9. 商店街って不思議ですわ!
「ベアちゃんは今日何が食べたい?」
狩人の目で魚を見ていたウメコさんが、急にいつもの優しい雰囲気に戻ってお尋ねになりまして。
困りましたわ。私、こんな魚見たことありませんから、味など想像できるわけもなく……。
「ん? ああ梅子さん!! お買い物?」
「あら勝子ちゃん。そうなのよ。お夕飯を何にしようか迷っていてね」
「だったらうちのメンチカツなんてどうです? 今日は20円引きですよ!」
迷っているところにやってきたのは、随分と体格がよろしくてふくよかなご婦人。なんというか、こう、パツンとしていて、腸詰めのような方。髪を頭の上で一つにまとめていて、エプロンには肉屋の佐藤との文字と豚の絵が。
「んじゃ、うちは特別に30円引きだ!」
「あらまぁ、太っ腹ねぇ」
「えぇ!? じゃあおまけに唐揚げ一個つけますよ!?」
「あらまぁ、素敵ねぇ……」
魚屋のおじ様と肉屋のおば様の睨み合いが続きまして。それを制したのはウメコさんの一言でございました。
「ベアちゃん、おやつ食べない?」
……こうして、カレイの煮付けは夕飯に。メンチカツとやらは私のおやつとなりました。
肉屋のおば様は、どうやら魚屋のおじ様に両替を頼みにきたところだったらしく。カレイという魚を買って、一緒に肉屋へ。
「梅子さんが外国人連れてるなんて思わなくて通りすがりの観光客かと思ってたわ! 日本語ペラッペラでもうびっくり!」
とバシバシと背中を叩いては、快活に笑いながら奥へ入って行きました。
思わずお店を見回しますと、半分屋台のようになっていて、ドアはなく。ショーケースの中にはお肉の塊が。その上にはなにやら茶色の楕円形のものが置かれていて。
「はーい、お待たせ! 揚げたてだから気をつけてね!」
不思議な構造に気になっているうちにおば様が戻ってこられまして。手には袋に入っている上にあったものと同じものが。
「え、ええ。どうもありがとう存じますわ」
……あ、温かい。紙の袋越しでもざらざらしているのがわかりますわ。これを、どう食べればよいのです? やはりおにぎりのようにかぶりつくので?
「ほら、ガブっと!」
ああ、やはりそうなのね。
……私は立派な異世界人になるのですわ。この程度造作でもないことで……じゅわ???
「ど? おいしい?」
ジュワッと溢れた肉汁。甘い玉ねぎ。この謎のサクサクした食感も軽やかで……。
「おいしいですわ……!」
今までも驚いてばかりでしたが、やはり異世界、恐ろしいですわ!! 便利すぎますし、おいしすぎますの!!
にっこりと笑顔になられた肉屋のおば様が思いついたように奥からなにやら黒いボトルを持ってきまして。
「そりゃよかった!! ソースもかけてみたら!?」
と渡されたので、黒いような茶色いような謎のソースをかけてみれば……この!! 独特な酸味とコク、旨みは一体……!
「……美味!」
おまけとやらの唐揚げも衣?がカリッと、鶏肉がプリっとしていてとても美味しく。あまりのおいしさに悶絶していたのでした。
「さて、後は八百屋さんでトマトとネギと……。じゃあ、またねぇ勝子ちゃん」
「また来てくださいねぇ〜」
その会話にハッとして、咳払いで緩みに緩んだ顔を戻し、侯爵令嬢としての矜持を保ちつつ、また買い物を続けまして。
カエルの置物や青白赤のポールなどなど謎のものがたくさんありますわ……。
オレンジ色の象の置物は化け物ではなくキャラクターで、青白赤のポールは回っていて伸びているように見えるだけだなんて、衝撃的なことも教えていただきました。
「ここが八百屋さんよ」
何を売っているのかと思えば野菜で。
やはり商店街は不思議ですわ……。
なんて半ば放心している間に、買い物を終えたらしいウメコさん。
「じゃ、次はスーパーかしらね」
ス、スーパーとは?
読んでくださりありがとうございます。
ブックマークしていただけると飛び跳ねます。
評価、コメント、ツッコミなどなど励みになります。