第19話 攻撃開始
フレイハート家の城にある会議室は、緊張感に包まれていた。
長いテーブルの中央には地図が広げられ、赤い印がいくつもつけられている。
それらは領地内の村々で、最近になって盗賊団の襲撃を受けた場所であった。
当主であるエドガーは、腕を組みしながら険しい表情で地図を見つめていた。
その時、会議室の扉が突然開くと、リサが入ってきた。
「お父様、私も討伐の兵に加えて!」
彼女は真剣な眼差しで、エドガーの前に立って言った。
しかし、彼は重々しく頭を振った。
「リサ、お前が行く必要はない。我らの兵で十分だ。それに盗賊団に対しては、王立騎士団がすでに部隊を派遣したそうだ。それと我々の兵を合流させる予定になっている」
「王立騎士団……じゃあ王国もすでに事態を把握しているのね?」
「そうだ、奴らは我が領地だけでなく、王国内の各地を荒らし回っている。国王はこれを危惧して、王立騎士団による掃討を命じられた。だから、わざわざお前が行かなくとも、奴らの運命はもう決まっている」
「違う、そうじゃないの!」
リサは一歩前に出て、強く訴える。
村で遭遇した、信じがたい驚異的な事実を。
「この盗賊たちの背後には奴らがいる!」
「奴らだと?」
「実際に遭遇して、直にやり合ったの。人間の域を超えた、強力な闇魔法の使い手だった」
リサの突然の訴えに、エドガーは困惑した。
「その闇の力で盗賊たちを操っている。それに強力な魔物も召喚してきた。私たちが相手にしているのは、闇の勢力そのものなの!」
「そんなことが……目覚めたというのか、アビスの者たちが⁉︎」
「ええ、間違いない。だから、私の力がきっと役に立つはず。フレイハート家の炎の力は、奴らに対抗出来得る。それが実感で分かった」
エドガーはリサの訴えを受けて、しばし考え込んでいた。
「リサ、それでもお前を行かせるのには反対だ」
「な……何で⁉︎」
「確かにお前の魔力は強力だ。十分な戦力となり得る。しかし一家の末娘に、最も危険な役割を回すわけにはいかん」
「何言ってるの⁉︎ 私たちにアビスの者に対抗する力があると教えてくれたのは、お父様じゃない。誰かがやらなきゃいけない。それなら、私が行かないでどうするの⁉︎」
少し間を置いてから、彼は再び口を開く。
「襲撃された村で人々の亡き骸を見たとき、お前は何を感じた?」
「何それ」
「いいから答えなさい」
「……悲しみや嫌悪や絶望や後悔や怒りよ。それが何?」
「それが、親しい人を失うということだ。もしお前に何かあれば、家族はどう感じる?」
「それは……」
リサは一瞬たじろいだ。
しかし、引き下がりはしなかった。
「けど、放っておけないでしょ。奴らを、野放しにしたまま何もしないなんて、そんなこと私には出来ない!」
「やれやれ、相変わらず一度言い出したら聞かんな」
エドガーは深いため息をつく。
「とにかく、お前を兵に加える気はない。この話はこれで終わりだ」
「もう、いい!」
そう言うと、彼女は会議室を飛び出して行った。
◇◇◇
夜が明け、朝の光が大地を照らし始める頃、王立騎士団のキャンプは静けさに包まれていた。
焚き火の煙が薄く立ち昇っている。
その時、遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。
レオンは立ち上がり、周囲を見渡し音の方向に目を向ける。
「来たか」
彼は低くつぶやいた。
馬のいななきと共に、兵たちが隊列を組んで進んでくるのを確認した。
風になびく旗にはドラゴンが描かれており、それはフレイムハート家の紋章であった。
朝の陽光を受け、彼らの鎧や武器が輝いている。
兵士たちは整列し、フレイムハート家の部隊を迎える態勢を取る。
兵たちが近づくと、その指揮官と思われる人物が馬から降り、レオンの前に歩み寄った。
「王立騎士団の御一行とお見受けする。我々フレイムハート家の兵も、当主の命を受けこの討伐に加勢するために参った」
その呼びかけに、レオンは返答を返す。
「歓迎しよう、フレイムハート家の兵たちよ。我らの敵と共に戦おう」
挨拶が済むと、フレイムハート家の兵たちは整然とした動きでキャンプに加わり、王立騎士団と合流した。
すぐに共同での作戦会議が始まる。
両軍の戦士たちは情報を共有し、作戦の最終調整に取りかかった。
「状況はどうですか?」
フレイムハート家の指揮官が尋ねた。
レオンは地図を指し示しながら答える。
「盗賊団の拠点は、ここです。数は恐らく数百といったところでしょう。これから奇襲による総攻撃を仕掛け、一気に制圧します」
「了解しました」
指揮官は頷いた。
それから作戦の詳細に関して、レオンは伝えていった。
「ところで、今回の作戦が終わりましたら王立騎士団を代表して、ぜひ一度フレイムハート家まで直接お礼を申し上げに行きたいのですが?」
レオンがさりげなく話題を振った。
「それは、特に問題無いと思います。私の一存で許可を下せるものでは無いですが、当主がその申し出を拒むことは恐らく無いでしょう。今回の討伐を共に戦った仲間でありますから」
「それは良かった」
「隊長殿はとても律儀な方でおられる様ですね。何ならその旨、私から書簡で送っておきましょうか?」
「おお、本当ですか。それはありがたいです。ぜひお願い致します」
「承知しました」
盗賊団の拠点は、森の奥深くに隠れるように存在していた。
そに周囲は高い木の柵に囲まれ、外部からの侵入を遮る防壁となっている。
内部には建物がいくつか建てられ、各所には見張りがいて常に周囲の動きを監視していた。
そして、攻撃は静かに始まった。
まず、一人目の見張りが倒れた。
騎士の一人が音も無く近づくと、背後から首をナイフで切り裂き、声を上げる間もなく静かに息の根を止めたのだった。
次に、別の騎士が二人目の見張りに忍び寄った。
彼は巧みに死角から近づくと、一瞬の間に背後から口を押さえナイフの鋭い刃を心臓に突き立てた。
見張りは何が起きたか認識する間もなく、その場に崩れ落ちた。
三人目の見張りは少し離れた位置にいたが、彼の運命も同じだった。
討伐部隊の騎士が矢を放ち、正確にその心臓を貫いた。
敵は声を上げることもなく地面に倒れる。
そうして、次々と拠点の見張りが倒されていった。
接近しての剣やナイフによる攻撃によってか、あるいは遠間からの矢を受けて、静かにそして速やかに無力化されていった。
彼らは叫び声を上げる間も、何が起きたか確認する間もなかった。
それらは訓練された者たちによる、手練れた襲撃であった。
拠点の門は、厚く頑丈な木材で作られており、その表面には鉄の補強が施されている。
外部からの攻撃に備えたものであろう。
生半なことでは、びくともしない様な頑強さを一目でわからせる。
すると、一つの人影が拠点の門の前へと立った。
それはレオンであった。
彼は剣を抜くと、静かに深く呼吸をする。
それから目を閉じて精神を集中させた。
その周囲の空気が一瞬静まり返り、まるで時間が止まったかの様な錯覚を感じさせた。
そして、打って変わって強烈な魔力が生じていく。
その波動が彼を包むと、激しく鋭い光と音の放電が起こる。
次にその力が、彼の腕を通じて剣へと集まっていく。
刀身が淡く青い光を放ち始め、その輝きは次第に強くなっていった。
彼は剣の切先を門へと向けて、体勢を低くする。
それから、溜め込んだ巨大な魔力を一気に解放した。
目が眩む様なまばゆい閃光が生じると、レオンの身体は砲弾の如く駆け抜けていき、凄まじい速さと衝撃と共に門へとぶつかった。
その瞬間、強固な木材と鉄で覆われた門が、粉々に砕け散った。
少し遅れて、雷の轟音が響き渡る。
盗賊たちの拠点を守る強固な門が、一撃で破壊されたのであった。
扉を破壊したレオンは、ゆっくりと構えを解く。
そして、剣を掲げながら味方に向けて突撃の指示を叫ぶ。
「進め!」
レオンの力強い声が響くと、討伐部隊は一斉に動き出した。




