第14話 謙信の川中島(信長と天下を獲る――戦国タイムリープ日本統一記――/全100話完結)
元亀元年(1570年)秋。
石山本願寺の戦争が終結してから三年。
信長の勢力は畿内を完全に掌握し、毛利輝元も一時的に沈黙した。天下布武の旗は、ますます高く翻っていた。
しかし、北の空に新たな嵐が迫っていた。
上杉謙信。
毘沙門天の化身と呼ばれる越後の龍。
川中島で武田信玄と五度にわたる死闘を繰り広げた戦国最強の武将の一人。
信長の比叡山焼き討ちと本願寺攻めを「仏敵」と非難し、挙兵を宣言した。
謙信は越後・北陸を支配し、能登・加賀・越前を味方につけた。朝倉義景も同調し、北陸道から京へ向かう大軍を編成。
信長は軍議で冷たく笑った。
「謙信か。面白い。毘沙門天が俺に挑むとはな」
家臣たちは緊張した。謙信の軍勢は四万。織田軍は二万五千。兵数は劣勢だ。
俺は地図を指さした。
「殿、手取川で迎え撃ちましょう。川を背に陣を張り、鉄砲で先制」
信長は頷いた。
「よし、浩太に鉄砲隊を任せる」
手取川の戦い――史実では謙信が織田軍を大破した戦いだ。柴田勝家が敗走し、信長の北陸攻略が遅れる。
だが今、俺がいる。鉄砲三千挺。長篠の経験を活かせば、勝てる。
九月、手取川に着陣。
織田軍は川を背に土塁を築き、鉄砲隊を前線に配置。馬防柵も再利用した。
対岸に上杉軍が現れた。
謙信は白い甲冑に「毘」の旗を翻し、馬上から織田軍を睨む。
「第六天魔王め。仏敵を討つ!」
上杉軍の突撃が始まった。
車懸りの陣――謙信の得意戦法。輪のように回転しながら突撃する騎馬軍団。
だが、川を渡る瞬間が隙だ。
「撃て!」
俺の号令で、鉄砲隊が一斉射撃。
――ドドドドン!
煙が立ち込め、上杉の先頭が倒れる。馬が転び、後続が混乱。
第二列、第三列の連射。
謙信の騎馬は川中で止まった。
「鉄砲か……魔王の武器め」
謙信は冷静に後退を命じた。
織田軍の士気が上がる。信長が刀を抜き、突撃を命じた。
柴田勝家、佐々成政が先頭を切り、上杉軍を追撃。
謙信は陣を整え、再び突撃。
だが、鉄砲の壁は厚かった。
一日で、上杉軍の損害は数千。謙信は撤退を決めた。
手取川の戦いは、織田の勝利で終わった。
史実とは逆の結果。
戦後、信長は俺を抱いた。
「浩太、お前の鉄砲が謙信を退けた。天下に敵はいない」
光秀が俺に近づき、小声で言った。
「浩太殿、殿の力は神をも超えた。だが、神を敵に回す者は……」
光秀の言葉が、胸に刺さった。
謙信は越後へ帰還したが、病が悪化。二年後、死去した。
上杉家の衰退が始まった。
信長の北陸攻略は加速。越前・加賀・能登が次々と落ちた。
天正三年(1575年)。
織田の支配は、半国を超えた。
だが、本能寺の変まで、あと七年。
光秀の影は、ますます濃くなった。
俺は決意を新たにした。
この変わった歴史で、本能寺を防ぐ。
長篠の再来のような戦いが、次に待っている。
武田勝頼の最後の賭け――。
鉄砲の嵐は、まだ止まない。
次回、第15話「越前の血」。北陸平定と、苛烈さの代償――。




