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第16話 怒りの業火

リサは荒れ果てた村の広場で、凶悪な盗賊たちと対峙していた。

地面には無惨に殺された村人たちの遺体が、おびただしい数で横たわっている。


こちらに近づいてきた男は、斧を手にしていた。

その鋭い刃が冷たく光る。

彼の目に宿っているのは、脅しでも威嚇でもなく、本物の殺意であった。

しかしリサは、男を一瞥することもなく、相変わらずその場に立ち尽くしていた。


「お前、村人か? それにしちゃ小綺麗なナリしてやがる」


男の問いかけにも、リサは反応しない。

立ったままその場に固まっており、いまだ男の方を見てもいない。


「恐怖とショックでおかしくなったか? まあいい」


すると男は、手にしている斧を大きく振りかぶった。


「死ね」


そう言うと、何の躊躇いも無くリサへと斧を振り下ろした。

そこには、およそ人間らしい情や憐れみは無かった。


普通の村人の娘であれば、鮮血を吹き上げて斬殺されていたであろう。

しかしリサは、フレイムハート家の娘であり、特別な力を持って生まれた存在であった。


振り下ろされた斧は彼女の身体に到達せず、その寸前で停止していた。

まるで見えない壁に遮られているかの様に。


「何⁉︎」


切りつけた盗賊は、驚きの声を上げた。

そして気づくと、周囲の温度が急激に上がっていた。


「何だ、こりゃあ⁉︎」


すると、リサが動いた。

切りつけてきた敵の方を向くと、片手をかざす。

その手から、赤く強大な魔力が溢れ出す。

それによって周囲の大気は震え、景色が歪められていた。


「燃え尽きろ」


そう彼女は言い放った。

その目には、若い娘とは思えない迫力と凄みが宿っていた。

次の瞬間、彼女の手から凄まじい勢いで炎が放たれて、瞬く間に男を包んだ。

まるで地獄から呼び出された様な、紅蓮の炎であった。

およそ生きる者が近づいてはいけない、恐ろしく激しい業火である。


「ぐあああああ!!!!!」


その凄まじい熱によって、男は苦痛によるうめき声を上げた。

それはまさに、灼熱地獄で響いている様な叫びであった。

しかし、それもすぐに収まっていく。

あまりに激しい炎により焼かれ続け、男は声を上げることすら不可能になっていたからだった。

リサは表情一つ変えることなく、その様子を眺めていた。


◇◇◇


「失礼します、レオン隊長」


騎士の一人が、静かに部屋へと入ってきた。


「隊長宛のお手紙が届いていましたので、お持ちしました」


彼の手には、封蝋が施された一通の手紙が握られている。


「ああ、ご苦労」


そう言うと、レオンは手紙を受け取った。

そこは王立騎士団の宿舎の一室で、レオンは机に向かって座っていた。

窓から差し込む陽光が、彼の肩越しに部屋を照らしている。


「失礼します」


騎士が出ていくと、彼は封蝋を開けて手紙を取り出して目を通す。


「さすがエリック、相変わらずよく働いてくれてるな」


手紙には、最近のブラッドウィン家の動向が詳細に記されていた。


「奴らは相変わらず盛んに動いているようだな……」


王立騎士団としての任務も重要であるが、彼にとっての最重要事項は常にブラッドウィン家であった。

討伐部隊の出発を目前に控えている時でさえ、レオンはそれに関して余念が無かった。


——やはり、次に実施したいのはブラックマーケットへの潜入調査だ。


違法取引を行っているブラックマーケットの現場へと、実際に潜入するという計画であった。

先日の倉庫への侵入からも、奴隷取引に関しては、すでに噂から確信へと変わっている。


——その所在のありかをまず突き止めないとな。恐らく、ブラッドウィン家の領地内にある港町のどこかじゃないだろうか?


ブラッドウィン家の主な事業は海運業であり、奴隷を運んで取引するのにも港の方が都合が良いだろうと思われた。

また、自分たちの領地であれば、かなりの自由や融通がきく。

なので、その領地内の港町のどこかだと彼は睨むのだった。


——それから問題は、どうやって潜入するかだな。さて、どうするか。


すると、扉がノックされた。


「ああ、入れ」

「失礼します」


それから騎士が入って来る。


「レオン隊長、間もなく作戦会議室にて最終確認が始まります」

「ああ、わかった」


討伐部隊の出発が、明日に迫っていた。


◇◇◇


凄まじい炎が消えると、黒く焼け焦げて炭化した焼死体が地面に転がった。

その様子を見て、他の盗賊たちは驚き目を見張る。

そして、リサに対して初めて警戒の意識を持つのだった。


「こいつ、ただの娘じゃない!」

「気をつけろ!」

「一斉にかかるぞ!」


残る三人の盗賊たちはそれぞれ武器を手にすると、散開してリサを取り囲んだ。

剣や斧を手にしながら、彼らは注意深く相手の動きをうかがっている。

隙を見て一斉に襲いかかり、彼女を確実に殺すために。

しかし、リサはまったく意に介していなかった。


「フレイムハート家の名において、我が領地の平和を乱し、我が民に手をかけたお前たちを処刑する」


その瞳の奥には、怒りと憎悪の炎が宿り燃え盛っていた。

すると彼女は、今度はその両手に炎の魔力を集めていく。

その巨大な魔力が空気を熱して、周囲の温度が急激に上がっていった。


「こいつは炎使いだ! まず炎魔法を捌いて凌ぐんだ!」

「ああ、そうすりゃあとは簡単に殺せる!」


盗賊たちはリサの特性を見て、炎魔法をやり過ごすことに集中していた。

しかしながら彼女は、まったく動じることなく魔力を集め続ける。

そして今度は、その場にしゃがんで両手を地面につけた。


次の瞬間、盗賊たちの足元から炎の柱が出現した。

それらは三本の巨大な火炎の柱となって、彼らを飲み込んだ。


「あああああ!!!!!」

「ぎょえええ!!!」

「ぐおおおお!!!!」


猛り狂うその炎は、その中での一切の生命活動を許さなかった。

激しい熱と光に、盗賊たちは抗うことも出来ず焼かれていく。

悲鳴を上げながら、次々に身体のあらゆる自由を奪われていくのであった。


「滅び去れ、その罪と共に。そして、人々の魂の安寧のために」


敵の断末魔を聞きながら、リサは言った。

その表情を変えることも無く。


彼らの身体が焼き尽くされるまでは、ほんの僅かの時間であった。

そして燃え盛る炎が消えると、また三つの焼け焦げた死体が地面に転がった。


盗賊たちが焼き尽くされると、広場には静寂が訪れた。

その場に立って生きている者は、今やリサだけであった。

彼女の周囲に渦巻く激しい炎の魔力も、やがて消えていく。

すると、感情の無くなっていたその表情にも、人間らしさが戻り出した。

そして彼女の顔には、言いようの無い悲痛が浮かんでいく。


「ごめんね、みんな……守ってあげれなくて、ごめんね」


そう言って何度も謝るのであった。

いつも焼きたてのパンをくれる老婦人や、目を輝かせながら自分を囲む子供たちの表情が目に浮かぶ。

もっと自分には何か出来たのではないか、そう考えずにはいられなかった。

もはや救える人々はおらず、何も出来なかったという後悔の念と、悲しみと虚しさだけが残るのだった。

よく知る人々の凄惨な死という現実は、若き少女の心に確実に傷を刻みつけていた。


するとその時、リサは寒気のする様な邪悪な気配を感じた。

そして気づくと、いつの間にか得体の知れない存在が近くに立っていた。

その者は漆黒のローブを深く被り、奇妙な仮面をつけていた。


「何……こいつは?」

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