第13話 石山本願寺の炎(信長と天下を獲る――戦国タイムリープ日本統一記――/全100話完結)
永禄十年(1567年)春。
長篠の戦いから二年。武田家の衰退は決定的となり、甲斐の虎・信玄は病に伏せ、息子勝頼の代になっても織田の勢いを止めることはできなかった。
信長の天下布武は、ますます現実味を帯びていた。
しかし、最大の難敵が、信長の前に立ちはだかった。
石山本願寺。
一向一揆の本拠地。大坂にそびえる巨大な寺院要塞。門徒は数十万とも言われ、畿内を中心に全国に広がる。
僧兵は五千を超え、毛利輝元や朝倉義景と連携して織田を脅かしていた。
信長は軍議で断言した。
「本願寺は毒だ。根こそぎ焼き払う」
家臣たちは息を飲んだ。一向一揆は民衆の信仰を基盤とする。寺を攻めれば、畿内の民が一斉に反乱を起こす可能性が高い。
明智光秀が進言した。
「殿、本願寺は調略で抑えましょう。顕如上人は交渉に応じるかもしれません」
俺も同意した。
「武力だけでは、犠牲が大きすぎます。まずは包囲で疲弊させ、降伏を待つ」
信長は笑った。
「面白い。包囲か。よし、そうしよう」
石山本願寺戦争の始まりだった。
織田軍は十万の大軍で大坂を包囲した。
俺は鉄砲隊五千を率い、本願寺の南側を担当。佐脇藤八が俺の傍らにいた。
「浩太殿、一向宗の門徒は死ぬ気だ。鉄砲で抑えられるか?」
「抑える。だが、長期戦になる」
包囲は十年を超える長期戦となった――史実ではそうだったが、俺の介入で変わるか。
最初の攻城戦。
本願寺の僧兵が鉄砲と弓で応戦。門徒の女や子供まで武器を取る。
織田軍の鉄砲隊が連射。
煙が立ち込め、僧兵が倒れる。
だが、本願寺は要塞だ。堀と土塁が厚く、簡単には落ちない。
信長は苛立った。
「火をかけて焼け」
火矢が飛ぶ。堂塔が炎上する。
しかし、本願寺は耐えた。門徒の信仰は揺るがず、毛利からの援軍も届く。
戦いは膠着した。
二年、三年……。
俺は鉄砲の改良を続け、弾薬の補給路を確保した。経済改革で織田の財力は増え、長期戦に耐えられるようになった。
光秀が俺に言った。
「浩太殿、この戦いは殿の苛烈さを天下に示した。だが、民の恨みも買っている」
「ああ。だが、本願寺を落とさねば、天下は取れん」
光秀の目は、ますます複雑になった。
五年目、転機が訪れた。
毛利輝元が本格的に介入。海路から本願寺へ兵糧を入れる。
信長は海戦を決意。
「浩太、鉄砲を船に載せろ」
俺は大船に鉄砲隊を配置。木津川口の海戦だ。
毛利水軍九百艘に対し、織田水軍六百艘。
鉄砲搭載の安宅船が、火を噴く。
――ドドドドン!
海上で銃声が響く。毛利の小早が炎上。
毛利水軍は壊滅。第一回木津川口の戦いは織田の勝利。
本願寺は孤立した。
信長は包囲を強化。
十年目、顕如上人は降伏を申し出た。
本願寺は開城。炎に包まれることはなかった。
信長は顕如を赦免し、領地を安堵した。
「信仰は自由だ。だが、武力で俺に逆らうな」
天下に示した。
石山本願寺の戦争は終わった。
織田の支配は、畿内全域に及んだ。
だが、信長の苛烈さは、ますます敵を増やした。
上杉謙信が動き、朝倉義景が反乱。
そして、本能寺の変まで、あと十二年。
光秀の影が、深くなった。
俺は決意した。
この長期戦で得た時間で、本能寺を防ぐ準備をする。
鉄砲の嵐は、まだ続く。
次なる戦場は、越前・加賀。
手取川の戦いが、近づいていた。
次回、第14話「謙信の川中島」。上杉謙信との対決と、手取川の戦いへ――。




