第19話 光秀の決意(信長と天下を獲る――戦国タイムリープ日本統一記――/全100話完結)
天正八年(1580年)春。
安土城の黄金時代は続いていた。
信長は右大臣として朝廷を操り、茶頭・千利休を重用して茶の湯を天下に広めた。
諸大名は安土に集まり、信長の威光にひれ伏した。
しかし、家臣団の空気は変わっていた。
荒木村重の土牢、雑賀衆の屈服、越前の血……信長の苛烈な政策は、忠臣たちにも影を落としていた。
明智光秀の屋敷は、安土の郊外にあった。
俺は光秀から招待を受け、訪れた。
庭で茶を点てながら、光秀は静かに言った。
「浩太殿、安土は美しい。だが、殿の心は暗い」
「光秀殿、またその話か」
光秀は茶碗を置いた。
「浩太殿、あなたは殿の側近だ。殿が家族を土牢に投げ込んだ時、あなたはどう思った?」
俺は黙った。
光秀は続けた。
「殿は天下を取る。だが、取った後、民はどうなる? 殿は神ではない。人間だ」
俺は息を吐いた。
「殿は乱世を終わらせるためだ」
光秀の目が鋭くなった。
「乱世を終わらせるためなら、何でも許されるのか? 殿は家臣を疑い、家族を人質に取る。次は誰だ?
俺か? あなたか?」
その言葉に、俺は背筋が冷えた。
光秀は立ち上がり、庭の桜を見た。
「浩太殿、俺は決意した」
「何を?」
光秀は俺を振り返った。
「殿を止める」
心臓が止まりそうになった。
本能寺の変の決意。
史実では、天正10年(1582年)6月2日。光秀は本能寺で信長を討つ。
今、天正8年。あと二年。
俺の存在で、早まっている。
「光秀殿、それは反乱だ。殿を裏切るのか?」
光秀は首を振った。
「裏切りではない。殿を正しい道に戻すためだ。殿は狂っている。天下を取った後、殿は日本を焼き払う
かもしれない」
俺は立ち上がった。
「光秀殿、考え直せ。殿は天下が必要だ」
光秀は微笑んだ。
「浩太殿、あなたは殿の味方か? それとも、天下の味方か?」
その問いに、俺は答えられなかった。
光秀は茶碗を片付け、言った。
「浩太殿、俺は一人ではできない。あなたが必要だ」
「俺を誘うのか?」
光秀は頷いた。
「殿を変えられるのは、あなたしかいない。共に、殿を止めて、新しい世を作ろう」
俺は屋敷を後にした。
安土の街を歩きながら、考える。
光秀の決意は本物だ。
本能寺を防ぐには、光秀を止めるか、信長を変えるか。
だが、信長を変えるのは難しい。
光秀を止めるには、信長に報告するか、光秀を説得するか。
どちらも、危険だ。
安土城の天守が、金色に輝く。
黄金の頂点。
だが、頂点は、落ちる場所でもある。
信長は次の遠征を計画していた。
中国攻め。
毛利輝元を討つ大軍。
光秀に畿内守備を任せ、俺に鉄砲隊を任せた。
本能寺の変の舞台が、整いつつある。
俺は決意した。
光秀を監視しつつ、信長に近づく。
本能寺の朝を、変えるために。
光秀の決意が、歴史を動かす。
俺の選択が、それを止めるか、加速させるか。
天下布武の旗は、まだ翻る。
だが、風は、嵐を呼んでいる。
次回、第20話「中国への道」。毛利攻めと、本能寺へのカウントダウン――。




