表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍍金だらけの不良英雄は、天才少女に煽られて騎士の頂点を目指す  作者: 裕福な貴族
鍍金の騎士

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/141

第45話 激動

 ゆっくりと流れる時の中で、ウィンリーが大きく吹き飛ばされていく。

 左下から奔る大きな傷跡から、鮮血が溢れている。

 俺は、そして地面に倒れ込みながら大の字に天を仰ぐウィンリーの姿を見た。


「そこまでェッ!」


 審判が鋭く声を発し、試合終了を告げる。そして。


「勝者、クルードォッ!」


 その言葉の内容が、一瞬理解できなかった。

 頭があまり回らない。今、何が起こっているのか。そんな風に困惑する俺に対し、ソレは降り注いだ。


「…………ぉ」


 観客の声が、静かに漏れる。

 また、罵倒の嵐が来る。咄嗟にそう思い、俺は静かに目を瞑った。

 しかし。


「うぉぉぉぉぉぉぉッ!」


 予想していたのとは全く違う光景。

 拍手喝采。歓声が飛び交うコロッセオの中央で、俺は茫然と佇んでいた。

 何故。俺は理解が追い付かないまま、周囲を見渡していく。


「すげえッ!」

「よくやった!」

「クルードぉぉぉッ!」


 嬉々として声を上げる観客たち。


「君の試合が、彼らの価値観を変えたんだ」


 ふと、横から声がかかる。

 俺がそちらの方角へ視線を向けると、そこには審判が立っていた。


「もう君を馬鹿にする者は、この空間には存在しないだろうね」

「……そう、ですか」


 あまりに実感が湧かない。俺は本当に、勝利したのか。

 そう思いながら、俺はそう言えばとウィンリーの姿へ視線を向ける。

 そこでは、救急隊と思わしき人々がウィンリーの応急処置を行っていた。

 

「刀身の潰された剣であの傷を作るとは……、君は凄いことをしたものだね」


 審判が信じられないと言った様子で小さく呟く。

 俺はふと、自分の手を見つめる。

 最後の一撃は、明らかに俺が放つことの出来る技量の範疇を超えていた。

 無意識の閃光。そうとしか呼べないほどに、あの刃は早すぎた。

 俺が物思いに耽っていた、その時。


「何やってんだ、ウィンリーッ!」


 罵倒の標的が、変わっていく。


「ふざけんじゃねえ!」

「あんだけ偉そうなこと言っておいて、結局負けんのかよ!」

「何が天才だ!」


 観客たちは悪意の言葉を吐き散らす。

 彼らは心の中にある劣等感をついに吐き出した。

 天才が負け、凡才が勝利したという事実。それが彼らに免罪符を与える。 

 俺は思わず、足を一歩踏み出した。 


「君が止める必要は無い」


 しかし、それを審判が阻んだ。


「君は以前、同じ屈辱を味わった。あのウィンリーという男は、嬉々としてそれを見ていたんだ。それなのに、君は彼を許すのか?」


 それは紛れもなく正論だと、俺は分かっていた。

 あいつにやられた心の傷は、永遠に消えることは無い。


「俺は」


 それでも。


「仲間たちに恥じない、カッコいい騎士になりたいんすよ」


 俺の取るべき選択は、もう決まっている。

 俺の言葉に唖然とする審判に笑いかけながら、俺はウィンリーの元へ足を運んだ。


「……何しに来た」


 包帯を体に巻かれたウィンリーは、息も絶え絶えに口を開く。

 その表情は、屈辱に歪んでいる。


「よっと」


 そんなウィンリーを。


「な、何をする!?」


 俺は肩を貸して、立ち上がらせる。


「ただの自己満足だ」

「ふざけるなッ! こんな屈辱を受けて、僕は――――」

「勝手に屈辱に塗れてろ」


 ウィンリーの言葉を遮って、俺は口を開く。

 勝ち誇った笑みを浮かべながら。


「言っとくけど、俺はお前を許してねぇ」


 この行動は、俺がしたいからする。

 ただ、それだけだ。


「だからさっさと歩けよ。負け犬君」


 そう言って、俺は少しずつ場外へと歩いていく。

 負けた上に肩を借りるという屈辱を受け、ウィンリーは表情を歪めながら静かに呟く。


「…………凡愚が」


 そして、俺たちはコロッセオを後にする。

 静まり返った観客たちの視線を、背中に感じながら。



「緊急招集だ」


 国王は告げる。


「七雄騎将を全員呼べ。円卓会議を開く」


 そして、激動が幕を開ける。



「さーて。面白くなってきたねぇ」


 男は笑う。

 この後に起こるだろう、混乱の宴を想像して。


「冗談じゃない」


 青年は怒る。

 再び繰り返される、悪夢を思い出して。


「ふーん……?」


 女性は思考する。

 興味深そうに、二人の騎士の背中を見つめながら。


 と、その時だった。

 扉がノックされ、一人の男が姿を現した。


「失礼いたします。王命をお伝えに参りました」


 その言葉に、三人は事情を察する。

 そして同時に立ち上がった。


「七雄騎将、序列三位。ラミエ様」

「はーい」


 ラミエと呼ばれた女性は、めんどくさそうに口を開く。


「序列二位。バイツ様」

「分かっている」


 バイツと呼ばれた青年は、その意味を理解して不機嫌そうに吐き捨てる。


「序列一位。スレイド様」

「はいよ。それじゃあ皆、行こうか」


 スレイドと呼ばれた男は、無精ひげを撫でながら笑みを浮かべた。

 彼らは足を踏み出し、部屋を後にする。

 

 各々が違う感情を抱きながら、御前試合は幕を下ろす。

 これより始まるのは、陰謀渦巻く英雄たちの会合。



「ガレッソォッ!」


 憤怒の感情に顔を歪めながら、エレガスが咆哮する。

 今までの優しい表情は鳴りを潜め、凶暴な一面がその姿を現していた。


「落ち着け」


 エレガスに掴まれた襟元を、ガレッソは自らの手で押さえつける。

 睨み合う強者たち。

 化け物同士が対峙する周りには誰もいない。この話をするために、二人は別の部屋に移動したのだ。

 むしろ、そうでなければ困るだろう。

 吹き荒れる暴威の波動を受けて、まともに立っていられる人間などほとんど存在しない。

 それほどに、二人は凶悪な空気に身を包んでいた。


「落ち着いていられるかッ! あの技を教えたのは、貴様だろうッ!?」

「あぁ、そうだ」

「何故だッ!? あれは、あの技は……」

「お前が取り乱すのも無理は無い」


 そう言って、ガレッソは口にする。


「元七雄騎将序列一位――――お前の親友は、あの技で命を落としているからな」


 その言葉に、エレガスの殺気が膨れ上がる。


「何故、貴様がそれを知っている!? それを知っていながら、どうしてクルードに教えたッ!」

「ルー坊がそれを望んでいたからだ」

「だからと言って、何故――――」

「てめぇには分かんねえだろうよ」


 瞬間、ガレッソの殺意も膨れ上がる。

 二体の怪物が、互いの首を噛み千切らんばかりに睨み合う。

 そんな中で、ガレッソは静かに口を開く。


「未来を捨ててでも勝ちたいという願いは、貴様らのような存在には理解できねェ」


 執念。

 ドロドロに煮詰まった黒い感情が、言葉の節々からこぼれ落ちる。

 未だかつて見たことのない存在を目の当たりにしたエレガスは、思わず手の力を緩めた。

 その様子に、ガレッソは静かに手を下ろす。


「止めたければ、お前が止めてみろ。クルードは、お前が思っている以上にこちら側の人間だ」


 そう言って、ガレッソは背中を向け足を踏み出した。


「今まで弟から逃げてきた兄に、止められるものならな」


 エレガスの胸が高鳴る。

 ずっと気にしてきた、見て見ぬフリをしてきた。

 そんな事実が、無情にもエレガスの心に突き刺さる。


「……お前は何者だ?」


 負け惜しみのように、顔を歪めながらエレガスは問う。


「俺か?」


 その問いに対し、ガレッソは小さく呟いた。


「俺は――――亡霊だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ