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2. 失恋にKP!


「そんでどうしたん? 顔ひどいことになってるよ。メイク直してもいい?」


 私よりも低い身長なのに、少々背伸びをして見上げてきまして。


「わ、私は、その……」

「んーーいや、タンマ! 立ち話もなんだし、ちょっとついてきて」


 見ず知らずの人について行っていいのかしら。でも見た目の割に親切そうですし。

 何もわからない世界では、判断できず。おいでおいでと手招きされたので、とりあえずついていきます


「あ、そういや名前も言ってなかったじゃん。あーしは七瀬! ナナって呼んで!」

「……私はベアトリス・バーナードですわ」

「じゃ、ベアね!」


 そのまま分かれ道を右に、次は左へ、少々細い路地を歩いて、ほんの数分も経たずについたのは、小売店のような家。看板には……ツネダ商店と書かれている。


「こっちこっち!」


 どうやら顔見知りのお店らしく、近場でメイクを直せるところ……と考えた結果ここになったのだとか。

 横の空き地には、黄色い箱のようなものと、黒い板のついたローテーブルが。ナナさんが黄色い箱に座って……座れますの、そこ。


「……やっぱちょっと、待ってて!」


 座ったばかりだというのに、たっと立ってお店の中へ入って行ってしまったナナさん。ポツンと残された私のすることといえば、郷に入っては郷に従えと先人が仰ったように、おとなしく座るしかなく。低くてゴツゴツしてますけども……座れないほどでもありませんわね。


「ほい、ラムネ。冷たいから目元冷やすのにチョードいいんじゃね?」


 渡されたのは奇妙な形の瓶。透明なのに水色がかっていて、中には泡立っている水が。

 飲み物なのでしょうけれども……言われた通り冷やそうと目元に当てます。冷たくて気持ちがいいわ……。


「んでどったの? ユーは何しにニッポンへ? なんちゃって!」

「わ、わたくし、は……」


 何から話せばいいのかしら。あの聖女はトラックとやらに轢かれたらここに来たと話していたわね。私の場合は……。


「殿下に婚約破棄、されて」

「……婚約ってやっぱお嬢様!?」

「ええ、侯爵令嬢ですわ」


 「ヤバい」やら「マジで」など仰っているナナさん。よくわからない上に反応が少々オーバーな気もしますが……全く別の世界ですものね。


「えーなんで婚約破棄(?)されちゃったの?」

「異世界より現れた聖女を、害したから、だと」


 私はただ、軽々しく殿下に近寄らないよう、婚約者として……。


「害したって、いじめたってこと?」

「い、いじめだなんて! 殿下に近づいたあの女が悪いのです!」


 そう言うと顎に手を当てて悩み始めたナナさん。悩むほどでもありませんわよ。殿下も聖女も、私というものがいながら……。


「うーん、略奪女にやり返してたら、逆にくっつかれて悪者にされた系か! この間モエカがされて泣いてたわ。マジムカつくよね」


 まるで自分のことかのように怒っている様子に、少し溜飲が下がった気がしました。

 こちらの世界でもあることなのね。


「んで何してやったの?」

「別に、サロンに招待しなかったり、ワインをかけたくらいですわ。あの身の程知らずときたら、王家主催のパーティーで殿下と踊りましたのよ!?」

「うわ異次元だわ。さすがお金持ち。ハブいたり色々したんだ。それはいじめかも」


 大袈裟ですわ。こんなの貴族社会では常識だというのに。……いえ、待ってちょうだい。聖女はこちらの世界から来たのだから、ナナさんと同じように、そんなことわからないわ。


「……ねぇ、本当にいじめですの?」

「うん! 派手にやったねー」


 ジゴージトクだけどさー、とカラッと笑ってそう仰るナナさん。

 もしかして私、酷いことをしてしまったのかしら。いいえ、こちらの世界にきたのなら、こちらの世界のルールに従うべきよ。でも、そのルールは誰かが教えなければ……。


「なんかサガっちゃった!? ……まあさ、もう終わったことじゃん! ラムネ貸してよ、開けたげる」

「あ、ありがとうございますわ」


 ぺりぺりと包装を取って、キャップを分解すると、手のひらでぐっと押して。カコンと、涼しげな音がしました。

 ああ、私も、自業自得だったのかもしれませんわね。


「ええと、失恋にKP!」

「け、KP?」


 カツンとラムネをぶつけて乾杯を。失恋したのに乾杯だなんて……でも、なんだか、不思議と軽くなった気がしますわ。メイクもささっと落としていただきました。


「よし、これでさっぱりじゃね!」

「千代子ちゃーん、おつりを忘れてるよ」

「う、ウメコさん今その名前で呼ばないで!!」


 その声と共にお店から出てきたのは……小さいお婆様?


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