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鍍金だらけの不良英雄は、天才少女に煽られて騎士の頂点を目指す  作者: 裕福な貴族
忠義の騎士(前編)

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第9話 四聖騎士団

 キャメロン王国、王城。

 天上の民たる王家の面々が住まう聖域にして、英雄と大騎士の御霊が宿りし難攻不落の要塞。戦争に最適化された複雑にして緻密な構造と、芸術的美徳を詰め込んだ麗しき装飾の数々。

 それはまさに、騎士大国の名に相応しい様相であった。

 だが。歴史上で一度だけ、この王城の心臓部とも呼べる領域へと攻め込まれた事実が残されている。


「おぉ……」


 バルバリス帝国、革命の日。運命を決した聖戦。その最後の一幕は、()()で行われたと言い伝えられていた。

 そんな地に足を踏み入れ、男は静かに感嘆の息を漏らす。

 どこまでも広がる空のように、上を見上げれば吸い込まれそうな感覚に襲われる。

 閉鎖的な空間、四方を壁で囲まれたれっきとした一室の筈なのに。その天井の底知れぬ高さに、ここは外だったかと錯覚を抱きそうになる。

 極彩色に輝くステンドグラスが、空に煌めく星々のように下界を淡く照らしていた。


「おやおや」


 そんな美しい世界に、歪な雑音が入り混じる。


「これはこれは、由緒正しき王立騎士団の副団長様ではありませぬか。しかし、これまた如何様な理由でこちらに? ここは騎士団の代表者のみが集う会合なれど……、嗚呼」


 気品の高さを滲ませる言葉遣いをかき消してしまう程に、下衆さを孕むその声色。

 人を不快にさせることに特化した男の言葉に、デネットは静かに眉をひそめる。


「ゴルドレ殿はご逝去なされたのでしたな。いやまったく、王国にとって手痛い損失。吾輩も友を失った痛みにこの胸が張り裂けんばかりで――――」

「失礼。今はその言葉だけで十分だ。感謝する」


 語りを遮り、デネットは無理やり男との会話を終わらせる。


「……あー」


 しかし。デネットの振る舞いに、男の眉間がピクリと反応する。


「いかん。いかんなぁ、デネット殿。吾輩は貴殿を思ってお悔やみ申し上げているのだよ」

「結構だ」

「……そんなこと言わずに、仲良くしようじゃないか」


 男はヘラリとした歪な笑みを浮かべ、デネットの肩へと手を回す。

 そして、握り潰さんとする勢いで肩を掴みながら、男はデネットにだけ聞こえる声で耳元で囁いた。


「君も吾輩と同様、()()()()()の一角へと名を連ねるのだから」


 ギリギリと締め付けられる痛みに耐えながら、デネットは静かに瞳を閉じる。

 何も感じず、何も反応せず。お前など相手にしないと、行動で示すかのように。

 それが癪に障ったのか、男はさらに笑みを深めていく。怒りに満ちた感情を、肩に回した手に込めながら。


「おい。あまり吾輩をコケにしない方が――――」

「そこまでだ」


 唐突に響く第三者の声に、デネットはゆっくりと瞼を開ける。


「自らを正義と断じて高圧的に接するその態度。あなたの悪い癖だ、ベロー殿」

「……アレス」


 ベローと呼ばれた男は、デネットの肩から静かに手を離す。

 もう既にその視線はデネットに無く、ただひたすらにアレスと呼ぶ一人の人物を睨みつけていた。


「団長でもない貴殿が、随分と偉そうな口を利くものだ」

「それはすまない。だが、私もあなたが口にする()()()()()の一角に位置する存在だ。ここに代表として呼ばれている以上、私とあなたは対等な存在のはずだが?」

「……チッ」


 アレスの言い分に反論の余地が無いと判断したのか、ベローは小さく舌打ちを放ちそのまま少し遠くへと歩き去ってしまう。

 残されたデネットは、少しだけ痛みの残る肩に意識を向ける。

 しかし、その箇所に手を伸ばすことが出来ない。

 何故なら、デネットの両手は未だ松葉杖によって塞がれていたのだから。


「大丈夫かい? デネット殿」


 そんなデネットに近付き、優し気な声をかけるアレス。

 どうしてここまでしてくれるのか。一瞬訝し気に思ってしまうものの、厚意には素直に甘えておくのがいいだろう。

 デネットはそんな思考を浮かべながら、ゆっくりと口を開く。


「あぁ。ご助力感謝する、アレス殿」

「よしてくれ。私はただ、英霊の見守るこの場所で不敬な真似はさせたくないと思っただけ。ただの自己満足さ」


 そう言ってアレスが見上げた先に映る、極彩色のステンドガラス。

 一見するとバラバラな模様に見えるその天井に、デネットはよく目を凝らす。

 そして気が付いた。

 認識した瞬間に現れる、幾体もの騎士の影。その中央に鎮座する、御旗みはたを持った一人の女性の姿を。


「少なくとも、この場所では誇り高き騎士として振る舞うべきだ」


 その様はまさに、騎士のあるべき姿であった。


「君もそう思わないか? デネット殿」


 アレスの言葉に、デネットは何も答えない。

 胸中に浮かんだのは、言葉ではなく感情。それは、騎士としての明確の格の違いを見せつけられた、諦念から来るものであった。


 王立騎士団。

 それはキャメロン王国において、王家の信頼を一身に受ける由緒正しき騎士団である。

 王の為に剣を振るい、王の為にその身を盾にする。

 王とは国の象徴。故に、王立騎士団とは国家を守る礎に他ならない。そう、信じて疑わなかった。

 しかし、キャメロン王国における騎士団とは一つではない。

 広大な土地を有する大国の全域を守護するのに、たった一つの騎士団では到底不可能であった。


 そしてキャメロン王国は、()()()()()()に全権を委ねた。


「その通りだな、アレス殿」


 アレスの意見を肯定するように、デネットは小さく微笑みながら言葉を紡ぐ。


 親衛しんえい騎士団。

 直接的な長を持たず、時と場合によっては七雄騎将の管轄下で動くことを認められた、英雄の為の部隊である。

 だが、その存在が役割を果たすことは滅多にない。緊急を要する事態以外は、上級街の警備を担当する近衛兵たち。

 それが親衛騎士団であった。

 しかし、直接的な長を持たない騎士団と言えど限度がある。いざという時に統率が取れなければ、それは烏合の衆と変わりない。

 そう言った判断の元、仮とはいえ実質的な指導者として選ばれた傑物。それが、アレスと言う人物であった。


「ふん、くだらぬ」


 そして。デネットはそのまま視線を横に移し、声を漏らした主へと向ける。


「誇り高き騎士。それ即ち、吾輩を置いて他に存在せぬわ」


 鼻を鳴らし、尊大な態度を隠そうともしないベロー。

 王立騎士団は、長らく王家からの信頼を受けていることから"由緒正しき騎士団"と呼ばれている。しかし、ある者はその意見に異を唱えるだろう。『その名に相応しき騎士団は他にある』と。


 貴公きこう騎士団。

 それは、代々騎士の家系を持つ者だけが入団を許されし純血至上主義の騎士団である。

 一代限りの騎士を認めず、長くキャメロン王国で騎士の責務を全うした一族だけがその門を叩くことを許される。

 だが、その実力は血統によって証明済み。

 類稀なる統率力と誇り(プライド)によって国賊を討つ、"正しき騎士団"。

 それが、貴公騎士団であった。

 そんな部隊を率いる、最も高潔な騎士団長と呼ばれる男。その名は、ベロー。

 三十年前の大戦以降で、最も長く団長を務める人物である。


「そう言って血脈のみに固執するから、あなたの団はいつまで経っても中規模のままなのだ」


 全身甲冑に身を包み、くぐもった無機質な声で鋭く言葉を放つアレス。

 何もかもが未知数。顔も年齢も、その全てが謎に包まれた騎士の姿に、デネットは真の騎士道を垣間見た。


「誇りを持たぬ団に存続は無し。いつまでも英雄の飼い犬に甘んじている貴殿が、この吾輩に高説を垂れるつもりか?」


 白髪の混じった太陽の如き橙色の頭髪を振り回し、ベローは毅然とした態度で仁王立つ。

 放つ言葉は高慢そのものであるが、その発言には自らを信じ抜く芯のようなものを感じさせる。


 親衛騎士団。貴公騎士団。そして、王立騎士団。残り一つを加えた、キャメロン王国の全権を担う四つの騎士団。

 その名は正式では無く、誰かが口にし始めた噂話のようなモノ。だが、その名はやがて民の間でも浸透し、遂には巡り巡って騎士団の耳にまで届くこととなった。

 七雄騎将と共に、キャメロン王国を守護する騎士の集い。

 人はそれを、【四聖(しせい)騎士団】と呼ぶ。


「あら、皆様お揃いで」


 そして、騎士にとって最も重要な存在。自らの剣を捧ぐ、絶対的主。

 ()が顕現する。

 瞬間、今まで口論を交わしていた騎士はその場に跪く。

 三人の騎士、その頭上から高貴なる音が響き渡る。

 一段一段。ゆっくりと降りてくるその足音に、騎士はただひたすらに首を垂れた。


「面を上げてください」


 可憐にして透き通る声色が、優しく鼓膜を撫でる。

 それまで何を話していたか忘れる程に、騎士はその言葉に全意識を集中させる。

 まるで頬を撫でられているかのような優し気な言葉に、気が付けば無意識のうちに首がゆっくりと上を向いていく。

 その言葉に従うように、三者三様の表情を浮かべながら騎士は静かに視線を向けた。

 上昇する視線。広がる視界。

 その、遥か先で――――


「突然の招集に応じていただき、感謝します」


 二人の英雄を携え、少女は玉座に君臨する。

 極彩色のステンドグラスから、鮮やかな光の柱が大地を照らす。

 地に膝をつく騎士は、さながら蒙昧もうまいなる奴隷の様。まるで自分達を糾弾するかのように、光は無情にもこの肉体を貫いている。

 虹に輝く光、その中心。誰よりも淡く、そして誰よりも眩い"色"を放つ者。


「王国を守護する、私の騎士たちよ」


 ()()が、眼を焼け焦がす。


「お願いです。その力を、どうか貸してください」


 エリーゼはそう言って、笑みを浮かべた。

 その姿は、おとぎ話に登場する『助けを求めるお姫様』そのものであった。

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