祈りは届かず
平和の祈りは届かなかった。
「シルバは頭が良くて勉強も出来るのだから、もっとよく考えて話をしないと駄目ですよ。相手の事を考えて、相手の気持ちになって、相手を想って話なさい。よく見なさい。お姉ちゃん傷ついて傷ついて泣いてしまったじゃない。女の子を泣かせるなんて最低です。最低の行為です。プンプン」
「・・・・・・ごめんなさい」
体の痛みから解放された僕は、今度は正座させられ、心の痛みに襲われていた。
「骨があたって痛い」と言ったことについてのお母さんのお説教は終わっていなかった。
「わ、だ、しは、まだ10歳だも、ん。ヒック、ま、だ、まだ、だもん」
「謝って、謝って。お姉ちゃんにちゃんと謝って!」
「・・・・・・サティお姉ちゃん、本当にごめんなさい」
「あ、げてな、いもん。よせ、てないもん。ヒック」
「まったく、こんなにお姉ちゃんをこんなに傷つけて」
「・・・・・・」
お姉ちゃんの嘆きの言葉に、僕が関わった部分は一切ない。ないけど、それを言える雰囲気でもない。
ミューズお母さんはギロリを厳しい眼をしてるし、お姉ちゃんは泣きながら、僕をチラチラ見ているし。僕が謝るのが一番良いのだろうな。
「お姉ちゃん、本当にごめんなさい。反省しています。もう、お姉ちゃんを傷つけることは言いません。言うこともちゃんと聞きます」
「グスン、本当?本当に、約束する?」
「はい。約束します」
「本当に、私の言うことなんでも聞く?」
「・・・なんでもは、ちょっと、でも僕に出来ることなら・・・」
「フェエン、シルバが嘘ついた!言ったのに!私の言うこと、な・ん・で・も・聞くって言ったのに、なんでも言うこと聞くって言って謝ったのにー!」
「こらシルバ、またお姉ちゃんを泣かせるなんて!謝って、早くお姉ちゃんに謝って!」
「クッ・・・・」
我慢だ僕、我慢するんだ、僕だってもう7歳だ。ここで堪えないともっと大変な事態と未来が待っていることくらい、僕にだって理解できるんだ。僕は大人だ、もう大人だ。
ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。
僕はまず呼吸を整え、取り敢えずこの場を治めてこれ以上の被害が出ない様にと、正座を正してサティお姉ちゃんに向き合う。
お姉ちゃんの泣き声と、お母さんの怒り声が響いて殺伐とする我が家で、覚悟を決めて、身を削る思いで、頭を下げて・・・・・・。
「この度は、誠にもうし・・・」
「すいませーん」
「ん、おっす」
聞き馴染みのある声が玄関の方から聞こえてきた。ルリお姉ちゃんとルカお姉ちゃんだ。
2人はずかずかと我が家の様に部屋の中に入って来ると、現在の我が家の様子を見て、正座の僕とサティお姉ちゃんを交互に見比べると何かを感じ取ったのか、
「シルバ!また、何かしたの。サティが泣いてるじゃない。早くサティにあやまりなさい!」
「ん。女の子泣かせるのは駄目。可哀そう。早く謝った方が良い」
「エエーン、聞いてよ、聞いてよ、ルリリン、ルカリン」
「あら、いらっしゃい二人共。ごめんなさいね。見苦しい所をみせちゃって、今シルバを怒っていた所だったの」
ああ、僕知ってる。これ四面楚歌ってやつだ。この間、本で読んだやつだ。
「え、貧乳で豊乳で牛乳? シルバ酷い、女の子にそんな事言うなんて!」
(言っていません)
「胸に顔を押し付けられた?スケベシルバ、見損なった女の子にそんな事したらダメ」
(やっていません)
「まあまあ、何時の間にそんなことまで!」
(そんなこともしていません)
「私、ルリリン、ルカリン悲しいよ、春だからって弟からこんな辱めを受けんるなんて、エエーン」
(春!間違ったままの解釈!)
ルリお姉ちゃん、ルカお姉ちゃん、ミューズ母さん、サティお姉ちゃん。女の子の中に男が一人。がっちりと連帯した女性陣の責めに、僕は一切の抵抗や反撃の兆しを見出すことが出来ずにいた。
この責めは本日の前半午前中、お昼ご飯の時間まで続いた。何を食べたか、覚えてないや。
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