表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍍金だらけの不良英雄は、天才少女に煽られて騎士の頂点を目指す  作者: 裕福な貴族
不屈の騎士

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/141

第31話 炎

「な、な、な…………」


 その存在を視認し、真っ先に反応したのは。


「何で、お前が……!?」


 圧倒的なまでの恐怖に顔を歪める、ナナシ。

 その姿は、これまで一度たりとも見せてこなかった純粋な怯えであった。


「あぁ? ……あれ、お前どっかで会ったか?」


 そんなナナシに視線を向け、ベリエッタと呼ばれたソレは腕を組みながら首を傾げる。

 そして。


「そうだ思い出した、二年前仕留め損ねたクソガキじゃねえか! 久しぶりだなァ。余生は楽しめたかよ?」


 旧友に挨拶を交わすように、軽い口調で物騒なことを口にするベリエッタ。その言葉から察するに、この二人には並々ならぬ因縁があることがわかる。

 クルードやイリス、他の者たちは知る由もない。

 二年前、今と同じ路地裏にて。黒装束の死体が大量に発見された、あの惨状を。


「おっと。それと、だ」


 突然、ベリエッタは思い出しかのように声を上げる。そして静かに、足を踏み出した。

 悠然にして、大胆。その歩みは、一見すれば隙だらけのように見える。

 だが、誰も動かない。動くことすら、許されない。

 放たれた重圧に押さえつけられているかのように、ただ呆然とその場に立ち尽くすだけ。その様は、滑稽と言わざるを得なかった。

 そんな中で、ベリエッタがふと立ち止まる。


「お久しぶりです、イリスさん。……なんてな」

「……………………えっ?」


 イリスの思考が、僅かに停止する。次いで口から出たのは、間抜けな声色。

 ありえない。しかし、この言葉遣いは。


「あなたは、王立騎士団の……?」

「ハッ、私が王立騎士団? あんなん嘘に決まってんだろ」

「それじゃあ一体、あなたは……」


 淡々と告げられる真実に目眩を覚えながら、イリスはなんとか言葉を紡いでいく。

 そんなイリスの姿に、ベリエッタはふっと笑い混じりの息を吐いた。


「お前も久しぶりだな、クソ坊主。この小娘に、私が誰だか教えてやりな」

「俺、ですか?」


 まさか自分に声がかかるとは思わず、クルードは慌てた様子で口を開く。


「いや、その。甲冑で声が反響してるし、凄い言いづらいんですけど……、どなたです?」

「おいおい、悲しいねぇ」


 そう言って白々しく嘆きながら、ベリエッタはゆっくりと甲冑に手を伸ばす。

 バサリと、燃え盛る炎が現れた。

 否、それは炎と錯覚するほどに色鮮やかな真紅の髪。苛烈な印象を与えるそれがクルードの視界に飛び込んだ。

 

「…………ど」


 そして。


「どうして、あんたがここに……ッ!?」


 クルードは、未だかつてない驚愕を露わにした。

 それは言葉通りに受け取れば、いるはずのない存在が目の前に現れたことに対する驚きである。この人物が何者か知らないイリスにとってみれば、何の話か分かったものでは無い。

 だが、クルードが口にした言葉の意味はそれだけでは無いだろう。何も知らないイリスでさえ、そう感じ取っていた。

 何故なら、クルードの表情に浮かぶ驚愕の中には、隠しようも無いほどの焦りが込められていたのだから。

 

「どうしてあんたがエマ先と一緒に!? あんたが動いたってことは、王国上層部は……、いや、つまり()()()は――――」

「はいはい、色々聞きたいことがあるのはわかるけどね」


 そんな焦燥感に満ちたクルードの背中に、白く細い腕が伸びる。


「アンタは、こっち」

「っ!?」


 グイッと引っ張られ、思わず倒れそうになるクルードの背中に柔らかな感触が広がる。

 エルマーナは後ろから抱擁するかのように、優しくクルードを受け止めていた。


「こんなに、ボロボロになるまで……」

「お、おい。離してくれよ」

「ダメ。これ以上、アンタに無理はさせない」


 そう口にするエルマーナの表情は、泣きそうなほどの安堵に包まれていた。

 ふと、クルードは気付く。

 自分を抱きしめる細い腕が、微かに震えていることに。


「もう、これ以上、アタシの傍で無茶をする奴は見たくないの」

「……エマ、先?」


 その姿は、今まで自分が見てきた気丈なエルマーナの印象とは全く違う。

 儚げで、脆く、まるで泣き出しそうな幼子のような。そんな姿のエルマーナに、クルードは思わず言葉を詰まらせる。


「エマ。坊主の容態は?」

「……まだ大丈夫、だと思う。少なくともアタシの研究が正しければ、これ以上の覚醒は無いわ」

「そりゃ何よりだな。最悪の一歩手前で踏みとどまったか」

「そうね、間一髪よ」


 ベリエッタとエルマーナ。二人の会話の内容は、その場にいる他の誰にも理解できるものでは無い。

 しかし。


「戦士の完全覚醒に至るには、この子の肉体はまだ人技に馴染んでいない」


 その言葉は、クルードにとって理解を放棄していいものでも無かった。


「一体、どういう……。あんたら、人技について何を知ってる……?」

「あ? それはだな――――」

「ベリエッタ」

「……ったく、わーったよ」


 何やら意味ありげな会話を交わす二人に対し、クルードは悔し気に表情を歪ませる。

 それが今にも癇癪を起こしそうな子供のようで、ベリエッタは思わずフッと笑みを浮かべた。

 そして、静かに手を伸ばす。


「まぁとにかくだ。私が来たからには、お前もわかってるんだろ?」


 ベリエッタの掌が、優しくクルードの頭を撫でる。その表情からは、先程まで放っていた覇気は一切感じない。

 あるのは、唯一つ。


「後で詳しく教えてやるから、坊主は大人しくしとけ」


 温かく包み込むような、柔らかな炎。その姿が、言葉が、クルードの心を静かに溶かしていく。

 ポカポカと、何かが胸中に湧き上がる。

 それだけでは無い。

 段々と、思考が緩んでいく。


「まって、くれ。おれ、は…………」


 意識が、暗闇に沈む。

 だがそれは気分の悪いモノでは無く、むしろその逆。恐ろしいほどに心地良い、微睡まどろみ

 クルードの瞳が徐々に薄まり、やがて完全に閉じられた。次いで、静かな寝息が口から漏れる。


「寝た……?」


 イリスは思わず、驚きをそのまま口にする。

 あれだけ緊張感を身体中に張り巡らせ、気力を振り絞って立ち上がったクルードが、一瞬にして眠りについた。

 それ自体は、何も問題がない。

 とっくにクルードは限界を突破していたし、いつ倒れてもおかしくないほどに憔悴していたのだ。何もおかしいことは無い。

 だが、イリスが驚いたのはそこでは無かった。


「……なんて、安らかな寝顔」


 クルードは決して、言葉にしなかった。でも、近くで見てきた後輩だから、イリスだからこそわかることがある。

 この状況下で安らかに眠りがつけるほどに、この二人を信頼しているという事実。それが何より、イリスには信じられなかった。


「……あなた方は」


 だから、思わず口にする。


「……あなた方は、一体何者ですか?」


 そんな問いかけに、ベリエッタは思わず笑う。意地悪に、心底楽しそうに。


「なんだ。大好きな先輩が取られそうで怖いのか、ん?」

「なッ、違います! 私はただ……」

「冗談だよ。そうカッカすんな」


 からかいを口にするベリエッタの姿に、イリスは困惑する。

 こんな姿、以前に出会った時とはまるで別人だ。これが本当に、あの時と同一人物なのか。そう、疑いたくなる。

 しかし、イリスはその一切合切を切り捨てる。

 重要なのは、そこじゃない。


「……もう一度、問います」


 深呼吸、一回。イリスは再び、口を開く。


「あなた方は、何者ですか?」


 そんなイリスの問いかけに、ベリエッタもまた再び笑う。だが、今度はからかうような笑みでは無い。

 もっと獰猛な、野性的な、凶気を孕んだ笑顔をベリエッタは浮かべる。そして、静かに告げる。


「生憎、私は隠し事が苦手でな。正直に名乗らせてもらう」


 美と狂気を纏いし獣は嗤う。


「七雄騎将序列第四位、ベリエッタだ」

「ッ!?」

「そしてコイツはお前の知ってる通り、聖キャバリス学院の保健医エルマーナ。そして――――」


 衝撃の正体にイリスが口を開く前に、ベリエッタは続けて言葉を放つ。


()王宮医療部隊、筆頭。私たちは、王女殿下付きの特務部隊……【天秤】だ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ