第10話 入京の儀(信長と天下を獲る――戦国タイムリープ日本統一記――/全100話完結)
永禄五年(1562年)九月。
近江を平定し、浅井長政との同盟を結んだ織田軍は、ついに京へ向かった。
総勢一万五千。鉄砲は千挺を超え、尾張・美濃・近江の兵が揃い踏みだ。信長は黒い甲冑に「天下布武」の旗を翻し、堂々と進軍した。
俺は鉄砲隊の先頭に立ち、佐脇藤八と共に馬を並べた。
「浩太殿、ついに京だ。天下の都だぞ」
藤八の声は興奮に震えている。
「ああ。でも、京は戦場だ。三好三人衆が待ち構えている」
三好長逸、松永久秀ら。足利義輝将軍を傀儡にし、京の実権を握っている一派だ。史実では信長の上洛を妨げようとするが、結局屈服する。
だが今、俺たちの軍勢は史実よりはるかに強い。鉄砲の数も、士気も。
京に入る前、信長は将軍・足利義輝に書状を送っていた。
「織田信長、将軍を護るために上洛いたします」
義輝は喜び、正式に入京を許可した。
九月二十日、織田軍は山科から京へ入った。
沿道には群衆が詰めかけ、驚きの声を上げている。
「織田の軍勢だ!」「桶狭間で今川を討った魔王だ!」
信長は馬上から手を振り、笑顔を見せた。第六天魔王の威光が、京の民を圧倒する。
将軍御所・二条御所に到着。
足利義輝は甲冑姿で出迎えた。まだ20代後半、剣術の名手として知られる若き将軍だ。
「信長殿、よく来られた。京は乱れている。頼む」
信長は深く頭を下げた。
「将軍様をお守りするのが、臣下の務めでございます」
表向きは忠誠の儀式。だが、信長の本心は違う。将軍を支えつつ、京の実権を握ることだ。
その夜、二条御所で宴が開かれた。
義輝、信長、そして俺や光秀ら家臣が並ぶ。
義輝が信長に問うた。
「信長殿、天下をどうするつもりだ?」
信長は静かに答えた。
「天下に武を布き、乱世を終わらせます」
義輝の目が光った。
「ならば、俺も協力する。三好を討て」
信長は頷いた。
翌日から、動きが始まった。
三好三人衆は京の南、摂津に拠点を置いている。松永久秀は大和の信貴山城にいる。
信長は軍議を開いた。
「久秀をまず調略せよ。光秀、お前に任せる」
光秀が頭を下げた。
「承知しました」
俺は内心で警戒した。久秀は裏切り者として有名。史実では信長を裏切り、最後は爆死する男だ。
光秀が久秀と交渉に行った。
数日後、光秀が戻ってきた。
「久秀は降伏を約束しました。条件は、領地の安堵と、将軍への忠誠」
信長は喜んだ。
「よし、久秀を迎え入れる」
だが、俺は違和感を覚えた。久秀はそんなに簡単に屈する男ではない。
案の定、数日後、異変が起きた。
久秀が三好長逸と結託し、織田軍を京から追い出そうと画策している、という情報が入った。
光秀が報告した。
「久秀は裏切りました。私の調略を欺き、三好と手を組んだようです」
信長の顔が怒りに染まる。
「久秀め……武で示すまでか」
即座に軍を動かした。
織田軍は京の南へ進軍。三好・久秀連合軍は淀川を挟んで対峙。
戦いは短かった。
鉄砲隊が淀川の渡河を阻止。三好軍は混乱し、久秀は信貴山城へ逃げ帰った。
信長は追撃を命じた。
「久秀の首を取れ!」
俺は鉄砲隊を率いて信貴山城を包囲。
城は堅固だが、鉄砲の連射で守備兵を削る。
光秀の部隊が夜襲をかけ、城門を焼いた。
久秀は降伏を申し出た。
「命だけは……」
信長は久秀を京に連れ戻し、将軍の前で屈服させた。
三好三人衆は壊滅。京は織田の手に落ちた。
義輝は信長を副将軍に準じる地位に任命した。
「信長殿、天下は君のものだ」
信長は笑った。
「まだ始まったばかりです」
京制圧の報は、天下に衝撃を与えた。
朝倉義景、武田信玄、上杉謙信……諸大名が警戒を強める。
浅井長政は忠誠を誓い、お市の方が信長のもとへ輿入れした。
美しく賢い女性。信長は気に入った。
俺は彼女に挨拶した。
「お市様、殿をよろしくお願いします」
お市は微笑んだ。
「浩太殿、あなたもね。殿を変えているのは、あなたのようだわ」
また、秘密に気づかれているような気がした。
京に滞在する間、信長は新たな政策を始めた。
楽市楽座の施行、寺社勢力の抑圧。
比叡山の僧兵が不満を募らせる。
光秀が俺に言った。
「浩太殿、殿の道は正しい。だが、敵も増える」
「ああ。だが、止まれない」
入京の儀は成功した。
織田信長は、天下人の座に一歩近づいた。
だが、俺は知っている。
この先、長篠の戦い、比叡山焼き討ち、そして本能寺……
歴史はまだ、俺を試す。
京の空に、天下布武の旗が翻る。
新たな戦いが、始まろうとしていた。
次回、第11話「比叡山の炎」。寺社勢力との対立が深まり、歴史的決断の時――。




