2.会場のセッティング
2.会場のセッティング
会社に戻ると社長の志田が良介に声をかけた。
「おう、日下部、いい場所は取れたか?」
「バッチリですよ」
「そうか! じゃああとでどこらへんか教えといてくれや」
「はい」
良介は席に着くと、電話の受話器をとりボタンを押した。
「いつもお世話になってます。 注文いいですか? ダンボール15、6mmベニア2枚、ガムテープ3個、ブロック6個を上野公園まで持ってきてもらっていいですか?」
「今年もやるの?」
「もちろん! 何時頃いけます? 時間合わせて受け取りに行きますから」
「そうだねぇ、午後便の積み合わせになるから2時頃だね」
「了解! じゃあ、宜しくお願いします」
良介が仕事で取引している建築金物の販売業者は、少しの注文でも配達してくれる。
昼休みになると、良介は昼食を兼ねて御徒町まで出かけて行った。
駅前のスーパーで花見用のオードブルを予約すると、アメ横を通り抜け、上野に近い、廻るお寿司屋さんで昼食をとった。
そのついでに、5人前の皿を3皿注文した。
「じゃあ、6時頃取りに来ますからよろしくお願いします」
続いて、公園口下にある100円均一のバラエティショップで、紙コップや紙皿、ほうきにちり取り、灰皿、ティッシュ、クッション、ごみ袋、靴下、タオル・・・ 大きな袋に二つ分ほどの買い物をして上野公園へ向かった。
花見場所に着くと、若いガードマンは真面目に本を読みながら、シートの真ん中に座っている。
良介が声をかけようとしたら、若いガードマンは、良介とは逆の方を向いて立ち上がり、手を振り始めた。
しばらくすると、若い女性が駆け寄ってきた。
どうやら、良介の言葉を真に受けて、彼女を花見に誘ったらしい。
「よう! やるじゃないか」
良介に声をかけられると、彼はビクッと肩を震わせて振り向いた。
「あっ、ご苦労様です」
慌ててそういうと、敬礼のポーズをとりながら、彼女を自分の後ろに隠そうとジワジワと動いている。
「彼女のことなら気にするな。 場所だけ確保してくれれば、あとはなんでもいい」
彼は恐縮しながら、良介に彼女を紹介した。
その時、ちょうど良介の携帯がなった。
「了解。 いつものところまでですね」
良介は電話の相手にそう告げると、携帯を閉じてポケットにしまい、ガードマンと彼女を見た。
「ちょうど良かった」
良介は彼女に留守番を頼むと、ガードマンを連れて、韻松亭の前まで行った。
そこには、資材を積んだ軽トラックが止まっていて、運転手が窓を開けて手を振っている。
「日下部さん、悪い! 本当は場所まで運んであげたいんだけど、次の便が急ぎなもんで、すぐ出なくちゃなんないんだ」
「大丈夫だよ。若いのいるから」
良介はそう言って、若いガードマンを見た。
「こっ、これ運ぶんですか?」
「おう!」
良介はそういうと早速、ブロックを片手に2本ずつ挟むようにして掴み、4本のブロックを持ち上げた。
「まあ、無理しなくていいから」
そう言って、さっさと運び始めた。
若いガードマンも、良介の真似をしてブロックを持とうとしたが、手の握力だけで2本のブロックを持つことはできなかったので4本重ねて運んだ。
良介はブロックを重石代りにシートの端に並べると、段ボールの箱を組み立て始めた。
ガードマンと彼女も手伝った。
続いて、ベニア板の上に6個並べてガムテープで止めて行った。
それをひっくり返すと、テーブルができた。
同じ要領で2台のテーブルを作った。
ガードマンの彼女は、感心して手を叩いた。
「すごーい! テーブルだ」
周りで場所取りをしている他のグループや、既に宴会を始めている連中も、良介の様子を見ながら感心している。
「あそこ、なんかすごいよ」
そんな声が聞こえてくるのが、良介には快感だった。
更に、ベニアの縁にガムテープを貼っていく。
「今度は何をしているんですか?」
ガードマンの課の時は、良介がやることなすこと、興味津々と言った感じでいろいろ質問してくる。
「ベニアの縁って、ささくれで手を怪我するから、そうならないように養生してるんだ」
「へー、そこまで考えるんだ。 すごいね」
これで完成だと思ったら、今度はテーブルの足代わりに使っている段ボール箱の側面にカッターナイフで切り込みを入れ始めた。
「あれっ、どうして切っちゃうんですか?」
良介は切った部分を扉のように開いて見せた。
「ほら、こうすると、この中に靴とかしまえるだろう」
「おー!」
ただ、シートが敷いてあっただけのスペースが、あっと言う間に小料理屋のお座敷風になった。
ここで、一旦、良介は買ってきた雑貨を置いて、再び会社に戻った。