"Vial"
『魔法の薬は、本当にこんな手順で作られるんだな』
僕は煮える釜の中身を覗き込みながら、そう思っていた
釜の中では青紫の液体が、それまでの人生で嗅いだ事も無いような臭気を発しながら、幾つもの泡を浮かべてて居る
材料集めは僕も少し手伝ったけど、素材となったのはここで記す事すら憚られる様な物ばかりだ
魔女は欠けた歯を隠しもせずに笑みを浮かべると、「これでお前のお兄ちゃんの病気も、治ったようなもんさ」と僕に言った
そしてレードルで出来上がった薬剤を掬い上げ、瓶に容れて僕へと手渡してくる
『詰める際に手に付いちゃっても平気なのかな』と思ったが、僕は笑顔を崩さずにそれを受け取るとバッグに詰めた
………残念だけど、もうこのバッグは帰ったら捨てる事になるだろう
「ありがとうございます!」
礼を言いながら、僕は魔女を釜に突き飛ばした
魔女は僕の行動が意外だったのか、瞳を視開いた驚愕の顔のまま釜に落下し、この世の出来事とは思えない聞くに堪えない悲鳴を上げた
悲鳴は数分にわたって続いたが、部屋にあった箒で魔女の頭を押し込んで薬液に頭まで漬けると、それも少しずつ静かになっていって最後には消えた
「やはりか……」
釜にぺたぺたと触り、火がとっくに消えている事を確認する
いま魔女が死んだのは、火傷によってでは無い
念の為、レードルで薬液を掬って窓辺の鉢植えにかける
魔女が大切に育てていた鉢植え
名も知らぬ毒々しい花は、視るも無惨などろどろの液体に変貌し始めた
花の総てが溶けるまで、僕は興奮と共にそれを視守って居た
お兄ちゃん
僕の大好きなお兄ちゃん
重い重い病気になった、僕の大切な兄
直ぐにこの薬を飲ませてあげよう
僕は無辜の少年としてそれを行うんだ
罪なら魔女が被ってくれる
絶対に薬液に触らないようにミトンで両手を包むと、僕は薬瓶を持ち、居ても立っても居られなくなり魔女の家を飛び出した




