アンケート
朝のニュース番組の占いコーナーを見たら、自分の星座が最下位だった。くだらない。占いなんて根拠のないものを、テレビで堂々と放送していいものだろうか。朝から最悪な気分になった。
家を出ると、前を歩くサラリーマンが歩きタバコをしていた。煙が顔にかかって不快だった。
電車は満員で、駅員に押し込まれた挙句、誰かに足を思い切り踏まれた。
近くに美人がいたのは良かったが、触りたい衝動を抑えるのが大変だった。
会社では、上司にデスクまで呼ばれ、営業成績の件で延々と説教された。同僚たちの前でだ。晒し者もいいところだった。
昼休みに外でガムを踏んだ。
コンビニで、レジの客の会計が遅かった。
夜なのに、近所の子供の声がうるさい。
帰宅後、テレビをつけてバラエティ番組を見たが、つまらないタレントがギャーギャーと騒がしく、不快だった。
そもそもどの番組も面白くない。
どこかの家のオヤジのバカでかいくしゃみが聞こえてイライラした。
「……と、こんな感じに、こっちの紙にも書いておいたが、これでいいのか?」
「はい、結構でございます。ご協力、誠にありがとうございます」
玄関前、スーツ姿の男は深々と頭を下げ、渡した紙を丁寧に受け取った。この男は先日、自宅を訪れて、アンケートの協力を頼んできた。彼は面倒だと思ったが、話を聞くうちに興味が湧き、さらに謝礼がもらえると知り、快く引き受けた。
そして今日、約束通りこの一週間の生活で感じた不満をぎっしり書き連ねた紙を用意した。不満が多ければ多いほど、謝礼が増えるというので、張り切って十数枚にも及ぶ内容を書き出したのだ。
「では、こちらが約束の謝礼になります」
「どれどれ、ほうほうほう。いやあ、助かるなあ。おかげで不満を見つけるのが楽しくなってきたくらいだよ。発想の転換ってやつだな。それで、今週もまたやろうか?」
「申し訳ありませんが、一種につき一回限りのお願いでして」
「ふーん……この不満も書いていいか? ははは! 冗談だよ。まあ、アンケートっていうのはそういうものだしな。ところで、これってなんのアンケートなんだ?」
「皆さまにとって、より住みよい世界を作るための参考にさせていただきます」
「ああ、ついに市長がやる気を出したか。市政改革ってやつだろう? ぜひ、また他の種類のアンケートがあれば協力させてくれよ」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします」
男は再び深々と頭を下げ、ドアが閉まると、手にしたアンケートをじっくり眺めた。
「ふむ……人間は互いに不満を抱いているようだ。他の生物たちのアンケート結果次第では、やはり人間を消すことが最善の選択肢になりそうだな」
男は背中から白い翼を広げると、あっという間に大空へと舞い上がっていった。