動き出した時間
「あんた、本当に信じられないわね!私が倒れている隙に、彼女作るなんて。悲しい、お姉ちゃんとっても悲しいよ。大好きなお姉ちゃんをほっといて、・・・って可愛いくないこの子?・・・可愛いわよね。すっごく可愛いわ。あなたアリスって言ったわよね?」
「はい、アリスです。幽霊やっています。先ほどは怖がらせてしまってごめんなさい」
「すんだことはもういいのよ。私はシルバの姉のサティよ。よろしくね!」
「はあ、宜しくお願いします」
「あなた、本当に可愛いのね。でもなんで触れるのよ。だって幽霊でしょ」
「一時的にマナの力を使って実体化しているだけなので、あと少しで霊体に戻ってしまいます」
「へー、そうなんだ。難しいのね。それでこれからどうするの?家壊れちゃったんでしょ?行くところあるの?」
「いえ、行くところなんてありません。・・・また、何処かに彷徨うと思います」
「あなたみたいな可愛い子が1人なんて、とっても危ないじゃない。こんなに可愛いんだから攫われたらどうするのよ。・・・そうだ、あなた、行くとこないのなら家に来なさいよ。歓迎するわよ、私は貴方みたいな可愛い妹が欲しいと前々から思っていたのよ」
「サティお姉ちゃん、それいいね。ねえアリス、僕たちと一緒に来ない?僕の家で一緒に暮らそうよ」
「シルバ、あんたが言うといやらしく聞こえるのは私の気のせいかしら?」
「私はシルバのことを信じているよ」
「ん、エッチは確信。下心満載」
「シルバ君あなた!どうしてあなたは、お嫁に行けなくなった私の前で、違う女に同棲しようって声をかけちゃうのよ!さっきお説教したばかりでしょ!」
「オレもシルバとの同棲には興味があるかな」
「先生、それはそれ。これはこれです。アリスは何と言うか、先生と違って違う意味でも特別ですから」
「な、な、な、ななななな・・・」
これが私の目の前の光景。騒がしくて騒々しい人達。
シルバと出会って、私の前で、新しい未来が花開いていく。今までの不幸を忘れさせてくれるくらいの幸せが今押し寄せている。
初めて会って、まだ数時間しかたっていないのに、私の心の真ん中に住み着いた不思議な少年。今、ここにいる人達全員の中心にいて、慕われていて、愛されている、不思議な少年。
シルバと出会って、止まっていた私の時間が動き出した。
私の名はアリス。幽霊をやっています。百年以上前になると思うけど、私は9歳の時に、1人でお家でお留守番をしていたら、知らない人に殺されて井戸に捨てられた。
今でいうと通りすがりの殺人犯になるのかな?悪戯をされなかったのが、唯一の幸い。当時はお父さんお母さん、そして妹のマリーと弟のリク、家族5人で暮していた。
友達の中でも一番仲が良かった魔兎族の友達ミミちゃん。毎日私と遊んでくれていたから、あの時は一緒居にいなくて、本当に良かった。
目を覚ましたのは、星が綺麗に見える井戸の中。私は冷たい水に浮いていた。
井戸の中は暗くて、冷たくて怖かった。私を探すミミの声も聞こえた。でも、私はお腹から血が沢山出ていてとっても痛かったし、体は寒いし動かないしで、声も出せなかった。本当はね、ここだよ。ここにいるよって言いたかったんだ。
お父さん、お母さん、マリー、リク、早く迎えに来てッて。
はっきりと覚えているのは、井戸から見えた星。迎えを待っている間中はずっと星を見ていた。一番明るく光るシリウスに、青白く光るリゲル。そして反対側には赤く輝く私が大好きな星ペテルギウス。その他にも、プロキオン、カペラ、アルデバラン、ポルックス。お星さまはみんな綺麗だったな。
寒くて、水が凍って、体も凍って水に沈み始めても、夜空の星は、みんな輝いていたな。
みんなに、早く迎えに来てほしかった。眠いし、疲れたし。でも、誰も来なかった。誰も見つけてくれなかった。
だから、私は井戸の底で、眠ってしまった。
目が覚めたら、春だったわ。驚いた。私はどれだけ眠っていたのよって。幸い井戸の底から外には出ていたからで、急いで家に帰った。ずっと眠って家に帰れなかったからみんな心配してると思って。
帰ったらお葬式をしていた。私のお葬式。
私、死んじゃったんだって。その時初めて理解することが出来た。
お父さん、お母さん、マリー、リク、友達のミミ。他にもたくさん人がいて、みんな泣いていた。井戸の水の中で凍っていて、ずっと見つからなかったんだってさ。
どおりで、私が話しかけても、誰も答えてくれない訳だよね。
そうか、死んじゃっていたのか。・・・これから、どうしようかな?
そう思った。
私は、家族と一緒に居ることにした。私が見えなくても、分からなくてもいいから、一緒に居たかったから。
お父さんとお母さんは、私が死んだ時に着ていたお気に入りの白いワンピースを形見にとっておいてくれたから、もっとも、ワンピースは私の血で真っ赤になってしまっていたけれど、それに憑いて家にいることにした。
時間って残酷よ。わたしだけ年を取らないの。信じられる?
私が死んでから8年過ぎた時に、お父さんが死んじゃった。私と同じく死んじゃったのに、お父さんには会えなかった。悲しかったな、また一緒になれると思っていたのに。
お母さんは頑張ったんだよ。マリーがお嫁さんになって、リクが成人して家を出て行くまで、がんばっていた。お父さんが死んでから10年とちょっとの間、1人で毎日頑張っていたんだ。頑張り過ぎで病気で死んだんだ。
家族が誰もいなくなって、住む人がいなくなった家。寂しかったけれど、思い出が沢山あったから私は変わらずにそこにいた。
でも、知らない人たちにお家壊された。やめてって何度も何度もずっとずっとお願いをしたんだけれど壊されちゃったんだ。
仕方ないよね、私は死んでるのだから、見えないし、聞こえないよね。
私は住む家を失い、家を壊す時に捨てられた赤いワンピースだけをもって、彷徨い始めた。
そこからは、色々あったのよ。彷徨っては嫌われて、彷徨っては怖がられて、ホント、生きている人が嫌いになるくらい、妬ましくなるくらい色々なことがあった。
色々と経験を積んで力も付けた。力がなければ存在できなかったから。
でも、今はその悲しい時間はシルバに逢うためだったんだって思えるんだ。
私が生きていればシルバには逢えなかったし、彷徨ってこの村に辿り着かなければシルバに逢えなかった。
痛くて冷たくて孤独で、辛くて苦しくて、悲しくて寂しくて、惨めでなければ、シルバには逢えなかった。
今のシルバを見ていると、そう思うんだ。
「何てことを言うのよシルバ君!それとかこれとか言われたら、私が興奮するの分かっているでしょ!どう、責任取るつもりなのか詳しく説明しなさい!お話し次第では、お嫁に行くことも考えますからね!」
「先生、結婚するんですか?おめでとうございます。結婚式には呼ばないで下さいね。遠くから幸せをお祈りしますから」
「な、な、な、ななななな・・・」
「シルバ。ヘスティア先生の話をちゃんと聞いてた?先生の言ってる意味わかってる?」
「ん、およめさん」
「オレがお嫁さんか・・・」
「あんたたち少し静かにしなさいよ。私が可愛い妹のアリスと話をしているんだから。・・・アリスごめんね。みんなうるさくて。最近はいつもこうなのよ。そして、こんな時は必ずシルバが原因ね。アリスもシルバになにかされそうになったら私に言うのよ。お姉ちゃんが守ってあげるから」
シルバが愛すものは私も愛そう。シルバが拒むものは私も拒もう。
「アリス、もう家に帰ろう。新しいアリスの居場所、僕の家に」
シルバが私に一緒に帰ろうと手を差し伸べてくれた。
差し伸べてくれたんだ。私に。
それが、とても嬉しい。とっても、嬉しい。
私は、「うん」と頷いて手を握り返した。
私は絶対にシルバの手を離さない、いやシルバからもう絶対に離れない。
再び動きだした、私の時間。
私は手をにぎり返して、今自分に使える最高の愛と力で・・・・・・、
シルバの背中に全身全霊、憑依した。
絶対に、絶対に離れないように。
シルバを愛せるように。
温かい、温かいよ。シルバ。
本当にありがとう、シルバ。
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