第18話 安土の黄金(信長と天下を獲る――戦国タイムリープ日本統一記――/全100話完結)
天正七年(1579年)末。
雑賀衆を屈服させてから数ヶ月。
信長の天下布武は、頂点に達しようとしていた。
安土城の築城が完成し、天下人の居城として威容を誇った。
安土城は豪華絢爛だった。
七層の天守は金箔で輝き、障壁画は狩野永徳の手によるもの。庭園は美しく、茶室は千利休が設計した。
信長は家臣たちを安土に集め、盛大な宴を開いた。
「これが俺の城だ。天下は俺のものだ」
家臣たちは畏怖と驚嘆の目で天守を見上げた。
俺は鉄砲隊の総指揮として、安土に屋敷を与えられた。
佐脇藤八が俺に言った。
「浩太殿、安土は夢の城だ。殿の黄金時代だな」
「ああ。だが、黄金は脆い」
宴の席で、信長は新たな政策を発表した。
右大臣就任。
朝廷から正二位・右大臣の官位を賜った。
将軍・足利義昭はすでに京を追われ、毛利に亡命していた。
信長は実質的な天下人となった。
光秀も右大臣の祝賀に参列した。
彼は信長に杯を献上しながら、微笑んだ。
「殿、おめでとうございます。天下は殿のものです」
信長は満足げに笑った。
「光秀、お前もよくやった」
だが、光秀の目は笑っていなかった。
宴の後、光秀が俺の屋敷を訪れた。
月明かりの下、庭で酒を酌み交わす。
「浩太殿、安土は美しい。だが、殿の心は黄金に染まりすぎた」
「光秀殿、またか」
光秀は静かに続けた。
「殿は右大臣になった。
だが、朝廷を軽んじ、家臣を苛烈に扱う。荒木の土牢、雑賀の戦い……民の恨みは積もっている」
俺は杯を置いた。
「殿は乱世を終わらせるためだ」
光秀は首を振った。
「乱世を終わらせるためなら、何でも許されるのか? 殿は神か?」
その言葉に、俺は息を飲んだ。
光秀の声が低くなった。
「浩太殿、あなたは殿を変えられる。俺にはできない」
「光秀殿、何を言っている?」
光秀は立ち上がり、去り際に言った。
「殿を止める時が、近い」
その夜、俺は眠れなかった。
本能寺の変まで、あと三年。
光秀の決意は、固まっている。
俺は、どうする?
信長に光秀の異変を報告するか?
それとも、光秀を説得するか?
安土城の天守が、金色に輝く。
黄金の時代。
だが、黄金は、炎に弱い。
信長は茶会を開き、利休を重用した。
文化の黄金期。
しかし、家臣の不満は、くすぶり続ける。
丹羽長秀、滝川一益、細川藤孝……信長の政策に疑問を抱く者たち。
そして、明智光秀。
俺は安土の庭で、鉄砲の改良を続けた。
火縄銃から、フリントロックに近いものを試作。
現代の知識で、戦を終わらせる武器を。
だが、武器は人を殺す。
信長の天下は、血で築かれている。
安土の黄金は、美しい。
だが、その下に、影が広がる。
次なる事件は、本能寺への序曲。
俺の選択が、歴史を決める。
天下布武の旗は、風に翻る。
だが、風は変わり始めていた。
次回、第19話「光秀の決意」。本能寺の変へのカウントダウンが始まる――。




