6.花見の後
6.花見の後
駅周辺の店は、花見の後に流れてきた客でどの店も混んでいた。
居酒屋はもちろん、喫茶店やラーメン屋までいっぱいで店の外まで並んでいるところもあった。
「今日は、この辺、どこもこんなだろうね」
「そうだな。 仕方ないから並ぼうか? 二人なら割と入りやすいだろう」
良介と純は地酒が売りの居酒屋に入ることにした。
不忍口の方へ出た志田たちは湯島のクラブへ行くためにタクシーを拾おうとしていた。
「何人いるんだ? ヒー、フー、ミー・・・ 8人か。 2台で行けるな。 場所は分かるだろう? じゃあ、あれら先に行くから、日下部お前残りの連中連れて来てくれ・・・ あれ? 日下部はいないのか?」
「朝、場所取りで早かったから疲れたんだろう。 いないもんは仕方ないからとっとと行こうぜ」
井川はそう言ってタクシーを止めた。
「ほら、先発隊行くぞ」
店の待合スペースに並んでいると、店員が人数を確認しにきた。
やはり、花見帰りの4~5人のグループが多く、まとまった席が空いていないようだ。
「そちらお二人様ですか?」
「はい」
「禁煙席で宜しければご案内致しますが」
「いいですよ」
良介が答え、先に店内へ入ることができた。
「良ちゃん、いいの?たばこ」
「大丈夫」
二人が案内されたのは窓際の席で、衝立が立ててあり、半ば個室のような作りになっていた。
「いいじゃん」
「そうね」
湯島のクラブはすいていた。
志田たちが来たので、一瞬で小林商事の貸し切り状態になった。
名取は席に着くなりメールを打ち始めた。
“日下部さんお疲れ様です。今どこですか?”
すぐに返信があった。
“上野の居酒屋”
名取は、この店が年増のホステスしかいないことを知っていたので、あまり来たくなかったのだが、駅前で捕まってタクシーに乗せられてしまった。
当然良介も一緒だと思ったのに姿が見えないので確認したのだ。
“そっちは誰がいますか?”
また、すぐに返信があった。
“純と二人だけ。だから、邪魔するな。そっちはそっちで楽しんでくれ”
良介は携帯を閉じるとポケットに突っ込んだ。
しばらくすると、オーダーした日本酒の純米酒が運ばれてきた。
純は生グレープフルーツサワーを注文していた。
「じゃあ、お疲れ!」
「おつかれさま!」
名取は、良介に裏切られた気分になり、やけくそでカラオケを歌っていた。
この店では普段かかることのない珍しい曲に豊島のホステス達は大喜びだった。
しかし、いくらもてはやされても、おばさん相手じゃ面白くも何ともない。
そうやって、しばらく一人で歌いまくっていると、今日子が終電の時間だと言って席を立った。
今日子は名取と同じ駅だったので、これ幸いと名取も一緒に店を出た。
「名取さん、ずいぶんカラオケが好きなのね」
「いや、ヤケクソで歌ってただけですよ」
良介は純米酒を2杯、純は生グレープサワーを1杯飲んで店を出た。
「そろそろ電車がなくなるな」
「そうね。 また誘ってね」
二人で上野駅まで歩いて、良介は純が電車に乗るのを見届けて、反対側のホームへ移動した。
家に帰ってくると、そのまま上着とズボンを脱いで床に転がった。
「めでたし、めでたし・・・」
そう呟いて目を閉じた。