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第21話 怪物の領域

※今後の変更点を後書きに記載しております。

 まず初めにクルードが感じたのは、以前までと異なる感覚の変化であった。

 踏み込んだ足から、地面の感触が身体全体に伝わってくる。まるで地面が身体を押し上げてくれているのではないか。そう錯覚するほどに、沈み込んだ足から大地の反発を感じる。

 そして。


「――――――――シッ!」


 爆発する闘気と、加速する周りの光景。

 勢いよく飛び出したクルードの姿は、飛来する矢の様にナナシへと突っ込んでいく。


「いっ!?」


 そのあまりの速度に驚きの声を漏らし、ナナシが慌てて剣を構える。

 そして衝突する二対の刃。

 空中で火花を散らしながら対峙するクルードとナナシ。そして鍔迫り合いの様相から、力比べへと発展していく。

 ……はずだった。


「ちょ、ちょッ!?」


 一切拮抗することなく押し込まれるナナシの表情に焦りが滲む。

 ナナシが必死に押し返すも、刃はビクとも動かない。


「ハァッ!」

「く、そがッ!」


 クルードが短く声を上げると同時に、ナナシは苦悶の表情を浮かべた。

 純粋な力によって、ナナシの刃は無理やり弾き返される。慌ててその場から飛び退きながら、体勢を整えようとするナナシ。

 しかし、クルードはその隙を逃さなかった。


「おい、どこ行くんだよ」


 ナナシの顔を覗き込む冷徹な瞳。

 ゾクリと背筋が震えると同時に、ナナシは全身全霊で防御の構えを取る。

 瞬間、身体を貫いたと錯覚する程の衝撃が襲う。


「ご……ッ!?」


 身体をくの字に曲げ、勢いよく吹き飛んでいくナナシ。腹を抑え痛みに悶えながら、ナナシは冷静に思考する。

 剣で斬られると思った。故に防御の構えを取り、致命傷を避けようと画策した。

 だがクルードはその考えを見抜き、フェイントからの前蹴りへと動作を移行したのだ。

 鳩尾に喰い込んだ足裏の感触を思い出しながら、ナナシは苦笑いを浮かべる。


「いやはや、これは――――」



「これは……」


 視界に飛び込む闘争劇を眺めながら、ウィンリーはポツリと呟く。

 単なる好奇心だった。

 自分に敗北の味を覚えさせたウィンリーという男が、果たしてどのような死闘を繰り広げるのか。当時から一体、どれほど成長したのか。

 ただ、それだけのつもりだった。

 なのに。


「一方的じゃないか……!?」


 驚愕のあまり停止しそうになる思考を必死に稼働させながら、ウィンリーは眼前の光景を瞬きもせず見つめ続ける。

 ナナシという男は、誰にも気づかれること無く近づくことが出来る技量の持ち主であった。それは一目でわかる、殺し屋としての才覚。

 七雄騎将といえど、末席に身を置くだけのクルードでは苦戦を強いられて当然だと、そう思っていた。

 それが実際はどうだ。

 防戦一方のナナシを追い詰めるように、クルードは正確無比に剣を振るい続ける。縦横無尽に飛び交う剣撃は、反撃の隙を与えることなくナナシを攻め立てていた。


「は、ははッ! これほどまでとはねぇッ! 想像以上の成長速度だよォッ!」


 冷や汗を流し、後退の歩みを進めながらも、ナナシは笑顔を浮かべたまま称賛の言葉を漏らす。

 その姿に、余裕など欠片も無い。


「もはや凡庸の域を脱し、キミはようやく怪物の領域に手をかけたわけだッ! どんな気分!? 一度諦めかけた夢が、今目の前に広がっている喜びはさぁ!」

「ごちゃごちゃ五月蠅うるせぇよ」


 ナナシの軽口に取り付く島もなく、クルードは機械的に刃を振りかざす。そこに躊躇いなど無い。ただひたすらにナナシの首を狙うクルードの瞳は、思わずゾッとするほどに冷たいモノであった。

 ウィンリーは考える。自分が今クルードを相手取ったとして、どれくらい応戦できるだろうか。

 研ぎ澄まされた洞察力に、冴え渡った刃の煌めき。

 間違いない。断言できる。

 このキャメロン王国において、今のクルードに対抗できる存在はごく少数。数えるほどしか存在しない。


「チッ、肉壁ィッ!」


 このままでは不味いと悟ったのか、ナナシは近くで待機していた黒装束に命令を下す。

 顔も見えない物言わぬ人形が二体、クルードを相手取るべく前へ出る。


「邪魔」


 しかし、それも束の間の時間稼ぎにしかならない。

 クルードの一言と同時に、二体の人形は一太刀で斬り捨てられた。


「殺った」


 思わず、ウィンリーの口から言葉が漏れる。

 クルードとナナシの間にある距離は、僅か数歩分。肉壁は意味を為さず、ナナシは対抗策すらなく逃げ惑うのみ。

 これは、勝てる。

 そうウィンリーが確信した、その時だった。


「だ、めだ」


 手元で、息も絶え絶えな声が響く。


「いますぐ、とめるんだ」

「……副団長。それ以上喋れば、今にも死んでしまいますよ」

「じ、かん、が」

「……なんと?」


 応急処置として簡単な止血作業を行っていたウィンリーの手元で、デネットがかすれた声で言葉を紡ぐ。

 じっとしていてくれ。そう思ったウィンリーの耳に興味深い単語が入り込み、思わず問い返す。

 その言葉が聞こえているのか分からないが、デネットは焦燥を滲ませた声色で口を開く。


「じかんが、ない……!」


 その問答を行っている間に、クルードはついにナナシを追い詰める。

 短い死闘が、終わりを告げようとしていた。

私事ではございますが、本日より新社会人となりました。

それにともない明日分の投稿が終わり次第、投稿日を【毎週月曜日】とさせていただきます<(_ _)>

また、モチベーション維持のために感想・評価★等いただければ……大変励みになります……。

どうぞ皆様、これからも応援よろしくお願いいたします!

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