5.消灯
5.消灯
宴会場は何事もなかったように盛り上がっていた。
少し風が出てくると肌寒くなってきた。
今度は、社長の志田がゴミ袋を取り出して、底の方をカッターナイフで切り始めた。
それをベストのように頭からかぶり、防寒着の代わりにした。
「ほら、こうやると寒くねえよ」
そう言ってみんなに進めた。
そして、自らもう一つ同じものを作ると横に座っていた経理部の須藤今日子の頭にそれを被せた。
今日子は仕方なく手作り防寒着を着用した。
「純ちゃん達もどうだ?」
純は首を横に振って「結構です」と断った。
知美と優子も「寒くない」と遠慮した。
すると、恭子が恨めしそうな顔で三人を見ていた。
「須藤さん、かわいそう」
そういいながら、三人の目が笑っているのを恭子は見逃さなかった。
寒くなってくると、ビールの売れ行きが悪くなった。
とは言え、もう何本も残っていなかったが。
こうなると、皆、こぞって“燗番娘”に手が伸びる。
この酔っ払いどもはそこまでしてまだ酒を飲むのか・・・
隆も優子のそばに来て、今度は女性陣に根掘り葉掘り聞かれている。
しかし、今度は、先ほどと違ってすごく楽しそうだ。
8時を回ると、提灯の明かりが半分消される。
少し薄暗くなって、これもまた風情がある。
廻りの花見客は、これを合図に少しずつ片付け態勢に入る。
良介たちの周りも席を立つグループが多くなってきた。
翌日の花見のために徹夜で場所取りに来ている若い連中が寝袋を抱えてやってきた。
良介は、彼らに、残った酒とつまみがテーブルの下にあることを告げ引き渡した。
「さあ、それじゃあ、そろそろ我々もお開きにするか」
志田の掛け声に皆頷いた。
「じゃあ、幹事、締めるべ」
「それではみなさん、今日はお疲れ様でした。 麻田部長、八田さんを頼みますよ。 同じ方向に帰るんですから! そして、秋元さん、中江さんの荷物を忘れないで下さいね。 では、盛大に三本で締めたいと思います。 それでは、皆さんの手を拝借! よ~っ・・・」
帰るとなったら、支度は早い。
皆、自主的にゴミを片付け始める。
「じゃあ、お疲れ」
そう言って、荷物を持ち、靴を履き始めた。
「あれっ? 俺の靴がないぞ。 誰か間違えてねえか?」
秋元が辺りを捜しながらうろたえている。
「ここにありますよ」
純に言われて確認する。
「違うよ、これ俺のじゃないんだよ。 誰か間違えてないか?」
秋山がそう叫んだので、皆、自分の靴を確認した。
誰も間違っていないようだった。
「と言うことは・・・」
「そうだ! 中江さんじゃない?」
「か~、あのクソオヤジ! 勘弁してくれよ」
「でも、裸足で帰らなくて済んで良かったね」
「ちっとも良くねえよ!」
秋元は中江の鞄を地面に投げつけようとしたが、純がそれを制止しなだめた。
「お~い、早く来いよ。次行くぞ!」
志田が、二次会へ行くメンバーを募っている。
志田が行くのは湯島のクラブだ。
秋元も、仕方なく中江の鞄をぶら下げて後に続いた。
「さて、優ちゃんたちはどうする?」
「私たちは、ちょっと二人っきりで・・・」
「OK! がんばれよ」
「私も失礼します。」
「そう、じゃあ、知美さん気を付けてね」
「良ちゃんは行かないの?」
「ああ! ばあさんばっかりで面白くないから。 あれ? 須藤さんは?」
「社長たちについて行きましたよ」
「そうか。 どうする? ちょっとだけいい?」
「はい! 責任取ってくれるなら、何時でも」