プロローグ 金色の出会い
温かくも涼しげな、心地よい風が優しく頬を撫でる。
光も眩しすぎることなく、丁度良い柔らかさで照らしてくれている。
絶好の天候。
新しい人生の門出に、最も相応しい。
「……ふ」
思わず笑みがこぼれる。
新しい人生の門出とは、我ながら随分とカッコつけたものだ。
自ら進んでこの道を選んだわけでは無く、選ぶ選択肢の無いまま逃げるように辿り着いただけだというのに。
いや、少なくとも憧れはあった。
幼少の頃から身近に存在していた、騎士という存在。
ソレを学ぶにおいて、ここ以上に相応しい場所も無いだろう。
聖キャバリス学院。
私は今日、この学び舎に足を踏み入れる。
「……ふっふっふ」
今度は先程のような、呆れた笑いでは無い。
心の底からこみ上げる、愉悦の感情。
「今に見ていろ……! 私はここで優秀な成績を収め、必ずやあの場所に帰り――――」
拳を固く握りしめ、一人誓いの言葉を吐き出した。
「おーい。そんなとこで何をぶつくさ言ってんだ?」
そんな決意を遮る、呆れかえる程にのんきな鬱陶しい声色。
頭上から降り注いだそれに、私はバッと顔を上げる。
「まだ入学式まで時間があるってのに随分気合入ってんなぁ。俺が言えたことじゃないが、お前も相当変わった奴だ!」
木の枝に腰かけ、傲慢にもこちらを見下す謎の人物。
葉の隙間から差す木漏れ日に、思わず目を細める。
その人物の顔は、逆光となってよく見ることが出来ない。
「……誰だ、貴殿は」
「あー、そっか。そういや自己紹介がまだだったな」
私の言葉にようやく名乗っていないことを思い出したのか、その人物は颯爽と木の枝から飛び降りた。
「っと」
膝で衝撃を吸収し、その少年は柔らに着地する。
瞬間、太陽の真っ白な光が鮮やかに光り輝く。
少年の金髪に、強く乱反射して。
「俺はクルード! お前は?」
金色の笑顔を振りまき、屈託のない表情でこちらに手を差し伸べる姿。
その様子に、無性に苛立ちが抑えきれない。
「私が誰か、だと……?」
沸騰するように、脳内に無数の言葉が湧き上がる。
その眼でこちらを見るな。
何も持たない人間が、私に近寄るな。
何の悩みも無い人間が、私を理解できるなどと思うな。
ありとあらゆる感情は湧き上がり渦を巻き、浮かんでは消えていく。
そして残った唯一の感情に、赴くままに行動を託す。
それは。
「いいか? よく覚えておけ」
ハリボテの虚栄心を、鍍金のように張り付けることだった。
「我が名はホーネス。いずれ――――貴殿の上に立つ者の名だ」




