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第11話 炎の一族

フレイムハート家の城は、険しい丘の上にそびえ立ち、その壮麗さは遠くからでも一目でわかる。

城は火山岩で築かれており、その赤黒い石壁は炎の一族の象徴となっている。


周囲に広がる城下町には複数の鍛冶場があり、それぞれが一流の鍛冶職人によって運営されていた。

鍛冶場の中では、赤々と燃え盛る炉の前で、鍛冶職人たちがハンマーを振るい、鉄を打ち鍛える音が絶え間なく響いている。

また、職人には昔からドワーフの者が多かった。

ここの鍛冶職人たちの技術は王国中に知られており、彼らが作り出す武器や防具は、王国の騎士たちにとって欠かせないものである。


そして今夜、フレイムハート家の城は華やかに飾られていた。

城の周りには色とりどりの旗が掲げられ、至る所に炎を象徴する装飾が施されている。

期待と興奮が漂い、広場は集まった人々で賑わっていた。


リサは燃える様な明るい髪をなびかせながら、城のバルコニーからその光景を見下ろしていた。

彼女は艶やかな紺のドレスに身を包み、肩にはフレイムハート家の紋章が刺繍されている。


「リサ、準備はいいか?」


父でありフレイムハート家の当主であるエドガーが、背後から声をかけた。

リサは振り返りながら答える。


「もちろん、いつでもオーケー」


城の中央広場では、炎の魔力を用いたパフォーマンスが始まった。

踊り手たちが、次々と美しい炎の舞を披露する。

観客たちは、その見事なダンスに拍手を送った。


「よし、お前の番だ」


その言葉と共にエドガーが手を差し出し、リサをエスコートする。

リサは彼の手を取り、バルコニーから広場へと降りていった。

観客たちの視線が、一斉に彼女に向けられる。


「皆様、今年もフレイムハート家の『炎の祭り』にお越しいただき、ありがとうございます」


エドガーが声を上げ、群衆に向かって挨拶をする。


「これより、我が家の末娘リサが、その力を披露します」


会場全体から大きな拍手が起こる。

そして、リサは深く息を吸い込み、集中力を高めた。

すると広場の中心に、巨大な炎の円が描かれていく。

彼女が手を軽やかに動かすと、周囲の炎がその指示に従って形を変えていく。

炎は竜の形を成すと空高く舞い上がり、そのまま花火のように四方八方に散っていった。

観客たちはその光景に驚嘆する。


「うわー、きれーい」

「見事だ」

「すごーい!」


次にリサは、炎を使って巨大な鳥の形を作り出した。

その炎の鳥が、広場を一周しながら観客の頭上を飛び回った。

鳥は再びリサの元に戻り、彼女の手の中で小さな炎の玉となって消えた。


すると観客は歓声を上げ、拍手喝采が巻き起こった。

リサは微笑みながら、深く一礼をした。


今宵は「炎の祭り」が催されていた。

毎年、フレイムハート家で盛大に開催される行事である。

フレイムハート家は、古くから続く名家の一つであり、炎の魔力を操る一族としても知られている。


「よくやったな、リサ」

「これくらい、なんて事ないって」


リサ・フレイムハート。

五つの名家の一つ、フレイムハート家の末娘である。

幼い頃から英才教育と共に、炎の魔法を学び始めた。

一族の者たちは皆優れた炎使いであるが、彼女はその中にあっても卓越した才能を持っていた。


「リサ様、感動しました!」

「素敵でしたリサ様!」


リサの元にやって来た人々は、口々に称賛を述べた。


「どうもありがとう」


それに彼女は笑顔で答えていく。

その夜、祭りは遅くまで続き、城内外は笑顔と歓声に包まれていた。


しかしながら、この時のリサはまだ知らなかった。

これから怒涛の様な運命の嵐が、自身を待ち受けているということに。


◇◇◇


レオンは巡回を終えて、支部へと戻ってきた。

馬に乗ったまま門をくぐると、広々とした中庭が広がっている。

そこには訓練中の騎士たちがおり、剣術や弓術などの練習に励んでいた。


この支部は王立騎士団の拠点の一つであり、堅牢な石造りの城塞であった。

城壁に囲まれ、防衛施設としての役割も果たしている。

正門には、王立騎士団の象徴である紋章が掲げられていた。

普段レオンの勤めているのが、この支部である。


「レオン隊長」


彼が帰って来たことを確認するなり、部下の一人が駆け寄ってきた。


「本部より通達が届いています」


そう言って部下は封筒を差し出す。


「そうか、分かった」


レオンはそれを受け取ると、すぐさま封を開けて中を確認する。


「これは、王都への招集指令か」


手紙の中には、王都の本部にて特別部隊を編成する旨が記してあった。

そして、任務の概要に関しても。


「盗賊団……」


王立騎士団は、各地に支部を置いており、王国全体の防衛活動と治安維持をより効果的に行っている。

そして、各支部の団員が王都に招集される時は、決まって重要な任務の時であった。


——回帰する前に、この時期に招集を受けた記憶は無い。起こる出来事が少しずつ変わっているのだろうか? 俺が以前とは違う行動を取っているからか?


色々と推測を立てるが、それを検証している暇は無かった。


——まあ丁度いい。王都で色々と確認したいこともあったしな。


レオンはそう考えると、手紙を封筒にしまった。


「しばらくここを留守にすることになった。本部からの招集だ。皆にも伝えておいてくれ」

「はっ、了解しました」


レオンからの指示に部下は勢いよく返事をすると、振り返って歩いて行った。




数日後、シルヴァンデール家の館まで、迎えの騎士たちがやって来た。

馬から降りて来た彼らが、レオンの元へと歩いて来る。


「お迎えにあがりました、レオン隊長」

「ああ、ご苦労」


準備を整えたレオンが、館の門の前で出迎えていた。

久しぶりの王都への招集であった。


シルヴァンデール家を離れるのは少し不安でもあったが、本部からの要請に応じない訳にはいかない。

そこで念のためレオンは、館の警備兵を増員しておいた。

心配し過ぎかもしれないが、念には念を入れておいた方が、安心して目的に専念出来るだろうと考えた。


そしてレオンの出発を、エレノアとモニカ、そして館の執事たちが見送りに出ていた。

セシリアは、牧場や畑など農地での仕事があり不在であった。


「では母上、行って参ります」

「レオン、務めも大事ですが、あまり無理をしてはいけませんよ」

「はい、分かりました」


エレノアに挨拶をしてから、彼はモニカの方を向く。


「お兄様、お気をつけて」

「ああ、行ってくる。留守の間、母上のことを頼んだぞ」

「ええ、もちろんです。あと、お姉様が『あまり一人で抱え込むなよ』と言ってました」

「ハハ、そうか。この前も似た様なことを言われたよ」

「でも私もそう思います。お兄様は何かと自分だけで解決しようとするところがありますから」

「やれやれ、姉からも妹からも心配される騎士とはな。よく覚えておくよ」


それからレオンは、執事のエリックへと歩み寄る。


「エリック、何か分かったことがあれば書簡で送ってくれ」

「かしこまりました、お気をつけて行ってらっしゃいませ」


レオンは馬に跨ると、他の騎士たちと共に出発した。

そして軽快な音を立てながら、彼らは街道を走り抜けて行くのだった。




館を出発してから大分経った頃、騎士の一人がレオンに話しかけて来る。


「レオン隊長、お見せしたいものが。少し寄り道になりますが」

「ん、分かった」


何かと思いながらも、レオンは彼の後について行った。

少しばかり進んでいくと、そこに小さな集落が現れた。

しかしそれは、もはや集落とは言えない有り様であった。


かつて平穏だったであろう集落は、今や灰と瓦礫の山と化していた。

風に乗って漂う焦げ臭さが鼻を刺し、足元には燃え残った木片や瓦礫が散乱している。

家々は焼け落ち、わずかに立ち上る黒煙が、まだ完全に鎮火していないことを物語っていた。

それらの家屋からは、略奪の跡が鮮明に見て取れる。


「例の盗賊団の仕業だと思われます」


説明されるまでもなく、レオンはこの現場を見てすぐに悟っていた。

さらに進んでいくと、集落の中央広場に出た。

そして、彼はそこで思わず立ち止まる。


「これは……」


そこには、この世のものとは思えない異様な光景が広がっていた。

広場のあちこちに、槍の様に削って尖らせた木の棒が、地面に打ち立てられている。

その先端には、頭部や手や足など、バラバラにされた人間のパーツが串刺しにされていた。

それらが、この集落の者たちの亡骸であることは明白だった。

老若男女問わず、あらゆる人々が犠牲になっていた。


「こいつらは……ただの盗賊じゃあない」


レオンはその光景を見て、恐ろしく邪悪で不吉な者たちの存在を感じ取っていた。


「もっとおぞましい何かだ」

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