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『アングラ(暗✕2)』  作者: 髙山志行
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3・AVENTURE《アバンチュール》

 お盆が明けると、急に仕事がヒマになった。

 毎年のことだが、遅れてやってきた夏休み。しかし今年は連日のように、警察に呼び出されては例の事件の聴取を受けるので、何もできなかった。


(同業者の中に、たまたま「行き倒れ」に出くわしてしまった者がいたが…あいつらは、こっちの都合なんてお構い無し。下手をすれば、「犯人扱い」されかねない。「もう二度と通報なんてしない」と語っていたが…実感だ)。


 やっとひと段落した今日は事務所で、俺と神作・それにユカの三人で、(くだん)の出来事についての特集を組んでいるワイド・ショウ番組を見ていた。


「な~るほど!」


 当局の発表によると、あのカプセルに入っていたのは…今では絶滅したと言われていた・かつて自然界に存在していた毒性の強いウイルスで、空気感染もする代物だそうだ。


(大昔、それが原因の伝染病が蔓延し、多くの死者を出したらしい)。


 だが今のところ、その病原体の出所や・宿主(やどぬし)を特定することは、できていないようだが…もし・あそこでフタが開いていたら、生活用空気に乗った細菌によって、多くの犠牲者が出ていたかもしれない。


「ふ~ん。危ないとこだったな。落とさなくてよかったよ」


 相棒がそう言ってうなっているところに、一人の男が入って来た。


「こちらで、エアー・コンプレッサーの整備をやって下さるとうかがったのですが…」


 入口のカウンター前に立つ男は、40代後半といったところだろうか? 「七・三」に分けた、テカッた黒髪。地味な(こん)色のスーツを着たその男は、どこかの営業マンか公務員といった感じだった。


(黒ぶちの度の強いメガネのせいか、表情がよく読めない)。


「いつまで見てるのよ、お客さんよ」


 最近では珍しい過激な犯罪に、どこのチャンネルも特番を組んで、にたような番組を放映していたが…ユカが、小声で小言を言ってくる。


「何かおきないかと思ってさ。見てるんだよ」


 今すぐ事態に急変があるとは思えなかったが、俺と相棒は野次馬根性が先に立って、ついつい画面に見入ってしまう。


「ちょっと出てくれよ」


 ユカが、こちらに不満そうな顔をむけてから応対に出ている間…当事者たる俺と神作は、かまわずテレビを見続ける。


「しっかし、汚い手を使うよな」


 相棒がつぶやく。

 これまでも、食品に異物が混入されるといった事例はあったが…今回の事件は、今の時代を象徴するような犯行だ。特番の中には、『シュレディンガーの猫』にたとえて報じている局もあった。


(それは、20世紀初頭の物理学者「シュレディンガー」博士によって唱えられた、思考実験だそうだ。なんでも…放射線に反応して毒物が発生する装置が設置された箱に、ネコを入れる。放射線が出なければネコは生きているわけだが…量子力学的観点から見ると…生死の確率が1/2なのではなく、「半分生きて・半分死んでいる状態」なのだという)。


「ふ~ん???」


 なんだか、わかったような・わからないような解説だったが…とにかく、市民生活が何者かによって(おびや)かされていることだけは、確かなようだ。

 いまだ犯行声明や脅迫文は出されていないようだが、いずれ犯人から何がしかの要求があるのだろう。


「これ…」


 そんなところに、客の応対に出ていたユカが、名刺を片手に戻って来る。差し出されたビジネス・カードには「新世界プラント・サービス」という会社名が入っていた。


「経費節減のため、自分たちでオーバーホールをしようと思いまして…つきましては、機械の構造や整備についての講義をしていただきたく思いまして、おうかがいした次第なのですが」


 俺たちの前に座る男は、見かけ通りに・キチキチと、礼儀正しくしゃべる男だった。


「四~五日の予定で、ひと通りお願いしたいのですが…」


 俺は相棒と目を合わせる。奴は『お前がやれよ』と、テーブルの端を指先でたたいて「モールス」を送ってくる。


「う~ん」


 男の背後に掛かった、スケジュールが書き込まれたホワイト・ボードに目を走らす。空欄の目立つ予定表に、まるまる一週間、空いている箇所があった。


『仕方ね~な』


 講師だなんて、気乗りのしない仕事だったが…


「背に腹はかえられない」


 それに…メーカーや代理店を通さず、ユーザーから直接・仕事の依頼が入るという事は、よくあることだ。中間マージンを引かれない分、相互にメリットがあるからだ。


 しかしメーカー(サイド)としては利益が減るし、何かがあった時の保障問題などがあるため、良い顔をしない。だからこういった関係は、メーカーには極秘裡のうちに話が進められることが大半だ。


(たしかに、間に入っている商社などが多いほど、経費もかさむわけだが…大きな会社は、大きな工事になればなるほど、事故や機械を壊してしまった等、万が一の時の事を考えて保険に入る。ゆえに先方が倒産した場合などは、途中に入っている会社が多いほど、被害が少なくて済むワケだ。実際、闇営業で獲得した発注先の「夜逃げ」のあおりをくらって、廃業に追い込まれた同業者もいる)。


 基本・俺たちは、「裏でコソコソと、かけ引きアリの金額交渉なんて面倒だし…やりたくもない事やってまで、金なんて欲しくない」人間だったから、そういった類いの仕事は()けないことにしていたのだが…今回は「請負(うけお)い工事」というわけでもなく、部品代や材料代などの前払いもない。カラダひとつで済む仕事だから、問題ないだろう。


「仕事先へは、当日わたくしが、直接ご案内役いたします」


 その男は、そう言い残して去っていった。


「何やってる所かな?」


 相棒は、メモ用紙に書かれた現場の名前を見て、そう言う。


「アンダーグラウンド文化(カルチャー)センター」


 俺も初めて聞く名前だったが…別に、いつもと「チョットばかり違う仕事」をするだけのはずだった。


     *     *


「ホント、文化の香りがするぜ」


 相棒は、そうグチる。あたりはハエが飛び交い、すえた臭いが充満している。


「人前でしゃべるのは、苦手なんだよ」と俺。

「へ理屈じゃ、お前に負けるさ」と神作。


 あの男が帰った後、そんなやり取りがあったが…仕事がヒマだったので、けっきょく俺たちは二人でやって来た。


「なるほど…たしかに文化を象徴してるぜ」


 先日、俺たちの事務所を訪れた男に案内されて着いた先は、早い話が清掃工場だった。

 地表近くの地下に建設された「アンダーグラウンド文化(カルチャー)センター」の上の地上には、巨大な煙突がそびえ立っているはずだ。


「カルチャーの、煙り昇ればババア行く…ってトコだな」


 そんな状況に、相棒が一句ひねる。


「今日は、ナカナカさえてるじゃねーか」


 俺は相棒の()んだそんな(うた)に、相槌(あいづち)を打つ。

 今では、こういった設備を建てるには、地元に貢献するような公共施設を併設しなくてはならない。ここにも、ゴミ焼却時の熱を利用した大浴場などがある・老人福祉や介護のための機能が兼ね備えられていた。

 そういったこともあって、「文化(カルチャー)センター」なんてシャレた名前を持っているのだろう。でも…


『変わってんな』


 俺は、そう思った。

 こういった仕事は公共の事業だったが、建築から維持・管理まで、さまざまな形で「新世界プラント・サービス」のような民間の業者が業務を請け負っている。しかし公の施設である以上、必要とされる支出を独自の判断で削るとか、入札を通さず仕事を発注するなんてことは、緊急の場合以外に経験したことがない。


「ただ今、こちらの所長さんにご紹介いたしますから」


 俺たちはそう言われて、応接間に通される。

 ここまで来ると、先ほどのすえた臭いはまったく無い。現代人が必要に迫られて作り上げたシールド・システムや空調設備は、完璧に機能していた。


「ピピピピ」


 鳥カゴの中で、つがいの鳥がさえずっている。

 今の時代、金に余裕のある奴は実用性も兼ねて、小鳥を飼っていても不思議ではないが…


(昔から、小鳥は「酸欠に弱い」と言われており、かつては炭鉱に「カナリア」を連れて行ったり・潜水艦で「じゅうしまつ」を飼っていたりしたんだそうだ。でも実は、「鳥は人間より耐性がある」という説もある。ただ、空気より重たい有毒ガスがたまっている場所では、人間より鼻や口が低い位置にある四足動物の方が、先にくたばるだろう)。


 しかし…


『変わってんな』


 その部屋に入るなり、異質な雰囲気を感じる。


『?』


 室内を見回し、その原因がわかった。

 壁には、花が描かれた絵が掛けられている。


(今ではタバコ同様、屋内に観葉植物を持ち込むことには、厳しい規制がかけられていた。そうでなくとも、アレルギーの原因になる花なんて、皆に忌み嫌われる存在だった)。


 その他にも、棚には陶器などが並べられ、テーブルには石の飾り物まで置いてある。


『こんな何の役にもたたない物、どうして置いとくんだろ?』


 俺がそんなことを考えているところに、例の男が女性を一人従えて戻ってくる。


『?』


 かすかな香水の香り(?)…が、俺の鼻腔に届く。

 今では、香水(パーヒューム)なんて珍しい。嗅覚が麻痺したような連中ばかりの世界では、そんな物、まったく意味をなさないからだが…


「こちらが、ここの所長の生方(うぶかた)です」


 その男の口から、そんなセリフが発せられる。


『え?』


 俺は意表を突かれた。

 別に深く考えたわけでも・何の根拠も無かったが…『清掃工場の所長なんて、男に決まってる』くらいに思い込んでいたからだ。


『マジかよ!』


 あわててソファから立ち上がり、あいさつをする。

 名刺を交換し、もう一度ソファに座り直したところで、マジマジと…しかし、無遠慮にならないよう・上目遣いで…その女性の顔を、のぞき見る。


『歳の頃は、俺たちと同じくらいか?』


 ウェーブのかかった長い髪。

(地毛なのか? うっすらと茶色がかっている)。


 模様こそ入っていないが、明るいイエローのスーツにスカート。

(指輪やネックレス、ピアスをして、口紅(ルージュ)までひいている)。


『とても公務員とは思えないぜ』


 化粧もせず、地味な格好をした女ばかりの時代だった。


(バーやスナックと言われる所にだって、もうこの手の女性は残っていない)。


 でも俺は彼女に、もの言えぬ感情を覚えた。


「それじゃ、よろしく」


 俺たちは簡単な自己紹介の後、数日間の予定を打ち合わせして席を立つ。


『生方リカか…』


 俺は彼女の名刺を見ながら、廊下を歩いていた。


「イイ女だな」


 俺は相棒が左隣りにいることも忘れて、ついポツリと漏らしてしまう。


「ヘ? ああ所長さんか。おまえ新婚のくせに、もう目移りしてんのかよ」


 神作が、ツッコミを入れてくる。


「そ・そんなんじゃねーよ。人間的に魅力があるってことだよ」


 俺はあわてて本心を打ち消した。


『でも…』


 俺たちは翌日から、青っちょろい顔をした連中の前で、機械の構造を説明したり・実地に分解整備を指導していた。調子良くしゃべっている相棒の横で俺は、頭の中は彼女のことでいっぱいだった。残り香が鼻につく。でも…


『でもあの女も、どうせ男になんて興味ないんだろうな』


 俺はそう思って自分を納得させ、仕事に専念することにした。


     *     *


「スコーン!」


 白い壁に当たった黒いボールは、すごい勢いで俺の顔面にむかって跳ね返ってくる。真正面から飛んでくる(タマ)に、俺はなす(すべ)もなかった。


「イッテ~!!!」


 眼を保護するための・フレームのみのゴーグルを直撃された俺は、もんどり打ってひっくり返る。


「ヤッター!」


 ユカは小躍(こおど)りする。


「チェッ! ちょっと休憩」


 俺は立ち上がりながら、そう告げる。


「え~、もう?」


 ユカは、頬をふくらませた不満顔を作るが…


「一人で少し遊んでろよ」


 そう言って、白い四角い小部屋から出た俺は…表の通路に出て、右の壁際にある自販機で、ミネラル・ウォーターを買う。


「ふう」


 今日は仕事の後、公共のスポーツ・クラブで、ユカとスカッシュをプレイしていた。子供の頃からやっていたユカは、かなりの腕前だ。学生だった時に、地区予選から選抜され、インター・コミュニティー大会に出場したこともある。俺では足元にもおよばない。いいように、もて遊ばれているだけだ。


(もっとも…コミュニティー対抗なんて言っても、今ではどのスポーツ競技会も、馴れ合い・ナアナアの親睦会みたいなものばかりだった)。


 屋内の野球場やサッカー場もあったが、今では運動と言えば、こういった室内競技がメインだ。


(地表に建つスタジアムの、ドームの屋根ほどの大きさになると、強度の問題もあり、風船のように・空気でふくらませる構造が(おも)だった。ゆえに…そんな所でも、空気圧縮機が活用されているわけだ)。


 空間(スペース)的な制約があるのだから仕方ない。酸素マスクを着けてまでアウトドア・スポーツをやろうなんて奴は、皆無に近かった。


(アクアラングは、どっちにしたって酸素ボンベが必要だったし…神作が趣味としているサバイバル・ゲームに、防毒マスクは違和感なくフィットする。むしろサバゲーには、広大なフィールドが用意されていたが…外出許可の取得が面倒なこともあり、コミュニティーに唯一存在する・屋内スタジオの市街地戦用のセットがメイン。むしろ、奴の一番の悩みの(タネ)は…今どき、そんな時代に逆行するような野蛮な遊びに興味を示す者が少なく、メンバーが集まらないことだった)。


 俺は自販機の陰にもたれて、喉を潤していた。

 天井の低い廊下は、地下鉄の駅と繁華街をつなぐ経路だ。夕刻のこの時間、回廊は行くアテの無い老若男女でごった返していたが、どいつも・こいつも「死者の行列」みたいな顔をした連中ばかりだ。


「ふう~」


 今日は昼間の仕事で疲れていたが、ユカにこわれてここに来た。予約も取っていなかったが…人類がヤル気をなくすにつれ、あらゆる娯楽施設の利用者は減る一方だった。


「フン!」


 20世紀の、こんな映画を観たことがある。


「住めなくなった自分たちの星を捨てた『昆虫型人間(インセクトイド)』。星間飛行ができるほどの高い科学力を持ちながら、長い長い船旅の後、地球にたどり着いた時には、すっかり退化していた」


 そんなストーリーだった。


「まったく、住みにくい世の中だぜ!」


 俺がいつもの口癖をつぶやきながら、ミネラル・ウォーターを飲んでいると…左の肩を、ポンとたたかれた。振り向けば、そこにいたのは…「生方(うぶかた)リカ」。あの清掃工場の所長さんだ。


「こんにちは」


 彼女はニコッと微笑みながら、そう言う。今日は、黒っぽいスーツにスカートの、シックな出で立ちだ。


「ブホッ!」


 水を口に含んだばかりの俺は、すぐに挨拶を返せない。


『ど、どうも』


 俺は軽く咳込みながら、会釈をする。あそこでの仕事は、数日前に無事おわっていた。


「今日は、こちらで何か?」


 所長さんは、まっすぐにこちらを見上げながら、そう訊いてくる。


『何か…なんてほどのもんじゃないけど』


 俺はそう思いながらも…まともに正面から視線を合わせることができずに、目を落とせば、大きく開いたワイ・シャツの胸元。


「いや…あの…」


 しどろ・もどろしてしまうのは、下心があるから?


「妻と…その…スカッシュを…」


 やっとの思いで、そこまで返答すると…


「へえ~。結婚してらっしゃるんですか!」


 と、素直に感嘆の声を漏らす。


『してらっしゃる…なんてほどのもんじゃないけど』


 俺は呼吸を整えながら…


「ええ、まあ」


 そう言って、あいそ笑いを作る。

 今どき、40(しじゅう)前に結婚する人間など珍しい。何か不治の病でも持つ者どうしなら話は別だが…婚姻とは「人生の最期を独りでむかえるのは不安だ」との理由から、最晩年近くになってからする方が多かった。


「お子さんは?」


 ニヤリと、意味深な笑みを浮かべた(ように見えた)。


『それなら・それで、めでたいことだ』


 積極的ではないが結婚した以上、「いずれはご懐妊」を否定するものではないし、「その時は、その時」と覚悟もできていたが…


「いやあ、まだ新婚なもんで…」


 と言うより、ここのところ・しばらく、拒否られ続けている。


「そう…でも、いいですね。奥さんがうらやましい」


 彼女はそう言いながら、人ごみの方へ視線をそらす。


『変わった女だ』


 それが、俺の率直な感想だ。結婚をうらやむ人間など、近ごろでは、めったにいるもんじゃない。


「こちらで、何かやってるんですか?」


 言葉が途切れた彼女にむかって、今度はこちらが質問する。


「いえ、今日は…こちらに、私どものケア・センターでボランティアをやって下さっている方がいるもので、そのことで…」


『ボランティア?』


 今では多くの人間が何か一つくらい、奉仕活動をしているものだった。でも俺は、一文の得にもならないボランティアなんて、偽善めいてて大嫌いだった。


「あなたも、どうですか?」


 そう言われたが…ガキの頃から地区の奉仕活動なんて、すべて無視し続けてきた俺だった。


『それで、自分の存在価値を確認してるんだよ』


 俺には、そうとしか思えなかった。


「いや、仕事もあるし…それに、親に早く孫を作れって言われてるもんで」


 でもそれは、逃げ口実だった。


『今日だってユカのご機嫌取るために、こうしてやりたくもないスカッシュやりに来てるんだぜ』


 俺はユカに奉仕して、そのご褒美としてヤラせてもらっているのだ。


「そうなんですか」


 リカは、ちょっと興味ありげな表情を見せる。


「でも、その見返りと言ったら何ですけど、ウチの施設を無料で使うこともできるんですよ。大浴場にサウナもあるし…」


 現代の公衆浴場は、どこも・かしこも男女混浴で、「禁断の果実を食べる以前のアダムとイブ」のように、何の恥じらいもなく、老若男女入り乱れ湯船につかっている。誰も、そんなことを気にする人間がいなくなったからだ。だが、「原始人」と呼ばれる俺にとっては、苦手な場所だった。そんな所に俺みたいな人間が混じったら…「わかるよな?」…変人扱いされかねない。


「それに、温水プールやトレーニング・ジムもあるんです」


 なるほど北欧の地下核シェルターは、普段はプールとして解放されていたと云う。浄水機能付き温水プールの水は、いざという時の生活用水にもなる。そこの水だって、火事など、非常時のために備蓄されているに違いない。そんなこととは露知らず、ガキの頃の俺は、よくプールに通ったものだ。


「へえ~、そりゃいい」


 少しばかり、心動かされるものがあった。


「気がむいたら連絡ください。それじゃ、わたしはこれで」


 彼女はそう言うと、笑顔とともに去っていった。


「何やってんのよ?」


 それと入れ違いに、ユカが出てくる。


「ああワリー」


 俺はあわててボトルを飲み干しながら、人混みの中に消えていくリカの後ろ姿を目で追っていた。

 彼女は知的で物腰も上品だったが…そのクセ、人間的な「人なつっこさ」や「人間くささ」みたいなものがあった。でもそれは、現代人の多くが失ってしまったものだ。


『日々の暮らしをこなしているだけで、何も考えていない奴らばかりだぜ』


 今の時代、人も暮らしも無機質なものばかりだった。


『ただ生きてるだけなら、サルでもできる』


 俺は、そう思った。


     *     *


 それから数週間が過ぎた。彼女に興味はあったが、仕事が忙しかったし…それにやはり、ボランティアなんてものには、関心が持てなかった。

 そんなある日だった。「新世界プラント・サービス」のあの男から、連絡が入る。空気温度が上がりすぎてしまい、コンプレッサーが自動停止(トリップ)してしまうと言うのだ。


(空気圧縮機というものは、通常の使用でも、かなりの高温・高圧になる。どこかに異常でもあれば、火災や爆発につながるおそれもある。事実、地下作業用に空気を送り込んでいたコンプレッサーが火災を起こし、作業員が死亡するなんて事故もあった。それで各種の安全装置を備え、何かのトラブルがあれば…たとえば、異常に温度が上がりすぎたとか・エアーの圧力が高くなり続けているなどの時に、自動停止するようになっている)。


「あそこの機械は小型のスクリューだから、俺一人で大丈夫だよ」


 俺はそう言って、一人で「アンダーグラウンド文化(カルチャー)センター」にむかう。

 もちろん俺は、ひそかにリカとの再会を期待していた。彼女の誘いを受けてから月日がたってしまったこともあり、こういう機会でもなければ『彼女に会うことは二度と無いかもしれない』と思っていたからだ。


「ふい~! やっと終わったぜ」


 俺は機械の「格納筐体(エンクロージャー)」と呼ばれる覆いを元に戻しながら、安堵のため息をつく。

 午後・早い時間に入ったのだが、修理が終わった頃には、もう定時をとっくに回っていた。定期点検と違い、故障の原因を究明するのに手間を食ってしまったからだ。


(トラブルがあったのは吸入弁(インレット・バルブ)だった。無給油タイプの機械の場合、円形の吸入弁は完全に閉まった位置に来ても、円周のまわりにわずかな隙間があって…負圧にならないよう、常に空気を吸い込んでいる。しかし、そこに残滓(スラッジ)汚れ(カーボン)がたまって密閉されてしまうと、新鮮な空気(フレッシュ・エアー)による冷却がなされず、機械内部の温度が上昇して「温度(こう)」となってしまうのだ)。


『もう、みんな帰っちまったかな?』


 管理事務所の明かりはついていたが、誰もいない。

 たとえば何かの施設でも、民間の経営なら・営業時間いっぱいまで利用可能だが、公共機関は融通がきかない。終了時間までには、退出していなくてはならないのが常だったりするが…どちらにしろ誰かに、作業終了のハンコかサインをもらわなくてはならない。

 俺は、建物の中を歩き回る。そんな時…


「?」


 清掃工場と隣接している、福利厚生施設に続く通路を歩いている時だった。途中の左のドアが開いて、人が出てくる。


「あら?」


 出てきたのは、ここの所長さん…リカだった。薄暗い廊下に栄える、鮮やかな上下ブルーのスーツにスカートの組み合わせだ。


「あ! どうも」


 期待はしていたが突然の登場に、俺はイイ歳をしてドキドキしてしまった。


「いらしてたんですか?」


 俺は、機械の修理に来ていたこと・機械の症状について、彼女に報告する。


「完了証明書に、ハンコかサインをもらわなくちゃならないもので…」


 俺は、作業完了証明書を差し出す。ペンを取り出したリカは、そこに署名をする。


「はい、これでいいかしら?」


 俺はユックリそれを受け取り、ジックリ確認する。所長じきじきのサインなら、まったく問題ないはずだが…


『何かいいセリフはないかな?』


 つまり俺は、ちょっとでも間を持たせたかったわけだ。


「今日は、もうお帰りですか?」


 でも、最初に口火を切ったのは彼女のほうだった。


「ええ、これで…」


 良い言葉が浮かばなかった俺は、口ごもるが…


「よろしかったら、少し泳いでいきません? 奥の温水プールで」


 予想だにしなかった展開に…


「ええ、でも…」


 俺は躊躇した。


「泳ぎは苦手かしら?」


 願ってもない「お誘い」だったが…


「いえ…でも水着とか持ってないし」


 皆が異性の目を気にせず、堂々と惜し気もなく振るまっている時代だが…


「だいじょうぶよ。むこうは休館日だから、今日は誰もいないわ。わたしも、いま仕事が終わったところだから、いっしょに泳ぎましょ」


 リカはそう言いながら、にじり寄ってくる。


『俺が言いたいのは、そんなことじゃないんだよな』


 ただしプールだけは、昔の法律の名残りのおかげで、水着を着用することが義務付けられていた。それでプールでなら、俺の股間は理性を失わずに済んでいたのに…


「さあ!」


 俺はなかば強引に、プールに連れていかれる。

 そこは、地表に面した所にあった。温室のように透明な・半円形のドームでおおわれている。灯りは非常灯以外すべて落とされていたが、今宵は綺麗な月が出ている。花粉が舞っているとはいえ、嵐の晩でもなければ、月光ほどの明るさなら見ることができたし、薄暗いとはいえ十分な明るさがあった。


『ゴクリ!』


 俺はツバを飲み込む。

 月明かりの差すプールに着くとリカは、遠慮会釈なく全裸になり、プールに飛び込んだ。


「早くいらっしゃいよ。だいじょうぶよ、ここは24時間、ゴミを燃やしている熱で温めているから」


 そう言って催促するが…


「そういうことじゃないんだよな」


 俺は小声で、「独り言」を言う。


 ここ数日、ユカに拒まれ続けていた俺のムスコは、もうすでにはち切れんばかりだ。リカが顔を水につけて泳ぎだしたスキを見はからって、あわてて服を脱いでプールに飛び込む。俺は人並み程度には泳げたが、今日は「背泳ぎ」だけは禁物だ。


「綺麗な月。今夜は満月かしら?」


 25メートル・プールを数回往復したリカは、シンクロナイズド・スイミングのように手足を横に小刻みに動かしながら、あお向けになって浮かんでいる。泳ぎは、なかなか上手なようだ。25メーターくらいなら、潜水したまま一気に泳ぎ切ってしまう。


「さあ?」


 水の中で中腰状態になって、頭から上だけを水面に出していた俺は、首をひねって天をあおぐ。

 しかし…俺は天体の運行などの知識は、まったく持ちあわせていなかった。だいたい今どき、夜空に接する機会など、ほとんど無い。星空を見ることもかなわないこんな環境では、天空に興味を持つ人間も育たないだろう。俺は「天文好き」なんて人間には、いまだ・かつて、出会ったことがなかった。


「さて!」


 俺の右横で向きを変えたリカは、勢いよく水から飛び出し、プール・サイドに腰かける。


『!』


 垂らした足を追って、視線を上げて行くと…きれいに水を弾いている、形の良い乳房が丸見えだ。


「あ、いいよ。どうぞお先に。もうひと泳ぎするから」


 先に上がられてしまったのでは、そうするしかない。でも…


「んふ…」


 プールのへりに両手をついて俺を見下ろすリカは、意味あり気な笑みを漏らす。


 シルエットになっていて、表情は良く読み取れなかったが…口元が、そう動いていた。


「気にするないのよ。本当は、それが自然なんだから」


 身を乗り出すようにして、そう言葉をかけてくる。


「え?」


 何を言っているのか? すぐには理解できなかったが…


「久しぶりだな、男の人がエレクトしてるとこ見るの」


 続けて、頭の上から、そんな文句が降りて来た。


『ゲッ! 気づいてたのかよ』


 きっと、さっき潜水している時に、しっかり観察されていたのだ。


「…」


「次の句」が出てこない俺は、ウンコをしている時の犬の顔を思い浮かべた。


『ウンコをしている時のイヌってのは、どうしてあんなに情けないツラしてんのかな?』


 俺は常々そう思っていたが…スッ裸で・女性の前で股間をふくらませている俺は、まさに無防備な格好でウンコをしているイヌ状態だった。


「女の人を見ると、誰でもそうなるの?」


 俺は、視線を下にそらしながら…


「だ・誰でもってわけじゃないけど…」


 俺はドギマギしてしまった。


「じゃわたしのこと、女として認めてくれてるってわけね?」


 俺はうつむき加減で…


「そりゃ、もちろん」


 そう答えると、リカはふたたび水の中に滑り込んでくる。

 そして俺の正面に立ち、俺の両肩をつかんで真っすぐに立たせる。俺の肩より、少し低いくらいの身長だ。


『!』


 股間の先端が、彼女の腹部のあたりに触れる。


『?』


 俺の顔をあおいでいた彼女の唇が、少しだけ開く。俺は熱くなった!


「遅かったじゃない!」


 部屋に戻った俺に浴びせられた、ユカの第一声だ。


「いや、ちょっと…手こずっちゃってさ」


 俺は、さも疲れたというふうに溜息を漏らす。


「連絡くらいしてよね」


 不機嫌そうなユカに…


「ああ」


 俺は生返事をしながら、まっすぐ風呂場にむかう。


『あんな女に会ったのは、初めてだよ』


 その晩俺は、そんなことを考えながら、満たされた眠りについた。


     *         *


「11階でございます」


 フロントで部屋番号を聞いた俺は、エレベーターに乗り「11」のボタンを押す。

「ガコン!」と音を立てて、エレベーターは下りはじめる。価値観の逆転した現代では、「11階」と言えば「地下11階」のことだ。逆方向の場合は、階数の前に「R」という文字が付く。


(かつての文明では、地下は“BASEMENT”の“B”が付いたそうだが…現在では地上側は、その頃の名残りで「屋上」を意味する“ROOF”の“R”が使われている)。


 今では、成金や中途半端な金持ちは「花粉や放射線から遠のく」という理由で、どんどん地下を目指していた。

 俺たち一般庶民は、貧しくなればなるほど、また、「アンダーグラウンド文化センター」のように人々から忌み嫌われる存在は、敬遠されればされるほど…地表に近い地下へと上がっていく。

 そして「本当の金持ちや権力者が、いったいどこに住んでいるのか?」。見通しのきかない現代では、まったく見当がつかなかった。


「1107…イイオンナか」


 目指す部屋の前に着いた。


「また来ちまったぜ」


 俺は小声でつぶやく。

 後悔や懺悔の念がなかったわけじゃないが…こんな時代に・こんな相手と巡り逢えるなんて、お互い、理性を越えた感情や欲望が芽生えたことは確かだ。そこで俺は…


「ボランティア~? お前が?」


 相棒の神作は、すっとんきょうな声を上げる。


「週2~3日。仕事が終わった後の1~2時間だけだよ」


 俺は、社会福祉施設の保守・点検や、管理・清掃などのボランティアへの参加を提案する。


(もちろん、「俺」単独でだが…)。


「どうした風の吹きまわしだよ?」


 相棒は、『納得がいかない』といった態度だが…ちょうど、奉仕活動の社会貢献度に応じて、税制の優遇措置が取られる案が浮上していた。


(納税者の側からすれば、収入が増えるわけではないが、出費が減る。行政の側からすれば、税収が増えるわけではないが、支出が節約できる。どちらにとっても、メリットのあるアイデアだ)。


「コジつけ」だってことは、わかっていたが…俺は、そんな事を理由に挙げていた。


「それに…」


 最初は「新世界プラント・サービス」などの孫請けでも、顔をつないでおけば、やがて専従の構内業者になって、老年期の生活も安定する…なんて事を、さも・もっともらしく語っていた。


「いいんじゃない」


 ユカは、これで毎晩のように迫ってくる俺から解放されるとでも、思ったのだろう。

 だいたい今どき、「女がらみの下心」を疑う奴なんて、存在していなかった。

 そして、実際に奉仕活動にも時間をさいたが…


「すぐにはわからないかもしれないから、もっと回数重ねるとか…もう少し深く、お付き合いしてみませんか?」


 俺は、一回だけで終わらせたくなかった。それで、そんな歯の浮くようなセリフを口にして、リカに再接近したわけだ。


『もう、逢瀬(おうせ)を重ねて何回目になるだろう?』


 まだ思い出そうとすれば、思い出せる回数だろうが…俺は、そんな細かいことを気にする男ではなかった。

 きっと俺は、彼女が普段接しているであろう男のタイプ…俺に言わせれば「うらなり瓢箪(ビョウタン)」や「ひょうろくだま」、あるいは肉体ばかりで「シワひとつない、まっさらな豆腐のような脳ミソ」を持った連中とは違うはずだ。

 俺は「博覧強記(はくらんきょうき)」とか・「頭脳明晰」というほどではないが、バカじゃない。しかし・もうすでに、サラリーマンをしていた年月より、汗や油の臭いが染みついた半肉体労働者のほうが長くなった。


『頭ばっかりの奴らじゃ、わからないこと・(カラダ)だけの連中が、考えもしないようなことだって…あるだろ』


 俺は単一的な「いかにも◯◯」という人間には、なりたくなかった。


一事(いちじ)万事(ばんじ)を見通せるような人間じゃツマらない』


 俺は、そう思っていた。


『個性や意外性がなくちゃ、おもしろ味がない』


 そういう人間になりたかったし…相手にたいしても、そういうものを求めていた。


「わたしとかかわると、不幸になるかもしれないわ」


 最初リカはそう言ったが、今どき大したモメ事が起こるとは思えなかった。俺は少なくとも、彼女が何者なのかわかるまで、親交(ツキアイ)を深めたかった。俺は迷わなかった。


「ね、もう一回」


 最初はちょっとテレの入っていた俺たちだったが、回数を重ねるたびに、深く交われるようになっていった。


「今度は後ろから」


 そしてリカも、全開で自分を表現し始めた。


「ね、いいでしょ」


 頭の良い女は、脳でセックスするという。股間に手を伸ばすと、そこはいつもビショビショだった。今日もシティー・ホテルで、何度目かの密会を持っていた。


「大学では、何を専攻したんだい?」


 一回目の事が済んで、俺の左横で・うつぶせのまま倒れ込んでいたリカに、何気なくきいてみる。


「心理学」


 リカは、枕に顔をうずめたまま、そう答える。


『心理学?』


 それを聞いて俺は、ちょっと身構えた。

 だいたい俺は、心理学者の言うことなど、信用もアテにもしない人間で、『奴らが語るケースには、眉つばなものが多い』くらいに思っていた。


(協力的な個人の場合や・病的なものならともかく、一般論はウソ臭い。二大大家のものだって、中にはチャンチャラおかしな説がある)。


『心理学者の理論なんて、本人の思い込みだけだ』


 そう思っていたし…


『わかりもしないくせに、自分勝手なことを語らないでほしい』


 そうも思っていたが…でも、そういったものに出くわすと、大勢の人間が興味を示すのも確かだ。「みな本当は、自分が何者なのか知りたがっている」ということの表われだろう。しかし…


『自分について真剣に考える人間なら、そのへんの浮浪者だって心理学者や哲学者になれる』


 俺は、そう信じていた。


「人のことより、自分が何者なのか知りたくて…」


 リカは「独り言」のように、そうつぶやく。


『そう。それなら安心だ』


 他人の心理状態について分析しようなどと試みることほど、迷惑なことはない。ましてや奴らが(つく)ったバカバカしい体系に組み込まれるなんて、まっぴらゴメンだ。


「昔だったら、俗世を捨てて仏門に入るとかあるんだろうけど…」


 俺とリカは、今では珍しくなってしまった種類の・同属の人間だった。男と女という立場の違いはあったが、同じ類いの悩みを抱えて生きていたわけだ。


(なんでも「簡単に煩悩(ぼんのう)を断ち切れるくらいなら、出家や帰依(きえ)なんていらない」んだそうだが…なるほど、そうだろう)。


 世の中には、あったら・あったで困ることだって、あるものだ。


(たとえ富者や権力者だって、『みんながソレを狙っている』『いつかソイツを奪われてしまう』との疑心暗鬼(ぎしんあんき)が生ずれば、夜もオチオチ寝られなくなるだろう)。


「恋もしたけど、わたしの期待にこたえてくれるような人は…」


『恋…?』


 俺は「恋」なんて言葉を、女性の口から…いや男女を問わず、生で「恋」なんて単語を耳にしたのは、生まれて初めてのような気がした。


『そうか、アレは「恋」だったんだ』


『そうか、アレは「恋」だったんだ』


 子供のころ、幼なじみの近所の女の子に…。

 学生だった時、同級生の女子に…。

 社会人になってから、同僚の女性に…。

 そして一番最近では、ユカに対して感じていた、あのモヤモヤとした意味不明な感情は…


『恋というものだったんだ』


「初恋」を知って以来…


(もちろん、その時は「恋」だなんて思わなかったわけだが…)。


 ずっと俺の心に引っかかっていたものは、今では誰もが失ってしまった「恋」という精神状態だったようだ。


『なるほどな』


「ときめく心」を()くした現代人。芸術や文化なども、すべて停滞していたが…俺は、一気に視野が開けた気分になった。


「俺も精神分析してもらいたいな」


 つまり俺は、生まれて初めて誰かに…自分以外の他人に…心を開く気になったのかもしれない。

 なにしろ…彼女との会話は、とても楽しい。知性と教養に裏づけられた諧謔(ユーモア)機知(ウィット)。でもそれだけでは、説明が不十分な気がした。


「クレオパトラの鼻が、あと少し低かったら」


 そう言われる一方で…


(つまり「美形」という意味だ。小柄だった「ヒトラーの身長が、もう少し高かったら」と同じく、「その後の人類の歴史は変わっていただろう」との比喩に使われる文章(センテンス)だが…画家としての才能も認められなかったヤング「ヒトラー」総統は、「コンプレックス」が、歪んだ野心の醸成につながる好例だろう)。


 実際の「クレオパトラ」妃は、けっして美人ではなかったとの説もある。


(俺が日常の業務で日ごろ使っている、力の単位「N=ニュートン」同様、圧力の単位「P=パスカル」に、その名を引用されたフランスの哲学者「パスカル」先生。その言葉「人間は考える(アシ)である」と並ぶ、二大名言のもう一つだ)。


『きっとシーザーは、バカか聡明・野卑か上品。そのどちらか極端だったから、彼女に()かれたんだ』


 俺は、そう思っていた。

 そしてリカには、その身体からにじみ出るような…もしかすると生来の…人を()きつける魅力があった。たぶんそれは「神からの授かり物」…つまり『カリスマ』ってやつだ。


「あなたみたいな今どき珍しい男は、わたしの研究材料にピッタリだな」


 リカはそう言って、俺の身体に手足をからめてくる。俺は俺で、鼻先から彼女の(ワキ)の下に顔を突っ込む。


『今どき、脇毛の処理をしている女なんて珍しいぜ』


 俺はそう思いながら、その匂い・柔和なぬくもり・すべすべした感触に酔いしれた。


     *     *


「あなたは何か、野望とか野心とかある?」


 今日も二度目の事が終わった後でリカは、天井を見つめたまま、そう質問してくる。


「いきなり何だよ。心理学のテストかい?」


 彼女の上でうつぶせになっていた俺は、起き上がり、間接照明の薄明かりの中、ベッドの左下に脱ぎ捨てた上着のポケットから、手探りでタバコを探す。もちろん俺は、ごく親しい人間の前以外では、決して煙草を吸わなかった。


「俺なんて欲望のかたまりさ、性欲の…」


 そう言いながら、火をつける。

 俺とリカは「こういう仲」という以外にも、秘密を共有していた。


「今度、君の所に行っていいだろ?」


 彼女と深い仲になって、しばらくたった頃だった。俺の自由になる金の額なんて、たかが知れていた。そうたびたび、ホテルで密会を持つわけにもいかなかった。

 そこでパチンコに挑戦してみたのだが…元来、「ギャンブル運」なんてものは持ち合わせていないようだったし、神作と違って興味も無かった。かえって負けが込んで、資金が飛んでいく有様(ありさま)だった。

 それで、そういう提案をしたわけだ。


(もちろん『彼女みたいな女性が、どんな所に住んで・どんな暮らしをしているのか?』にも、興味があったわけだが…)。


「次は、わたしが出すから」


 リカはそう言ったが、俺は断った。特別な理由があったわけじゃない。今どきではないかもしれないが…「女に金を出させない」…それが俺のやり方だった。


(もっとも…家事に・座りションに・育メン・等々。時代の流れには逆らえない。結婚をした時点で、物事によっては主義・主張を曲げなくてはならない覚悟はしてあった)。


「会う回数を減らすか…あとは、会社の金でも使い込むしかないな」


 もちろん、そんなことを望んでいたわけではないが…


「わかったわ。でも、きっと後悔するわよ」


 彼女は、しぶしぶ承諾(オーケー)してくれた。そして…


「この部屋に人を入れるのは、あなたで二人目なの」


 そう言いながらリカは、自宅のドアを開く。


『二人目?』


 意味ありげな表現に、心に引っかかるモノがあった。


「でも…きっと後悔するわよ」


 リカは、俺が懇願した時と同じセリフを口にして、招き入れてくれるが…


「フン!」


 だが俺は、別段「驚き」も「後悔」もしなかった。むしろ驚いていたのは、彼女のほうだった。


「変わった人もいるものね! あなた、花粉だいじょうぶなの?」


 リカは声を上げる。もちろん俺だって、軽くクシャミや鼻水が出たり、目頭(めがしら)がカユクなることだってある。しかし・だいたいは、「花粉によるもの」と言うより、屋内にあるハウス・ダストなどの、未経験のアレルギー物質に接した事によるもののようだ。


(『キス感染症』というモノが、あるらしい。なんでも…「人間」に限らず「生物」の身体は、様々な「菌類」などと共存しているという事実は、すでに周知のことだが…自分が経験したことの無い・持っていないウイルスを持つ異性と交わったりすると、「お腹が下る」などの症状が出ることがあるらしい。もっとも…現代人は全員、かつては致死性のあった病原菌の抗体を、「予防接種」的な要領で持っていると言う。だからたとえば、現代の文明と没交渉だった未開人がいたとして、現代人の持つ未知の菌と接すれば、一気に重症化するおそれがあるわけだ。もちろん、その逆のパターンだってあるだろうし…案外、現代人ですら、『キス感染症』に近い経路で・「アレルギー」と同様、原因不明の「突然死」の死因になっているケースも、あるのかもしれない。特に現在のように、コロニーごとに・なかば孤立している状況では、未開人でなくとも、ありえない話ではないだろう)。


「自分だって」


 俺はさも当たり前といったふうに、返事を返した。


『なるほどな』


 室内を見回して、俺はそう思った。


『そういうことか』


 俺たち二人は、法に触れる物を所持していた。俺のソレはもちろん「煙草」だ。そして彼女のソレは「植物」だった。


「心がなごむのよ」


 試験管の中で芽を出した種。特殊な色の光を放つ室内灯で照らされ・生育されている草花。大昔、禁止されていた麻薬の栽培は、きっとこんなふうにして行われていたのだろう。でも彼女の場合、特に他意はなく、あくまで単なる個人的な観賞用だった。


「んん~…」


 草木に囲まれて伸びをするリカは、とても満足そうだった。消臭剤や芳香剤、あるいはホコリっぽい鉱物質の臭いしかしない世界では、まさに「オアシス」という言葉がピッタリくる空間だったが…


『そういえば…』


 そんな「初夜」を終えた帰り道。フト気づいたのだが…


「あなたで二人目だわ」


 俺を送り出す時に、彼女はポツリとつぶやいた。


『?』


 つまり、「植物アレルギーが平気な人間」という意味なのだろうが…俺やリカみたいな「変わり(ダネ)」が、他にもまだいるのだろうか?


「もう一人が、どんな人物なのか?」


 訊くのを忘れていた事を、思い出した。


『こんど訊いてみるか』


 でも、満たされた気分になっていた俺は、そんな疑問を思いついた事すら、すっかり忘却していた。


『しかし…』


 でも・やはり、俺は既婚者だ。そうたびたび彼女の部屋を訪れることに、気がひけはじめていた。


『そろそろ潮時かもしれない』


 そう思いはじめたところだ。


『これいじょう深入りする前に、タイミング次第では別れ話も…』


 それで今日は、久しぶりでいつものホテルを利用していたのだが…。


(もっとも俺たちは、正式な恋人同士でも・夫婦でもないのだから、連絡を断って・そのまま「なし崩し」という手だってあったが…)。


「そういうんじゃなくって…」


 先の話に引き戻される。


『野望? 野心?』


 最近の俺は、そんな大それたこと、考えたこともなかった。


「じゃ…怒りとか不満は?」


 リカは続ける。


『不満? そうそう…』


 思いついた。


「ここのところ一つだけ、解消した不満があるんだ。君と出会ってから」


 俺はタバコを大きく吸い込む。先端の火が、ボワッと明るさを増す。俺は、リカの顔を盗み見る。その赤い光に浮かび上がった彼女の横顔は、真剣な面持ちだった。


「じゃ、大志とか大望(たいもう)は?」


 皆まで述べなくても、俺の言わんとしている事は伝わっただろうが…


『完璧、無視かよ』


 リカが何を求めているのか、わからなかった俺は…


「体毛はチョット濃いかな、原始人だから」


 ちょいとフザケてみる。


「冗談言って、茶化さないでよ。まじめにきいてるんだから」


 彼女は横になったまま、こちらにむき直る。


「ゴメン・ゴメン。でも、何がききたいんだよ。ずいぶん遠まわしな物の言い方してないかい?」


 俺はふたたび、大きく煙りを吸い込む。


「じゃあ具体的に言うと、今の政治や政府に、不満や不安はない?」


 煙りを吐き出した後で…


「なんだい、そりゃ? こむずかしいこときくんだな」


 そう言いながら、灰皿代わりの空き缶をまさぐり…


「わたしって、分裂型の多重人格だから…」


 その中に灰を落とす。


「政治には、あまり関心ないな。どうせ俺なんて一般庶民。民草(たみくさ)だから」


 俺は、真剣に取り合う気にはなれなかった。


「実を言うと、あなたに手伝ってもらいたいことがあるの」


『…?』


 俺は無言で、タバコの火をもみ消す。


「今の社会は、小さくまとまってるでしょ。だから今が、絶好の機会なの」


 彼女の方にむき直って…


「なんの?」


 そう訊いてみる。


「クーデターを起こして、国家を乗っ取る機会のよ」


 俺は頭をかきながら…


「なに言ってんだよ」


 まともに相手をしようなんて気は、全然おきなかったが…リカは、かまわず続ける。


「かつては大気中の酸素を売ってる商売なんて、原材料は一切タダだったでしょ。でも今は違う。今は空気を握っている者が、実権を握れるのよ」


 トーンが上がってきた。


「どうやって?」


 そこでリカは、何のためらいもなく言い放つ。


「たとえば、毒物をチラつかせるとかね」


 俺は瞬間、背筋が寒くなった。ご存知のように、俺には思い当たるフシがあるからだ。


「あなたにも、仲間になってほしいの」


 俺は自分の耳をうたがった。


『コイツ、本気で言ってるのかよ?』


 少しの間をおき、足元を照らすフロア・スタンドのスイッチをひねりながら…


「もし断ったら?」


 わずかな光だが、闇に慣れ切った眼には、それでもまぶしいほどだ。

 外界から差し込む陽も無く、もちろん、窓ひとつ無い地下の世界。人工の明りを落とせば、すべては真っ暗闇なのだ。


「残念だけど…せっかくイイ男に巡り逢えたのに」


 ニコニコしているリカの顔を見ていると…


『俺のこと、からかっているんだろうか?』


 それが本気なのかどうか? 見当もつかなかったが…


「男としての役目を果たせるうえに…不意の事態に遭遇しても、コソコソ逃げ隠れしないような、今どき珍しい男」


『なに?』


 俺は彼女から身を退()くように、後ろ手に両手をついて上半身を起こす。


「考えさせてくれなんて言わないで、この場で即答してね。さもないと…」


 リカの顔を凝視しながら…


「さもないと?」


 俺がそう問い返すのと同時に、手に銃のような物を構えた数人の人影が入ってくる。


(シルエットになって、姿・形ははっきりわからないが…雰囲気は男だ)。


 戦争が無くなった現代。ダブついた小銃くらい、いくらでもあった。その気になれば…「そんな気」になる奴は、ほとんどいなかったが…そんな物は、わりと簡単に手に入るはずだ。


『な・何なんだよ?』


 スッ裸のままベッドから飛び出した俺には、何がどうなっているのか? サッパリわからなかった。


(オート・ロックのドアなのに、手際が良すぎる。あらかじめ、リカの手引きがあったのだろう)。


「チッ!」


 俺は四人の男に、四方を囲まれる。表にも、まだいるようだ。


「イエス? それともノー?」


 全裸のリカは、ベッド脇のナイト・スタンドをつけながら訊いてくる。


「悪い冗談だぜ」


 俺には、いまだに事の真偽がわからなかった。


「冗談じゃないわ」


 俺を取り巻いていた連中が、ジリッとにじり寄る。


「ヤルのかよ? どうせお前らなんて、インポと不感症の集団じゃねーか!」


 俺はチラッと、足元の工具箱(ツール・ボックス)に目を走らせる。今日は仕事の帰りに、ここに立ち寄った。あいにく今夜は、普通の工具しか持っていない。せいぜい、小型のハンマーを振り回すことくらいしかできない。

 こんな所で拳銃を発砲するとは思えなかったが、どちらにしろ多勢に無勢…この人数を相手にしたって、勝てっこない。


「あなたのことは、いろいろと調べさせてもらったわ」


 リカは、身支度を整えながらしゃべり始める。


「とにかく、静かな場所でユックリ話しましょ」


 そう言って、俺が脱ぎ捨てた衣服を投げてよこす。


「けっこう乱暴なんだな」


 とりあえず俺は、大人しく従うことにした。


『これが浮気のツケか』


 俺は両腕を後ろ手に縛り上げられ、非常口から拉致される。酸素マスク付きのゴーグルをかぶらされたところをみると、屋外から連れ去られるのだろう。そのほうが、人目につきにくい。それに、細いプラスチック製の結束(バンド)で指を固定されているので、傍目には、後ろで手を組んでいるようにしか見えないはずだ。


(電気の配線などをたばねる時に使われる、柔軟性のあるバンドだ。差し込み口に「かえし」が付いているので、いったん差し込んでしまうと、あとは切るしかない)。


 口には詰め物を入れられ、声も出せないし…これでは、「拘束されている」ということも、わからないだろう。


     *     *


 俺はクルマに乗せられるが、ゴーグルのレンズは黒く塗りつぶされていて、何も見えない。

 ふたたび屋内に入った所で、イスに座らされ・マスクをはずされる。


「ここがどこだか、わかるでしょ?」


 はずされた目隠しの先には、見おぼえのある青い作業服(ツナギ)を着たリカが立っていた。あたりを見回すと、見慣れた光景だ。


「静かな場所って言ってたわりには、やかましいじゃねーかよ」


 俺は、そう返事をする。視界を奪われていたとはいえ、「ここがどこなのか」すぐにわかった。


『なるほどな』


 着いた先は「アンダーグラウンド文化(カルチャー)センター」。例の清掃工場の、ボイラーや空気圧縮機が並ぶ機械室だ。


「ここにはボランティアを口実に、同じ(こころざ)しを持つ同志が集まってくるの」


 有難いことにリカみずから、上から俺を見下ろし、そう謎解きをしてくれる。


『なるほど』


 この清掃工場と・それに隣接する施設は、今の政府に不満を抱く反乱分子のたまり場だったわけだ。


「単純に、機械を逆転させれば負圧になって、空気を吸い出すのかと思っていたけど…ダメだったみたいね」


 俺の整備の手の入ったエアー・コンプレッサーに手を掛け、リカはそう言う。例の逆転したレシプロの話だ。あの時・あそこにいた連中は、コイツらだったわけだ。そして・あの時…あの毒物を発見した時、先頭に立っていたのは、この女だったのだ。


「そりゃそうだ。あの機械は構造的にバキュームは無理だし、そうじゃなくても、ちゃんとワンウェイ・バルブが付いてるんだ」


 最新の機械になれば逆止弁(ぎゃくしべん)ばかりでなく、「逆転防止装置」も仕込まれている。


「作戦としては、いいアイデアだったけどな」


 たとえ屋外にあったとしても、今の住宅は完全に密閉(シール)されている。大容量の機械で空気を吸い出せば、真空状態とまではいかないだろうが、酸欠で死人が出るだろうし・毒ガスでも流されれば、想像もつかない事態となるだろう。


「だから、あなたみたいな人が必要なのよ」


 リカはそう言いながら、俺の顔をのぞき込む。


『な~るほど』


 納得だ。


『それでこの女は、色仕掛け(ハニー・トラップ)で俺に近づいてきたわけだ』


 あの事件の時、俺と神作は顔にモザイクが入っていたとはいえ、TVにも登場したし、俺たちのヘルメットやユニフォームには会社名も入っていた。看板を背負って歩いているようなものだから、じかに俺たちと接触したコイツらにしてみれば、調べようと思えば簡単なことだ。


(それで、俺たちの会社にアプローチしてきたのだろうし…だいたい、偶然だと思っていたスカッシュ場での再会だって、はじめから仕組まれたものかもしれない)。


『でも…』


「でも二番目の計画は、予定通りだったでしょ」


 リカは、頭に浮かんだ俺の思いをさえ切るように続ける。


『二番目…?』


「ああいう物を持っていることをアピールできたんだから、作戦は成功なの」


 腰に手を当ててそう語るリカの表情は、今まで見たこともないような高飛車で高慢なものだった。


「なにをたくらんでいるんだよ?」


 ここで退()いたら、俺の負けだ。なんとか言葉をひねり出すが…


『でも…』


「善良なブタどもの目を覚ますには、荒療治が必要なのよ」


 あのリカの口から、こんなセリフが飛び出してくるとは思わなかった。


『でも…でもそれだけで、あんなことが・そんなマネができるのかい?』


 そう思った俺は…


「盗聴させていたわけだ。自分の濡れ場を他人にのぞかれて、それでも平気なのかよ?」


 先ほどから気になっていた事を口にするが、しかし彼女は…


「あなた、自分が飼っている犬や猫に自分の恥態(ちたい)を見られて、恥ずかしいと思うの?」


 平然と言い放つ。


茫然自失(ぼうぜんじしつ)


青天(せいてん)霹靂(へきれき)」とは、こんなことを指して言うのだろうか?


『本気じゃなかったのかよ?』


 何が何だか、サッパリわからなかった。


「こんなことをしたって、すぐにアシがつくぜ」


 俺は、なかばヤケクソだった。


「あなた、自分の所在を誰かに話してきたの?」


 そんなこと、できっこない。「これから浮気しに行きます」なんて、誰かに告げてから行く奴など、いるはずがない。


『誰か目撃者でもいなければ…』


 でも、そんな俺の心を読むかのようにリカは…


「ホテルはちゃんとチェック・アウトしてきたし…」


『…』


「会社の方にも、連絡しといてあげたわ。『新世界プラント・サービス』の方から。急な用件で2~3日、あなたを貸してくれるようにって」


 俺が質問する前に、彼女の口から先手・先手で答えが返ってくる。


「ずいぶん、手のこんだマネするじゃないか」


 実のところ俺は、かなりのあきらめ気分(ムード)になっていた。


「アバンチュールは、このくらいの方が刺激があっていいでしょ」


 リカは、今度はとぼけた笑顔を見せながら、そう言うのだが…


『アバ・アバンチ…? 何だいそりゃ?』


 俺はそんな単語、今まで聞いたことがなかった。


「とにかく…良い返事が聞けるまで、しばらくここにいてもらうわ」


 そう言いながらリカは、後ろに控えていた二人の男に合図を送る。


『チェッ! サッサと別れときゃ、こんなことにならなかったのに』


 二人の男に両脇を抱えられ、立ち上がりながら心の中でグチると…


「わたしから逃げようなんて気を起こさないでね」


リカはそう言って、ニヤリとウィンクする。


『ゾクッ!』


 偶然なのか? たしかに俺は、別れを切り出すタイミングを(さぐ)ろうと思いはじめていた。まさかそこまで、俺の心を読んでいたとは思えないが…


『まあいいさ』


 俺はナゼか、虚脱感みたいなものしか感じなかった。


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