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鍍金だらけの不良英雄は、天才少女に煽られて騎士の頂点を目指す  作者: 裕福な貴族
忠義の騎士(前編)

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第2話 クソ暴君

「いやァ、無事に退院できてよかったな! あのままくたばってたら死んでも死にきれねぇだろ!」

「あ、はは。そうっすね」


 バシバシと背中を叩かれ、クルードは貼り付けたような硬い笑みを浮かべ乾いた声を漏らす。

 豪快に大口を開けて笑うべリエッタと、萎縮した様子のクルード。

 対照的な二人の姿に、椅子に腰かけた他の三人は目を合わせる。

 あのクルードがここまで他人行儀なのも珍しい。

 そんな珍しい様のクルードに対し、三人はそんな感情を抱いていた。


「えっと、べリエッタ……様?」


 ふと、カミュが恐る恐る口を開く。


「お二人は知り合いだったんですね?」

「知り合いっつーか、一度顔合わせん時に軽く()()()やったんだよ。な?」

「ははは。ええ、そうですね」


 それは嘘であると、言葉で言わずとも態度が証明していた。

 壊れた人形のように固い言葉しか発さないクルードの姿を見て、他の三人は諸々の事情を察した。

 しかし。


「顔合わせ! そんなものがあったんですかぁ」


 カミュは純新無垢に、思ったままの言葉を発した。

 そんな様子に、そういえばとイリスは思い立ったように口を開く。


「カミュ」

「はい! なんですか、イリスさん?」

「あの、ね。この人……」


 しどろもどろに口を動かすイリスに対し、カミュは不思議そうな表情を浮かべ首を傾げる。

 その反応に気後れしつつも、やがてイリスは諦めたようにポツリと呟いた。


「七雄騎将よ。クルード先輩と同じ」

「………………………………はい?」

「おぉ。そう言えば言ってなかったか」


 イリスから告げられた唐突な内容に間抜けな声を漏らすカミュ。

 一方、ベリエッタはあっけらかんとした表情で四本の指を掲げる。


「そうだぞ。私、四番目につよーい騎士だぞ」


 嘘だ。クルードとイリスは心の中で同時に呟いた。

 仮にこの女傑が四番目なのだとしたら、キャメロン王国は魑魅魍魎、悪鬼羅刹の集団か何かである。

 二人の脳裏に、それぞれの記憶でベリエッタの暴虐っぷりが蘇る。

 そして同時にブルリと背筋を震わせた。


「えっ、えっ……? ベリエッタ様って、王立騎士団の人じゃ……?」


 丸い目をグルグルと回しながら、カミュは混乱状態で言葉を紡ぐ。


「ったく。いちいち説明が面倒だなこりゃ」


 これは一から話す必要があると、ベリエッタは頭を掻きながらめんどくさそうに口を開く。


「要するにだな――――」


 以下、スーパー説明タイム。


「王立騎士団は嘘で、エルマーナ先生の同級生で、エレガス先生の先輩……? 天秤? 紅蓮の騎士? 最強の女傑? え? え?」


 ぷしゅーっと、カミュの頭から煙が噴き出す。膨大な情報量の前に、やがてカミュは考えることを止めた。

 ノックダウン。


「……それで」


 口を開けて放心状態の後輩を尻目に、クルードはようやく人形のフリを辞めて自分の意志で言葉を紡ぐ。


「一体、何の用で? ベリエッタ……さん」


 そんなクルードの言葉に対し、ベリエッタはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「なに、お前の大好きなお兄ちゃんから頼まれてな」

「兄貴から……?」

「まぁ兄としてっつーより、教師としてのアイツからな」


 そして。

 ドンッ、と。机の上に無造作に置かれた大量の紙。びっしりと文字の書かれた、所謂プリントの束が計四つ。

 それは学生にとって、宿敵にして怨敵とも呼べる存在であった。


「ほれ、宿題」

「え?」

「ほ?」

「はい?」

「なんですと?」


 クルード、イリス、カミュ、そしてホーネス。

 四人の少年少女は、ベリエッタから無情に告げられた言葉に間抜けな声を漏らす。


「ちょ、ちょっと待て!」

「あん?」

「聖キャバリス学院は閉鎖中だろ!? なんで宿題なんか――――」

「なんだお前ら、聞かされてないのか?」


 現実から逃避すべく、必死に声を振り絞るクルード。

 だが、そんな奮闘も虚しくベリエッタは淡々と事実を突きつけた。


「あと三日だってよ」

「…………なにが?」

「学院の閉鎖」

「…………マジか」

「大マジだ」


 ベリエッタとクルード。

 大の大人と少年が、顔を見合わせて神妙な面持ちで言葉を交わす。

 それまで身勝手な振る舞いで我関せずと言った様子のベリエッタであったが、今のその姿はどこか憐れみを感じさせるものであった。


「わかるぜ、その気持ち。学級閉鎖で授業が無くなった時は、不謹慎ながら『もっと長く休ませてくれ』って思うもんだ。だが、大人ってのはそんな子供たちの願いなんざ聞き入れてくれねぇ。待っているのは、いつも通りの退屈な教室の景色だけさ……」


 どこか遠くの方を眺め、物思いにふける巨漢の女性。

 こんな人でも考え方は常人に近い所があるのかと、クルードはその姿に密かに親近感を抱く。確かに、ベリエッタが真面目に授業を受けている姿は想像がつかない。


「ってなわけで」


 しかし、それとこれとは話が違う。

 ベリエッタは腰かけていた椅子から無造作に立ち上がると、振り返ることなく喫茶店の扉へと歩を進める。


「頑張れ若人ども。せいぜいクソつまらん勉学にでも励むんだな~」


 大きな掌をひらひらと揺らしながら、ベリエッタは扉の外へと消えていった。

 瞬間、威圧感を纏う傑物が消えたことによって、室内の空気は一気に軽いものになる。

 残されたのは、呆然とした様子の四人の子供。大量の宿題。

 そして。


「あのぉ、ご注文はぁ、いかがなさいますかぁ……?」


 生まれたての小鹿のように震えながら、か細い声で注文を尋ねる喫茶店の店長。彼もまた、暴君の登場によって店の隅に追いやられた被害者であった。


「あ、あぁ。ランチセット四つ」

「かしこまりましたぁ」


 店長の言葉に、慌てて昼食を頼むクルード。

 そういえばあれだけお腹がすいていたのに、今の今まで忘れてしまっていたでは無いか。

 あのデカ女め、結局何しに来やがったんだ?

 兄貴からの頼みごとならさっさとそれを伝えて帰ればよかったくせに、場を乱すだけ乱して帰りやがって。

 そういえば、以前の裏路地で出会った時に色々聞かせてもらう予定だった話も何も聞いてねえぞ!

 文字通り自由奔放、傍若無人の暴君だ。

 くどくどくどくど、心の中でぶつくさと文句を呟きながらクルードはプリントの山へと視線を向ける。


「…………ん?」


 そして、疑問符を頭の上に浮かべる。


「いかがしました、クルード様?」

「いや……」

 

 ホーネスの何気ない問いかけに対し、クルードは自然体のまま口を開く。


「これってさ――――」


 それは、単純な疑問。

 膨大な紙束の中に、微かに目を惹く一枚の見出し。その内容に、クルードは思わず声を上げかける。

 そして。


「お待たせしましたぁ」

「あ、どもども」

「これ、お会計ですぅ」

「あ、はいはい」


 プレートを四つ、曲芸のように持ってきた店長に遮られ、クルードは視線を逸らして対応する。

 店主から渡された領収書の紙を受け取り……そして絶句する。


「なん、だと?」


 その言葉に反応したのは。


「あ」

「……あー」


 イリスとカミュ。二人の少女は、どこか気まずげに声を漏らす。

 しかし、その声に耳を傾ける余裕は今のクルードには無い。

 何故なら。


「あの人……、ベリエッタさん。大量の酒を注文して、帰っていきましたよ」


 二桁に到達する、酒の注文の履歴。

 その時、クルードはようやく思い至る。


 あの女が、すぐに帰らなかった理由。

 それは、タダ酒を飲み酔っぱらっていたからに他ならない。


「あの――――クソ暴君がぁぁぁぁぁッ!」


 その場にいない存在に怒りを露わにするクルードと、それを宥めるホーネス。

 彼らは気がつかない。先程まで話しかけていた内容を。一体何に、クルードが疑問を覚えていたのか。

 ふと机の中央に陣取る山から、ペラリと一枚の紙切れがこぼれ落ちる。

 そこには、こう書かれていた。


【バルバリス帝国とキャメロン王国の歴史、及び三十年前の大戦における関連性について】

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