第3話 蝮の襲来(信長と天下を獲る――戦国タイムリープ日本統一記――/全100話完結)
清洲城の空気が、一瞬で変わった。
朝の訓練が終わったばかりだというのに、城内が騒然とする。
足軽が槍を手に走り、馬を引く音が響いた。
「斎藤道三殿が、加納口より三千! すでに間近です!」
斎藤道三――美濃の蝮。
信長の義父にして、今は敵。
歴史では、道三はやがて息子に討たれる。
だが、今は違う。俺がここにいる。
信長は甲冑を着けながら、笑っていた。
「蝮が自ら来たか。
娘婿を噛みに来るとは、面白い」
森可成が声を低めて進言する。
「殿、兵数は倍近く。籠城を――」
「籠城? つまらん」
即答だった。
「尾張の者に、俺を臆病者と思わせる気はない」
信長の目は、完全に戦のそれだった。
――歴史にない戦いだ。
俺の存在が、すでに歯車を狂わせている。
「浩太」
信長が俺を見る。
「来い。戦場を見せてやる」
拒否権はない。
槍を渡され、足軽の列に放り込まれた。
心臓が喉までせり上がる。
俺は現代人だ。戦場など、知識でしか知らない。
加納口へ向かう道は、ぬかるんでいた。
織田軍千五百、斎藤軍三千。
勝ち目は薄い。
戦場に到着すると、すぐに敵が見えた。
整然と並ぶ美濃兵。その先頭に立つ老将――斎藤道三。
「信長! うつけ者が!
尾張はお前の器ではない!」
信長は高らかに笑った。
「老いたな、蝮殿。
その牙で、俺を噛めるか!」
次の瞬間、空が暗くなる。
矢の雨だ。
「進め!」
号令と共に、地獄が始まった。
槍と槍がぶつかり、悲鳴が飛ぶ。
血の匂いが鼻を刺す。
――無理だ。
俺は、戦えない。
だが、戦場は考える時間をくれない。
突っ込んできた敵兵を、反射的に薙ぐ。
肩を裂いた。倒れる。
生きているのか、死んだのか。
確認する余裕はなかった。
織田軍は押されていた。
数の差が、じわじわ効いている。
その時、気づいた。
右翼が薄い。
そこを徹底的に突かれている。
――このままでは包囲される。
「右翼だ! 鉄砲隊を右翼に回せ!」
叫んでいた。
自分でも驚くほど、大きな声だった。
「誰だ!」
「いいから伝えろ!」
佐脇藤八が、一瞬だけ俺を見て、走った。
遠くで、信長と目が合う。
――頷いた。
次の瞬間。
――ドドドドン!
鉄砲の一斉射撃が、斎藤軍の側面を撃ち抜いた。
陣形が崩れる。
「今だ!」
信長が叫ぶ。
「全軍、突撃! 蝮の首を取れ!」
士気が、爆発した。
美濃軍が退く。
追撃に変わった。
戦は、1時間もかからず終わった。
勝った。
奇跡的に。
戦場に残る死体を見て、吐き気が込み上げる。
だが、足は止めなかった。
信長が馬を寄せる。
「浩太」
血と汗にまみれた顔で、笑う。
「お前の進言が効いた。
あれは“戦”だ。いい」
その夜、祝宴が開かれた。
「浩太。
今日より、お前は足軽頭だ」
ざわめき。
信行の冷たい視線。
――敵が増えた。
だが、もう戻れない。
俺は決めた。
信長の下で、天下を獲る。
生き延びるために。
勝者になるために。
次回、第4話「蝮の末路」。この勝利が、さらなる波乱を呼ぶ――。




