第12話 鉄砲の嵐(信長と天下を獲る――戦国タイムリープ日本統一記――/全100話完結)
永禄八年(1565年)五月。
比叡山焼き討ちから二年。織田信長の威名は天下に轟き、京の支配は盤石となった。将軍・足利義輝は信長を頼り、朝廷も織田家の経済力にすがるようになった。
楽市楽座の施行で商人は富み、鉄砲の生産はさらに加速した。岐阜・清洲・京の鍛冶場で、すでに二千挺を超えていた。
しかし、新たな脅威が東から迫っていた。
武田信玄。
甲斐の虎。騎馬軍団で名高い戦国最強の軍略家。息子の勝頼を大将に、三河・遠江へ侵攻を開始した。目標は織田の同盟国・徳川家康の領地。そして、その先は尾張・美濃だ。
家康は浜松城で武田軍を迎え撃ったが、圧倒的な騎馬の前に苦戦を強いられた。
信長は軍議で即断した。
「武田を潰す。長篠で迎え撃つ」
長篠の戦い――史実では信長・家康連合が武田勝頼を破った決戦。鉄砲三段撃ちで騎馬軍団を粉砕した、戦国史上最大の革新戦だ。
俺は知っていた。ここで勝てば、武田家は衰退し、信長の天下はさらに近づく。
織田・徳川連合軍は二万八千。対する武田軍は一万五千。兵数は優位だが、武田の騎馬は最強。山県昌景、馬場信春、内藤昌豊……名だたる赤備えが揃っている。
戦場は長篠城周辺。設楽原と呼ばれる平野だ。
信長は俺に鉄砲隊三千を任せた。
「浩太、お前の鉄砲で武田の騎馬を止めてみせろ」
俺は馬を進め、佐脇藤八と酒井忠次(家康の家臣)と作戦を練った。
「馬防柵を三重に張る。鉄砲隊を柵の後ろに配置。三段撃ちで連射する」
馬防柵――木の柵と土塁で騎馬の突撃を防ぐ。史実の長篠で使われた戦法だ。俺はそれをさらに強化した。柵の間に溝を掘り、鉄条網のような棘を仕込む。
武田軍は設楽原に陣を張った。
勝頼は自信満々だった。
「織田・徳川など、雑魚。赤備えで一気に踏み潰す」
五月二十一日、雨が降る中、戦いが始まった。
武田軍の騎馬が突撃を開始。赤い甲冑が波のように押し寄せる。
「撃て!」
俺の号令で、鉄砲隊第一列が一斉射撃。
――ドドドドン!
煙が立ち込める中、騎馬の先頭が倒れる。馬が転び、後続が混乱。
第一列が後退、第二列が前進して射撃。
続いて第三列。
三段撃ちの連射。雨でも火縄を保つ訓練の成果だ。
武田の騎馬は柵に突っ込み、止まる。馬が棘に刺さり、悲鳴を上げる。
「進め! 柵を越えろ!」
山県昌景が叫ぶが、無駄だった。
鉄砲の雨が降り注ぐ。
一時間で、武田軍の損害は数千。名将・馬場信春が討ち死に。山県昌景も重傷。
勝頼は本陣で顔を青ざめさせた。
「これは……魔術か」
織田軍の士気が爆発。家康の部隊が側面から突撃。
武田軍は総崩れ。勝頼はわずかな手勢で甲斐へ逃げ帰った。
長篠の戦いは、織田・徳川の圧勝で終わった。
戦後、信長は設楽原で俺を抱いた。
「浩太、お前の鉄砲が武田を滅ぼした。天下は俺たちのものだ」
家康も深く頭を下げた。
「浩太殿、徳川家は一生の恩義を忘れません」
だが、俺は知っていた。
家康は将来、信長を裏切る男だ。この恩義が、歴史を変えるか?
光秀が俺に近づき、小声で言った。
「浩太殿、殿の力は強すぎる。武田を一戦で潰すとは……」
光秀の目は、複雑だった。
本能寺の変まで、あと十七年。
長篠の勝利で、信長の黄金時代は頂点に達した。
だが、頂点が高いほど、落ちる影は深い。
次なる敵は、毛利輝元と上杉謙信。
俺の戦いは、まだ半ばだ。
鉄砲の嵐が、戦国の風を変えた。
次回、第13話「石山本願寺の炎」。一向一揆との長期戦と、信長の苛烈さが深まる――。




