第17話 雑賀の鉄砲(信長と天下を獲る――戦国タイムリープ日本統一記――/全100話完結)
天正七年(1579年)夏。
有岡城の反乱から一年。
荒木村重の家族が土牢で死んだ事件は、信長の家臣団に深い傷を残した。
多くの者が信長の苛烈さを恐れ、表面上は忠誠を誓いながら、心に影を抱えていた。
そんな中、新たな火種が紀伊で起きた。
雑賀衆。
雑賀孫一を筆頭とする鉄砲傭兵集団。
石山本願寺の援軍として織田軍と戦い、優れた鉄砲術で名を馳せていた。
本願寺降伏後も、信長への恭順を拒み、独立を保っていた。
信長は耐えきれなかった。
「雑賀の鉄砲傭兵どもが、俺に逆らうか。討て」
織田軍は二万で紀伊へ侵攻。
俺は鉄砲隊三千を率いて、佐々成政の部隊に配属された。
雑賀衆は雑賀城と周辺の砦に立て籠もった。地形は複雑で、川と山が天然の要害だ。
孫一は鉄砲の名手。門徒の支援も厚く、織田軍の進軍を阻んだ。
最初の合戦。
雑賀の鉄砲隊が山から射撃。
織田軍の先頭が倒れる。
「敵の鉄砲は上手い!」
成政が叫ぶ。
俺は即座に命令した。
「土塁を築け! 鉄砲隊を分散配置!」
長篠の経験を活かし、防御陣を構築。
雑賀の射撃をしのぎ、反撃。
――ドドドドン!
織田の連射が山を制圧。
雑賀衆は後退した。
だが、孫一は諦めなかった。
夜襲を仕掛け、織田軍の陣を混乱させた。
火矢が飛び、兵糧が焼かれる。
信長は激怒。
「孫一の首を取れ。雑賀を血で洗え」
成政は総攻撃を命じた。
雑賀城を包囲。
鉄砲の応酬が続く。
雑賀の女や子供まで鉄砲を撃つ。
俺は戦場で、孫一の姿を見た。
老いたが眼光鋭い男。
「織田の魔王め! 我らは自由だ!」
孫一の射撃は正確。俺の部下数人が倒れた。
俺は鉄砲を構え、狙いを定めた。
だが、撃てなかった。
孫一は傭兵だ。信長に逆らったが、民を守ろうとしている。
撃てば、もっと血が流れる。
成政が俺に怒鳴った。
「浩太殿、何をためらう!」
俺は命令した。
「生け捕りにせよ。孫一を降伏させろ」
鉄砲隊が煙幕を張り、雑賀城に迫る。
孫一は最後の抵抗をしたが、力尽きた。
降伏。
雑賀衆は恭順を誓った。
孫一は安土へ連行された。
信長は孫一を前に、冷たく言った。
「お前の鉄砲は優れている。俺に仕えろ」
孫一は頭を下げた。
「殿の下、鉄砲をお見せします」
雑賀衆は織田軍に編入された。
信長の鉄砲軍団は、さらに強くなった。
だが、代償は大きかった。
紀伊の民は恨みを抱き、門徒の不満はくすぶった。
光秀が俺に言った。
「浩太殿、雑賀を屈服させたが、民の心は離れた。殿の道は、血でしか築けぬのか?」
俺は答えられなかった。
安土城の完成が近づく。
信長は茶頭・千利休を登用し、文化政策を始めた。
表向きは黄金時代。
だが、裏で家臣の不満が募る。
高坂弾正、滝川一益……信長の苛烈さに耐えかねる者たち。
光秀の目は、日ごとに暗くなった。
本能寺の変まで、あと三年。
俺は雑賀の戦いで、決意した。
光秀を監視する。
本能寺を防ぐために、信長の側にいる。
だが、光秀の言葉が、俺の心を揺らす。
「殿を変えられるのは、あなたしかいない」
雑賀の鉄砲は、織田の武器となった。
だが、その銃口は、いつか信長に向くかもしれない。
天下布武の旗は、高く翻る。
だが、風は、嵐を予感させる。
次なる戦いは、本能寺へのカウントダウン。
次回、第18話「安土の黄金」。安土城完成と、信長の頂点、そして影の深まり――。




