狩りに行くわよ
「狩りに行くわよ!」
「・・・・・・・・・え?」
「あらあら」
サティお姉ちゃんは朝食後に突然そう言った。そう言って、期待に満ちた目で読書を楽しんでいる僕のことを見てきている。
突然のサティお姉ちゃんの発言に驚いた僕は、思わずお姉ちゃんの顔を見てバッチリと目が合ってしまい、ロックされてしまっていた。
ミューズお母さんは興味がないのか「まあまあ」など言いながら食べ終えた食器を一人で片づけている。
「狩りに行くわよ!」
両腕を組んで高らかに僕に向かってもう一回言い放つ。少し誇らしげに胸を張っている。
「・・・・・・」
僕は黙って読んでいた本をテーブルに置いてサティお姉ちゃんを観察した。
「・・・・・・」
最近は暖かくなってきた。
僕はお姉ちゃんから目を放し、窓から家の外を見た。すると庭にある木々やお母さんの畑には、新しい新緑の息吹が可愛らしく芽吹き初め、風景に新しい彩りを与えていた。四角い窓から見える景色はまるで、力強い生命力を感じさせる美しい天然の絵画を思わせてくれた。
「・・・春だからかな」
スパーン、という気持ちの良い音に続いて衝撃が僕の頭を襲う。叩かれた頭を押さえて振り返ると、僕が呼んでいた本を丸めたお姉ちゃんがスマシュポーズで肩を怒らせている。
「イタッター、何するんだよお姉ちゃん!」
「だってあんた今なんか私の事を馬鹿にしたでしょ!」
「馬鹿にはしていないよ、心配したんだよ!」
「私の何処に心配される所があるって言うのよ!」
お姉ちゃんは僕に叫ぶようにそう言うと、僕の首を自分の片腕で絞め脇の下に抱え込み、腕と上体を使って遺憾なく締めあげた。
「イダダダダ、お姉ちゃん決まってる締まってる!!イダダダダ!」
「シルバ、あんた最近調子に乗っているんじゃない?なんかいつも難しいことばっかり言って、何かすぐ言い返してさ。ぜんぜん私の言う事を聞いてくれなくなった気がするんですけどー!」
「そ、そんなことないと、そんなことないって、イダダダダ!」
「今だってそうじゃないのよ!私が折角狩りに誘ってあげてるのに無視したじゃない。大体なんで狩りと春とが関係あるのよ。狩りは一年中するでしょうが。夏だって、秋だっていいじゃな!」
「僕が言った春は、そう言う意味じゃなくて」
「じゃあどう言う意味なのよ!」
「イッダダダダダダダダダダダ!・・・死ぬ、死んじゃうよ!イダダダダッダ!」
「あらあら、今日も仲が良いわね」
(ミューズお母さん助けて。ホホホじゃないよ。笑ってないで助けて!)
僕の心の叫びはお母さんには届かない。痛がる僕の姿に満足している感のあるお姉ちゃん。
サティお姉ちゃんこう見えても力が強い。身長も145㎝ほどあって村の同年代の子供達の中では大きな方だ。黙っていれば美少女で、少し話すと脳筋で、じっくり付き合うと天然の、言い出したら止まらない赤髪のポニー(馬と髪型にかけまして:お姉ちゃんはポニーテール)と密かに村の男子から呼ばれている。
「分かった。分かったから、行きます。狩りに行くよ。行かせてください。だから、許して、許して下さい。お姉さまー!」
「話方、今また私を馬鹿にしたでしょう?」
「してません。していません。本当にしていません。痛いから!本当に痛いから!ほっぺに、ほっぺに骨が、お姉ちゃんの胸の骨が、グリグリあたって痛いから!」
「ハアーーーン!なんですって!」
胸の骨が当たって痛いと言ったら、お姉ちゃんの怒気が増し締め付ける力が強くなった。
「まあ、シルバ。女の子にそんな風に言ってはいけませんよ。自分ではどうしようもなくて、どんなにあがいても、努力しても改善が出来ない、身体的特徴の事を言うのは良くありません!大体サティはまだまだこれからの人です。まだまだのはずです!」
痛みで苦しむ僕に、いつもは温厚なミューズお母さんがプンプンとお説教を始めた。お母さん、僕なんで怒られてるのか分からないよ。
「ムッ、お母さんのその言い方も、なんかムカつく」
お母さんの僕へのお説教を聞いて、何でかさらに怒るサティお姉さん。何で、朝からこんな目に。僕はただ大人しく読書を楽しみたいだけなのに。
「イタッ、痛い。胸が抉れてほっぺに刺さるー、イタタタタッタター!!」
「こら、ちゃんと聞いているのシルバ!抉れるなんて言ってはいけません!お姉ちゃんだって育乳を頑張っているのよ。毎日ちゃんと牛乳も飲んでいるし、マッサージだって頑張っているし、それにこの間だってルリちゃんとルカちゃんの下着を借りて一緒に・・・」
「お母さん、止めて、止めてよ。なんでそんな事知っているのよ!シルバの前で変な事言わないでよ。シルバ、聞くな!耳を塞いで、話を聞くなー!」
お母さんの話を聞いたお姉ちゃんは、慌てて僕のロックを外してお母さんに飛び掛かった。
必死に手でお母さんの口を塞ごうとするも、お母さんも中々に俊敏な動きを見せていて、お姉ちゃんを寄せ付けない。
ロックが外れ、痛みと酸欠から逃れるも、疲労困憊で力及ばず膝から崩れ落ちた僕は、2人の様子を静かに見守り、これ以上の争いに巻き込まれないようにと、静かに神様に平和の祈りを捧げた。
「あらあら、サティちゃんもお年頃なのね。あんなに三人で盛って、寄せて、色々試していたじゃない。フッフッフ、大丈夫お母さんも昔はね。それでお母さんのおすすめは乳、フガフガ」
「ギャー、言わないで、お母さんもう何も言わないで! シルバ絶対聞くな、耳を塞いで絶対に聞くな!」
「まあまあ、サティちゃん。そんなに恥ずかしがらなくても。今度二人で豊乳ブラ、フゴフゴ」
「お母さん、もう辞めてよー!」
「だから、シルバも頑張り屋さんでいじらしいお姉ちゃんを、虐めては駄目よ、フゴフゴ」
「えーん、もうヤダー!」
時刻はまだ8:00前、刺激的な一日は、まだ始まったばかりだ。
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