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鍍金だらけの不良英雄は、天才少女に煽られて騎士の頂点を目指す  作者: 裕福な貴族
不屈の騎士

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第1話 円卓会議

 騎士大国キャメロン。


 数百年の歴史を持つ国家にして、数多の英雄を輩出する由緒正しき王国である。

 広大な土地を有するが故に、長い歴史の中で幾度となくその領土を狙われてきた。

 王国の歴史は戦争の歴史。そう評する学者も少なくないという。

 だが、長い歴史の中でキャメロン王国が敗北を喫したことは一度も無い。


 七雄騎将。


 それは、選ばれた騎士だけに送られる名誉ある称号。

 彼らの存在は、他国に対しての抑止力と化した。

 騎士団の先頭に立ち敵兵を屠る様は、さながら鬼神の如し。

 敵国から畏怖を、自国からは羨望を向けられる存在。それが七雄騎将であった。


 そして、最後に行われた大戦争から三十年の時が流れ――――再び王国は揺らぎ始める。


 ☨  ☨  ☨


「奴の身柄を拘束せよ」


 第一声、過激な発言が部屋中に響き渡る。

 部屋の中央、円卓を取り囲むように均等に並べられた八つの席。その中でも、一際精巧に造られた席に座る老人。

 老人は厳かに、それでいて煮えたぎるような憎悪を滲ませながら口を開いた。


「ふむ。拘束、ですか」


 物騒なことを口走る老人。国王陛下その人に対し、同じく円卓に座していた一人の男は静かに無精ひげを撫でる。

 七雄騎将序列一位、スレイドは軽い口調で問い返す。


「それは王命であると。そういう認識でよろしいでしょうか?」

「然り。これは王命である」


 スレイドの言葉を肯定するように、国王は短く告げる。

 王命。その言葉が持つ意味を理解していないものなど、この場に存在しない。


「国王陛下」


 しかし。


「その提案、我々は同意しかねる」


 それが、王命を承諾する理由にはならない。物怖じしない発言で、堂々と国王の意志を否定する青年。

 七雄騎将序列二位、バイツは淡々と口を開く。


「我ら七雄騎将は、王ではなく()()()()()。王立騎士団と違い、我々には選択権がある」

「では、バイツ殿は王の命を否定されるということですかな?」


 バイツの言葉に水を差すように、円卓の外側から冷たい言葉が降りかかる。

 部屋の壁沿い、国王の背後を守るかのように佇む巨漢の騎士。特徴的なのは、額から顎にかけて斜めに奔る傷跡。顔に刻み込まれたおぞましい裂傷も相まって、その騎士からは近寄りがたい雰囲気が立ち上っていた。


「王の御言葉は国の意志そのもの。七雄騎将であろうとも、そう無下にされては――――」

「口を慎め。円卓の外から誰が口を挟んでいる」


 バイツの無情にも冷たい言葉が、騎士の発言を遮った。その表情に滲むは、侮蔑と苛立ち。

 円卓会議にて部外者が口を挟む。その事実に、バイツは静かに怒りを露わにした。


「……これは失礼しました」

「良い。王立騎士団を代表してこの場に出席してくれたこと、儂は感謝しておるぞ。ゴルドレよ」

「ハッ! 既に我が剣は陛下に捧げてございます」


 感謝の言葉を述べる国王と、ゴルドレと呼ばれた騎士の忠義の姿勢。まさに王道、手本となるべき理想の騎士と主君の在り方である。

 だが。


「……茶番が」


 バイツはその光景を嫌悪する。

 まるで三文芝居を見せられているかのような、形容しがたい違和感を吐き捨てる。

 もちろんだが、その言葉は誰にも聞こえない小さな声で発せられていた。いくら七雄騎将といえど、面と向かって侮辱すれば罪に問われかねない。

 故に、バイツは一人静かに表情を歪ませる。


「ふふ」


 そんな光景を横目に、一人笑いを隠す女性。

 七雄騎将序列三位、ラミエは目の前の光景を純粋に楽しんでいた。様々な思惑が交錯する空間の中で、傍観者で居続ける。

 ラミエという人間は、そういう状況に愉悦を見出す女性であった。


「さてさて。ではいかがしましょうか」


 そして、この中で最も言葉に重みがある人物。


「バイツ君の言う通り、我々には選択権がある。しかし、ゴルドレ君の考えもまた正しい。陛下の発言には、この国の意志が宿っているのですから」


 スレイドは笑う。

 無感情な瞳が、静かに国王の瞳を覗き込む。


「陛下。理由をお聞かせ願えますか?」


 深淵が、空間を呑み込んでいく。そう錯覚するほどに、スレイドの発言一つ一つが重みと深みを感じさせる。

 誰もが答えを待った。

 国王が、何故それほどまでに彼の少年にこだわるのか。


「理由とな」


 そして、国王はスレイドの瞳を見つめ返す。


「バルバリス帝国との関係性。それだけで、十分理由になるであろう?」


 その瞳もまた、深淵であった。

 どこまでも続く暗闇の中に、黒く煮えたぎる炎。それは自分のみならず、触れるもの全てを焼き尽くさんが如く燃え盛っていた。

 スレイドは理解する。

 純粋に、それで理由としては十分だと考えている国王。それは思考放棄か、揺らがぬ覚悟か。いずれにせよ、その想いは十二分に伝わった。


「なるほど。理解いたしました」


 一人頷き、優し気な笑みを浮かべながらスレイドは口を開く。


「ゴルドレ君」

「……何でございましょうか」


 そして、困惑した表情で問い返すゴルドレに対し告げる。


「陛下はお疲れのようだ。自室に連れていって差し上げなさい」

「なっ!?」


 それは予想を大きく裏切る発言。

 驚きに表情を歪ませたのはゴルドレだけではない。その場にいた者全員が、目を見開いてその光景を見つめていた。


「ええ」


 否。


「それがいいですわ、お父様」


 全員ではない。

 驚くことなく、淡々と自分の役割を果たす少女が一人。彼女は、スレイドの行動を予測していたかのように言葉を紡ぐ。


「ゴルドレ。お父様を自室へ」

「は、ははッ!」

「ま、待ってくれエリーゼ。儂はまだ……」

「お父様」


 もはやそこに、先程までの瞳に炎を滾らせていた老人の姿は無かった。ただ娘の行動に目を白黒させる凡庸な父親がそこにいた。


「大丈夫です。私がお父様の分まで頑張りますから」

「お、おぉ。エリーゼ……」


 瞬間、困惑は全て消し飛び、微睡の中に老人は沈んでいく。

 怒涛の展開冷めやらぬまま、あれよあれよと国王は部屋の外へと運び出されていった。

 残されたのは円卓に座す英雄たちと、在るべき主を失った空の玉座が一席。


「さて、お待たせしました」


 その玉座に、少女は腰を掛ける。

 舞台は遂に整った。


「それでは、円卓会議を始めましょう」

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