第15話 越前の血(信長と天下を獲る――戦国タイムリープ日本統一記――/全100話完結)
天正四年(1576年)春。
手取川の勝利から六年。
上杉謙信の死去により、北陸の抵抗は弱まった。
信長は北陸攻略を本格化し、柴田勝家を大将に越前・加賀へ派遣した。
俺は鉄砲隊を率いて、勝家の副将として従軍した。
目標は朝倉義景の越前一乗谷城。
朝倉家は名門だが、謙信の死で孤立。義景は降伏を拒み、徹底抗戦を決意した。
一乗谷は天然の要害。山に囲まれ、城下町は繁栄していた。
織田軍は五万。朝倉軍は一万五千。
包囲は一ヶ月続いた。
鉄砲隊が城壁を射撃し、朝倉軍の弓を封じる。
勝家が総攻撃を命じた。
城門が破られ、織田軍が雪崩れ込む。
朝倉義景は天守で自刃。
一乗谷城は落ちた。
だが、信長の命令は苛烈だった。
「越前を血で洗え。一向一揆の残党を根絶やしにせよ」
勝家は越前の門徒を大量に処刑した。
城下町は炎上。民の悲鳴が響く。
俺は鉄砲隊を指揮しながら、胸が痛んだ。
――これでいいのか?
史実では、越前平定で織田の苛烈さが天下に知れ渡る。
民の恨みを買い、本能寺の変の遠因になるという説もある。
俺は勝家に進言した。
「殿の命令ですが、無駄な殺生は避けましょう。降伏した者は生かす」
勝家は鼻で笑った。
「浩太殿、甘いな。殿の天下は血で築かれる」
処刑は数万に及んだ。
越前の血。
光秀が後から合流し、俺に言った。
「浩太殿、殿の道は正しいのか? 民を殺しすぎだ」
「光秀殿……俺も疑問だ。だが、乱世を終わらせるためだ」
光秀の目は、冷たくなった。
「乱世を終わらせるためなら、何でも許されるのか?」
その言葉が、俺の心に棘を残した。
越前平定の報は、天下に衝撃を与えた。
武田勝頼は恐れをなし、信長に恭順を誓った。
毛利輝元も沈黙。
信長の支配は、東海・北陸・畿内を網羅した。
天正六年(1578年)。
安土城の築城が始まった。
信長は俺を呼び、笑った。
「浩太、安土に天守を建てる。天下人の城だ。お前も移れ」
安土城――豪華絢爛な城。史実では本能寺の変で焼失する。
俺は安土で、鉄砲のさらなる改良を進めた。
欧州の知識を思い出し、マスケット銃に近いものを試作。
光秀は安土に屋敷を与えられた。
彼の知略は、信長の外交に活かされた。
だが、光秀の影は深まる一方だった。
ある夜、光秀が俺の屋敷を訪れた。
酒を酌み交わしながら、彼は言った。
「浩太殿、殿は変わった。越前の血は、殿の心も染めた」
「光秀殿、何を言っている?」
光秀は杯を置いた。
「殿は天下を取る。だが、取った後、どうする? 民は恨みを忘れぬ」
俺は黙った。
光秀は立ち上がり、去り際に言った。
「浩太殿、あなたは殿を止められるか?」
その言葉が、俺の胸に重くのしかかった。
安土城の天守が完成に近づく頃、荒木村重の反乱が起きた。
摂津の有岡城で、信長に背旗を翻した。
信長は激怒。
「村重め……討て」
有岡城の戦いが始まった。
俺は再び戦場へ。
越前の血は、まだ乾いていない。
本能寺の変まで、あと四年。
光秀の決意が、動き始めていた。
俺は、歴史を変えられるのか?
鉄砲の嵐は、静かに続く。
次回、第16話「有岡の土牢」。荒木村重の反乱と、信長の苛烈さの頂点――。




