォルダに残された「次へ」のフォルダが目に入る。このまま動作確認とされているものを本当に進めていいのかと葛藤があったが、一度「見るな」を開いた身だ。不安の中に潜むわずかな好奇心が「次へ」をクリックしていた。

 そのフォルダには、「手j順2」のテキスト、「画像2」の画像、「次ㇸ」のフォルダがあった。直感的に、またテキストを読み画像を開く流れなのだろうと理解した。ただ、今のところファイルを開いただけで実害はない。テキストも読むだけなら何もないだろう。そう思いとりあえずテキストファイルを開いた。

 


「2枚目は解像度の確認です。


 画像を開き、画質を確認してください。

 

 粗くテも問題ありません。次ノフォルダで調整します。

 

 画像を閉じ「次へ」フォルダへ速やかにイ移動してください。」


 

 思った通り画像を開く手順が記載されていた。このまま従っていいものかと手を止めたが、確認しているだけと自分に言い聞かせ、再び画像を開いた。映し出されたのはまた「御札」の画像だった。先ほどとは違い少し画質が粗く汚れたものであった。テキスト通りなら画質の粗さは次で直るとのことだが本当にそうなのだろうか。拭えない疑念を抱えたまま開いた画像を閉じ、手を引かれるように「次ㇸ」フォルダへ移動していた。

 そこには今までと同じように「手エ順参」のテキスト、「画像3」の画像、「最g後ニ」のフォルダがあった。初めは戸惑いもあった作業だったが今は慣れたように「手エ順参」を開いていた。


 

「こレで最後の動作確n認です。


 画像を開イてください。そうすればすべて完了ヲします。


 次hは「最後に」そのファイルは中に、出k来あがっています。」

 


 画像を開かせる作業も、今となっては強引になっていた。だが私も作業としてただおもむろに画像を開く。当然「御札」が映し出され、3枚目の「御札」を開くことに成功した。その画像は今までの2枚よりもより画質が粗く汚れており、しっかり機能しているのかと心配にはなったが、3枚開けたことに少しばかり安心した。開いた画像をそっと閉じ、これ以上確認の必要はないと思わされた私は、最後のフォルダとなるであろう「最g後ニ」を開いた。

 そこには「終ワり」のテキスト、「この子は捨てられません」の画像があった。ようやく確認作業が終わったのだろう。そう思い、 私は無意識にテキストファイルを開いた。


 

「問題ありませんでした。


 完成された写真をみて、ずっとたのしみましょう。」

 


 途中画質の粗いものもあったが、どうやら問題なく機能していたらしい。3枚の画像を開いたことですべてが終わってしまったような気がした私は、喪失感とともに「この子は捨てられません」という名の最後の画像ファイルを開いた。その画像は、今までと同じような「御札」ではなく、「日本人形」だった。画質はひどい粗さで、色合いも濁っており白黒写真のような写りだった。その「日本人形」の表情はどこか寂しげだったが、かすかに嬉しさも垣間見えた。何より、その瞳が印象的だった。粗い画質越しでもわかるほど澄んだ目に、私は視線を奪われ、目が合った瞬間、吸い込まれるようにただ画面を見つめていた。

 もちろん私は、この人形を捨てようなどとは思わない。私の新しいゲーミングライフはこの人形とともに過ごせるのだと、そう思った。


 最期まで、ずっと一緒にたのしみましょう。

半分ノンフィクションです。

友人に私の古いPCを譲ったので、まったく同じフォルダをぶち込んでおきました。

ウキウキでデスクトップ開いたらこれがあってびっくりしてるところを想像するだけでご飯食べれます。

友人にPCが届くのが楽しみです。



PCが届いて友人から感想がきました。

「小説の内容の画像とフォルダを読み進めてく時の心情の文がまさに同じだったのもしてやられた感すごいわ」

私は大変満足です。誰かにまたやろうかな

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