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鍍金だらけの不良英雄は、天才少女に煽られて騎士の頂点を目指す  作者: 裕福な貴族
忠義の騎士(前編)

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第1話 久方ぶりの平穏

お待たせしました……!

第三章始動です。

「えぐっ……ぐっ……あぁ……!」


 燦々と太陽照らす快晴の下。

 誰もが笑顔を浮かべ、大手を振って歩く。そんな穏やかな空気の中で、一際強く響き渡る嗚咽の音。

 ヒソヒソと、周りを過ぎ去る者たちの視線が痛い。


「おがえりなざいまぜぇ……! クルード様ぁっ!」

「めっちゃ泣くなぁお前!?」


 滝のような涙を流しながら直角に頭を下げるホーネスに対し、クルードは思わず反射的に大声を上げてしまった。


「たかが退院でそこまで泣かれると恥ずかしいわ!」

「でも、でもぉぉぉ」


 おぉーんと、ホーネスは天を見上げて男泣き。

 その姿にクルードは呆れたように手で顔を覆い、そしてうっすらと笑みを浮かべる。


「……心配かけたな。ただいま」


 心の底から、感謝と謝罪の念を込めてクルードは口を開く。

 三日間の意識不明状態に、それから()()()の療養生活。

 その間に、ホーネスをはじめとしたイリスやカミュの面々も幾度となくお見舞いに来てくれた。

 それらが紛れもない純粋な好意であると、クルードはこの数日間で身に染みてわかったのだ。

 嗚呼、自分は良い友を持ったなと。そう心の中で何度も呟きながら。


「…………はいっ!」


 そんな優しく放たれたクルードの言葉に、ホーネスは満面の笑みを浮かべる。


「ほんっと。アンタは色んな人に心配かけすぎよ」


 その時、クルードの後ろから白衣の人物が姿を現した。


「いい? 退院を許可したと言っても、無理をしていいとは言ってないんだからね!?」

「わ、わかってるよ……」

「ったく。ほんとわかってるのかしら……」


 ため息をつきながら呆れた様子で首を横に振るエルマーナ。

 その姿は心なしか、諦めが含まれているようにも感じた。


「入院中にも話したけど、絶っ対にしばらくは剣を振らないこと! 無理に体を動かさないこと! それと――――」


 ずいずいっと、エルマーナは人差し指を突きつけながらクルードへと迫る。



()()()()は、何があっても使わないこと」



 淡々と、今まで以上に鬼気迫る物言いでエルマーナは言葉を紡ぐ。

 そこに込められた様々な感情に、クルードは思わずつばを飲み込んだ。


「……あぁ。約束する」

「…………ならいいわ」


 毅然とした態度で、真っすぐに視線を合わせるクルード。

 そんな姿にようやく観念したのか、はたまた信用してくれたのか。エルマーナは静かに瞳を閉じて頷いた。

 そして。


「それじゃ、行ってらっしゃい。気を付けるのよ」


 瞳を細めながら、優しく笑みを浮かべたのだった。



「何はともあれ、無事に退院できてよかったですね!」

「あぁ。ホントにな」


 にぎやかな笑い声が響き渡る城下町を、二人は並んで歩いていく。

 煌びやかで美しい、人の平穏が象徴されているかのような美しい光景。

 そんな様相に、クルードは安らかな感情に浸る。


 これほど穏やかな日は久しぶりだ。

 そう感じてしまう程に、数日前の出来事は暗く凄惨な記憶であった。

 暗く湿った空気に、刃の輝きと鮮血が舞い散る戦場。

 文字通り、命の奪い合いに身を投じた身からして、この温かい日常がどれだけ貴重なものか改めて理解した。


 思い返せば、ここしばらくは激動の日々と言っても相違ないだろう。

 イリスとの出会いに始まり、ウィンリーとの再戦、そして先の一件。

 まさに、激動。そうとしか言い表せない日々に身を投じてきた。

 だが。


「……ガレッソ」


 ぽつりと、クルードは独り言を呟く。

 まだ終わっていない。

 激動は今もなお続いており、その中心には恩師の影がよぎるのだ。

 そして、自分自身も――――


「クルード様っ!」

「おわっ!?」


 ぬっと、クルードの視界に影が差す。

 至近距離に現れた凶悪な面、ホーネスの姿に思わず声を上げながらクルードは口を開く。


「な、なんだよ」

「ノンノン、ですよ!」

「……は?」

「そんな辛気臭い顔をしていては、クルード様の麗しきご尊顔も曇ってしまいます! そう、それはまるで月夜を覆い隠す黒雲のようにっ」


 クルクルと回りながら、ホーネスは仰々しい動作で天を仰ぐ。


「色々なことが起こり、気持ちの整理がつかないのは承知しています。その心情、察するに余りあるということも」

「ホーネス……」

「ですが、だからこそ! この久方ぶりの平穏を、心の底から思いっきり堪能しようではありませんか!」


 高らかに言葉を紡ぎ、ホーネスは静かに振り返る。

 そして。


「学友とは、そうして交流を深めるもの……でしょう?」


 穏やかに声色で、ホーネスは優しい笑みを浮かべた。

 その言葉に、クルードはハッと息を呑む。


 自分は未だに、激動の渦の中にいた。

 あの燃え盛るような烈火の日々の中で、自らの置かれている状況と過去、そして"憧れ"の真実と対峙した。

 何が本当で何が嘘か、何が起こっているか分からない。

 だから考える。ずっと、考えてきた。

 でも、今だけは。


「……そう、だな」


 今はただ、この平穏に浸りたい。


「せっかくの退院! 学校も無いってことは、サボり放題ってことだよなぁ!?」

「その通りです!」

「ってことは、遊んでもバチは当たんねえよな!」

「そのとぉぉぉりですっ」

「よぅしッ!」


 クルードは友の肩を抱き、意気揚々と拳を掲げる。


「まずは飯食いに行くぞ! はらへった!」

「でしたらお任せを! すでに準備は整っております!」


 主の要望に応える付き人のように、ホーネスは目を輝かせながら人差し指を立てる。

 そして、ビシッとある店を指し示した。


「小さな喫茶店ではありますが、退院祝いも兼ねて貸し切りにしております。イリス殿やカミュ殿もお待ちですよ!」

「でかしたホーネス!」


 そんな楽し気な会話を繰り広げながら、二人は店の前まで歩を進める。

 ふと、クルードの脳内に蘇るイリスの横顔。

 まだ、あの時の感謝を伝えられていない。カミュにしても、色々と心配をかけたことに対する謝罪も出来ていない。

 嗚呼、早く伝えたい。早く話したい。クルードは焦る気持ちを抑え、ゆっくり扉に手をかける。

 そして。


「だーかーらぁ。ぶっちゃけクソ坊主とはどこまでイッたわけ?」


 聞き覚えのある声と共に、下世話な内容が耳元に届く。

 落ち着いた雰囲気の店内にそぐわない、荒々しい言葉遣い。その場にいるだけで、雄々しく猛々しい空気が静かに揺らいでいる。

 クルードは、ゆっくり室内を見渡した。

 まず視界に飛び込む、純白と桃色の二つ頭。


「あ! クルードせんぱい!」


 ぶんぶんと手を振り、快活に笑みを浮かべるカミュ。そして。


「先輩! ちょうどいいところにッ!」


 焦燥感と、微かな怒りを滲ませるイリス。

 だが、クルードが驚いたのはそこでは無い。そんな、ありきたりの光景などでは断じて無い。

 どうして。なんで。


「お、なんだ――――」


 その声の主が、ゆっくりと振り返る。()()の長髪を、豪快になびかせながら。


「よォ、クソ坊主。待ってたぞ」

「ベリエッタっ……さん!?」


 傍若無人の暴君は、美しい獰猛な笑みを携えその場に君臨していた。

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