第14話 無慈悲なる襲撃
「うわー!」
「逃げろー、逃げろー!」
あちこちで、叫び声や悲鳴が響き渡る。
村人たちは皆、突然の出来事に慌てふためきながら逃げ回っていた。
盗賊たちは、無造作に家々を荒らしていく。
抵抗しようとする者たちもいたが、戦い慣れた盗賊たちには歯が立たず、瞬く間に殺されるのだった。
また、逃げようとする者も同様である。
そして村は、完全に混乱の渦に巻き込まれていった。
それから小一時間ほどの間に、すべての村人が捕えられていた。
盗賊たちは、捕えた村人たちを広場に集めていった。
誰もが縛られて、地面に膝をついている。
「や、やめてくれ」
「お願い、どうか子供だけは」
村人たちは、盗賊たちに慈悲を求める。
しかし彼らは、凶悪で残忍だった。
交渉や命乞いなどには、まったく耳を貸さなかった。
そして、その広場において一斉に処刑を始めるのであった。
盗賊たちは、誰に対しても一切の情けをかけることはなく、容赦なくその命を奪っていく。
剣や斧で斬殺したり、メイスや棍棒で撲殺したりと、様々な方法を取っている。
そこには、一切の人間らしい情は無かった。
まるで感情の無い機械の様に淡々と、一人、また一人と処刑していくのだった。
そのとき、村の近くに駐在する領主の兵士たちが駆けつけて来た。
彼らは、フレイムハート家の兵である。
「そこまでだ蛮族ども!」
兵士たちは叫び声を上げながら、馬で突進していく。
彼らは剣や槍を構えながら、盗賊たちのところへと突っ込んだ。
武器が交錯し、金属音が鳴り響く。
最初の一撃で、数人の盗賊が倒れた。
そして兵士たちは、盗賊たちを次々と斬り伏せていく。
彼らは激しい攻防を展開して、勢いに乗っていった。
「思い知れ!」
「汚れたハイエナ共が!」
これで決着かに思われた。
しかし、盗賊たちはただのならず者ではなかった。
彼らのリーダーと思われる人物が歩み出て来た。
その男は、片目に黒い眼帯をしていた。
そして、冷徹な目で兵士たちを見ると、片腕を高く上げて掲げた。
すると突然に、盗賊たちは動きを変える。
彼らの様子が一変し、その身から邪悪な力が放たれ出した。
地面が揺れ、黒い霧の様な魔力が彼らの足元から立ち上っていた。
彼らの一人が低いうなり声を上げると、その身体が膨張し、筋肉が異様に発達していった。
他の盗賊たちも、同様に変貌していく。
その顔つきはますます獰猛になり、目は深紅に輝いた。
「何⁉︎」
「こ、こいつらは一体……」
兵士たちは、その光景に驚き目を見張る。
変貌した盗賊たちは、以前とはまるで様変わりしていた。
そして、黒い眼帯をしたリーダーが低くつぶやく。
「殺せ」
変貌した盗賊たちが、一斉に襲いかかる。
兵士たちは攻撃を受け止めるが、相手の力はまるで別物になっていた。
「ぐっは」
その力を受けきれず、兵士の一人が斬り伏せられた。
盗賊たちは、まるで猛り狂った獣の様に攻め立てる。
すると他の兵士たちも、盗賊たちの猛攻に耐えきれず、一人また一人と倒れていった。
そして、ついには全員が地面に倒れ込んだ。
希望は完全に消え去っていた。
もはやこの場に、彼らの蛮行を止める力のある者はいなかった。
それから家々は炎に包まれ、黒煙が空に立ち上った。
盗賊たちの背後で、その光景を眺める存在があった。
漆黒のローブを深く被った、仮面の者であった。
不吉で凶々しい雰囲気を全身から放っており、人なのか魔物なのか定かではない。
ただ、邪悪な存在であることだけは確かであった。
すると盗賊のリーダーが、仮面の者に歩み寄って行く。
「ここは終わった、次へ向かう」
仮面の者は僅かにうなずいた。
そして、冷たく低い声を発する。
「追って次の指示を出す。それまで待機していろ」
「承知した」
その他の盗賊たちは、略奪した物資を次々と馬車に積んでいる。
荷物を積み終えると、彼らは馬にまたがりその場を去っていくのだった。
領地内で起きたこの惨劇に、フレイムハート家の者たちは、まだ誰一人として気づいていなかった。
◇◇◇
夜の王都は、昼間の喧騒とはまた違った活気に包まれていた。
街の灯りが煌々と輝いて、石畳の道を照らし出し、あちこちで賑やかな音や話し声が響き渡る。
王宮から続くメインストリートには、しゃれた酒場やカフェが並び、多くの人々で賑わっていた。
通りに並ぶ屋台からは、香ばしい焼き肉や甘いスイーツの香りが漂い、行き交う人の食欲をそそった。
そして、中心部の市街地から離れた場所には倉庫街があった。
レンガづくりの、重厚な佇まいの倉庫が立ち並ぶ。
ここでは街の喧騒は遠くに消え、辺り一面に静寂が広がっている。
そこで、夜の闇に紛れるようにして動く人影があった。
軽装備で、動きやすい黒い服に身を包んだレオンである。
彼は静かに建物の屋根に登ると、周囲を観察した。
そして、目標となる倉庫を見つけた。
「あれだな」
見張りの配置は予想通りだ。
入口には二人の兵士が立ち、時折交代で倉庫の周囲を巡回している。
彼は素早く動き出すと、目的の倉庫の方へと移動する。
そして倉庫の裏手に回ると、素早く壁をよじ登り、屋根の上へと立った。
彼の動きは滑らかで、無駄な音を一切立てなかった。
それから倉庫の屋根の上を静かに移動していくと、天窓の一つに近づく。
レオンは、窓枠に手をかけ、その構造を把握していく。
それから彼は、深く呼吸をして魔力を手に集めた。
その手のひらが微かに輝き始めると、今度は指先へと魔力を集中していく。
そして、指先から微細な電流が放たれた。
すると、金属の留め具が音を立てて動き、窓が静かに開いた。
彼は雷の魔法を精密に操作し、電磁力を生み出して金属を動かしたのである。
非常に細かいコントロールであり、並の使い手には到底真似できない高度な技術であった。
そしてレオンは、静かに倉庫内部へと侵入する。
倉庫の中は薄暗く、静寂に包まれていた。
レオンは慎重に気配を殺しながら、広い空間を歩いていく。
倉庫の中央には、大小さまざまな木箱や袋が積み重ねられており、それらは雑然と配置されている。
レオンは、取引されている品を確認していった。
それらはスパイスや絹織物など、異国との交易品であった。
「まあ、エリックの報告にあった通りだな」
そこは、ブラッドウィン家の管理する倉庫であった。
レオンの持つ高い身体能力や魔力は、侵入などの隠密行動にも役立てることが出来るのだった。
それから彼は、さらに奥へと進んで行く。
すると、倉庫の一角に大きな鉄製の檻があるのを見つけた。
「何だ、あれは?」
レオンはその檻に近づいて行く。
そして、中にあるものを見て目を見張った。
檻の中には、生きている人間たちが閉じ込められていた。
彼らは、ボロボロの衣服をまとい、怯えた目をしながら鎖で繋がれている。
目立つのは若い女性と子どもたちで、皆が痩せ細り、恐怖と疲労の色を浮かべていた。
「どうやら、噂も本当の様だな」
ブラッドウィン家の邪悪さを誰よりも知っている彼にとっては、そこまでの驚きは無かった。
むしろ、改めて確信していた。
奴らを葬り去るのに、何の躊躇も要らないということを。
「すまない、今すぐこの場で救い出してやることは出来ない。今しばらく辛抱してくれ」
彼は檻の中の人々に語りかけたが、返事は無かった。
怯えて話せないのか、または異国の者たちで言語が違うのであろう。
その時、レオンのすぐ後ろに、黒い小さな木箱が現れていた。
それは闇の中から、突如として出てきたのであった。
そして、一人でにその蓋が開くと、中から不気味で邪悪なものが蠢きながら這い出て来ようとしていた。




