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『信長と天下を獲る ――戦国タイムリープ日本統一記――』  作者: カクカクシカジカ


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第4話 蝮の末路(信長と天下を獲る――戦国タイムリープ日本統一記――/全100話完結)

清洲城の祝宴は、喧騒に満ちていた。


松明の灯りが揺れ、酒樽が次々と空になる。勝利の余韻が、家臣たちの顔を赤らめている。鉄砲隊の者たちが俺を取り囲み、杯を押しつけてくる。


「浩太殿、あの鉄砲の配置、まるで神算だ! どうやって思いついた?」


佐脇藤八が肩を叩きながら笑う。足軽頭に昇進した俺は、粗末な上着を着せ替えられたが、まだ慣れない。現代のサラリーマン体質が、酒の勢いに負けそうだった。


「運が良かっただけさ。殿の采配がなければ、俺の声など届かなかった」


謙遜するが、心の中では複雑だ。あの戦いで、俺は人を傷つけた。血の臭いが、まだ鼻に残っている。


宴の中心で、信長が大声で笑っている。隣に座るのは、平手政秀。信長の幼馴染で、後の「政治の平手」と呼ばれる男だ。


「政秀よ、蝮の首は惜しかったな。次は美濃を落とすぞ!」


信長の言葉に、家臣たちがどよめく。美濃攻略――それは信長の野望の第一歩。歴史では、道三の死後、義龍との戦いで実現するはずだ。


だが今、道三は生き延びた。傷を負い、敗走したものの、息の根は止まっていない。


宴の最中、斥候の報告が届いた。


「殿! 美濃からの急報です。斎藤道三殿が、岐阜で息子・義龍に討たれました!」


場が静まり返る。


信長の笑顔が凍りつく。


「義龍か……あの不孝者が、ついに牙を剥いたか」


斎藤義龍――道三の嫡男。歴史通りなら、数ヶ月後の長良川の戦いで道三を討つはずだ。だが、この清洲の戦いが引き金になったのか? 道三の敗北が、義龍の反乱を早めた?


俺は息を飲んだ。俺の行動が、蝮の末路を加速させたのかもしれない。


信長は立ち上がり、杯を叩きつけた。


「面白い。蝮は死んだ。美濃は乱れるぞ。皆、準備せよ!」


宴は一転、戦の気配に染まった。


翌朝、俺は信長に呼び出された。居室は簡素だが、地図が広げられている。尾張と美濃の境が、赤い墨で塗りつぶされている。


「浩太。お前、美濃のことを知っているか?」


信長の目は鋭い。昨日までの遊び心は消え、魔王の片鱗が見える。


「少し……殿。美濃は要衝です。落とせば、天下の半分を手に入れます」


言葉を選ぶ。歴史知識を少しずつ出す。やりすぎると、俺の正体がバレる。


信長が頷いた。


「うむ。だが義龍は手強い。道三の知略を受け継いでいる。どう攻略する?」


突然の問い。俺は地図を指さした。


「殿、鉄砲を活かしましょう。美濃の城は堅固ですが、兵の士気が低い今、奇襲で……」


説明を始める。現代の戦術書から思い浮かぶ、ゲリラ戦の要素を混ぜて。信長の目が輝く。


「ほう。夜襲か。面白い。お前、ますます気に入ったぞ」


その時、扉が開いた。信行が入ってきた。弟の顔は、青ざめている。


「兄上、政秀殿が……」


信長の表情が変わる。


「何だ?」


「政秀殿が、義龍の間者に斬られました! 城下で毒を盛られた模様です」


衝撃が走った。平手政秀――信長の忠臣。歴史では、本能寺の変の頃まで生き延びるはずだ。だが今、道三の死の混乱に乗じて、義龍の刺客が動いた?


信長の拳が震える。


「政秀……あの野郎め」


怒りの咆哮。居室に殺気が満ちる。信行が俺を睨む。


「兄上、この浩太のせいでは? あいつの進言で戦が早まり、すべてが狂いました!」


信行の言葉に、俺は息を止めた。確かに、俺のタイムリープが引き起こした連鎖だ。道三の敗北→義龍の早期反乱→政秀の暗殺。


信長が信行を睨みつけた。


「黙れ、信行。お前の嫉妬は見苦しい。浩太は俺の家臣だ。疑うなら、俺を疑え」


信行は唇を噛み、退室した。残された俺と信長。空気が重い。


「浩太。お前、本当に越後から来たのか?」


信長の声は静かだ。探るような目。


心臓が止まりそうになる。嘘がバレる時が来たか?


「殿……実は」


言葉を飲み込む。すべてを明かすか? タイムリープの秘密を?


いや、まだだ。信長は革新者だが、異端者を許さない男だ。俺はゆっくり息を吐いた。


「越後からですが、旅の途中で不思議な夢を見ました。未来の戦を知る夢を」


半分本当、半分嘘。信長の反応を窺う。


彼はしばらく俺を見つめ、突然大笑いした。


「夢か! 面白い。お前は夢想家だな。よし、それでいい。夢で天下を取ろう」


信長の信頼を、かろうじて保った。だが、心に影が差す。信行の敵意は、きっと増すだろう。


その日の午後、織田軍は美濃へ出陣した。義龍の乱れを突く、速攻の軍勢。俺は足軽頭として、鉄砲隊を率いる。


道中、佐脇藤八が俺に近づいた。


「浩太殿、殿の寵愛が羨ましいぜ。だが、信行様の目が怖いな」


「わかってる。油断できない」


藤八は頷き、笑った。


「まあ、生き残ればいいさ。この世は、強い夢を持つ者が勝つ」


美濃の国境に着いたのは、夕暮れ時。岐阜城の灯りが、遠くに見える。義龍の軍はまだ混乱中だ。


信長の命令で、夜襲が始まった。松明を消し、闇に紛れて進む。鉄砲隊の足音を殺す。


敵の斥候を仕留め、城門に迫る。俺の心は、再び戦場モードだ。


――ドン! ドン!


鉄砲の閃光が夜を裂く。城壁の守備兵が倒れる。織田軍が雪崩れ込む。


義龍の叫び声が響く。


「信長め! 父の仇を討つ!」


乱戦の始まり。刀と槍が交錯する中、俺は隊を指揮した。


「左翼を抑えろ! 殿をお守りしろ!」


一人の敵兵が俺に斬りかかる。咄嗟に槍で受け止める。刃が火花を散らす。


「死ね、尾張の犬!」


敵の顔に、道三の面影が重なる。蝮の血を引く者か。


俺は力を込め、槍を押し返した。敵がよろめく隙に、足払い。倒れた敵に、刀を突きつける。


「降伏せよ」


敵は睨みながら、刀を捨てた。捕虜だ。


戦いは短かった。義龍は城を捨て、逃亡。美濃は一夜で落ちた。


信長が城の天守に立つ。朝日が昇る中、地図を広げて笑う。


「これで尾張と美濃は俺のもの。次は上洛だ」


家臣たちが歓声を上げる。俺も、その中に混じっていた。


だが、喜びは束の間。信行が、密かに俺を呼び止めた。


「浩太。お前は本当に、兄上の味方か? 美濃の混乱は、お前の夢のせいだな」


冷たい笑み。陰謀の匂い。


――新たな試練が、始まろうとしていた。


政秀の仇は取れたが、俺の影は深まる。歴史は変わり、俺自身も変わっていく。


この戦国で、俺は何を成すのか。


次回、第5話「信行の影」。弟の野心と、主人公の危機――。

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