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鍍金だらけの不良英雄は、天才少女に煽られて騎士の頂点を目指す  作者: 裕福な貴族
鍍金の騎士

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第41話 天技

 その光景は、観客たちから言葉を奪うに足る衝撃であった。


 土に塗れてなお悠然と佇む、自分たちが凡人と蔑んでいた者。顔面蒼白の状態で腹を抑える、天才と皆から認められていた者。

 彼らの立場は完全に逆のものとなっていた。

 

 それだけでは無い。最前列に座る者たちは、確かに聞いた。


「その紙一重の差が、天才に届くことだってあるんだぜ」


 クルードが口にした言葉は、聞く者に勇気を与える。

 胸に宿った小さな感情の発露は、徐々に全体へと伝播していく。

 この男は、本当に自分たちが馬鹿にしていた凡人なのか。自分たちが侮辱していい様な人間なのか。

 微かに脳裏によぎる、様々な疑問。しかし、それを認めることは難しい。

 何故なら、ソレを認めてしまったら、自分たちのこれまでの言動がどれほど愚かであったかを直視することになってしまう。


「あぁ、わかった」


 だから。


「あいつは俺たちとは違う。天才なんだ」


 現実に蓋をする。

 凡人だと思うから自分に浅ましさに反吐が出るのだ。初めから別の人種だと判断してしまえば、苦しい思いをしなくて済む。

 そんな感情もまた、全体に伝播していく。


 思惑に揺れ動くコロッセオ。

 その中央で、まだ闘争は続く。



「……き、さまァッ!」


 苦痛に顔を歪ませながら、ウィンリーは声に怒りを滲ませる。


「そんな卑怯な手を使って、許されると思っているのか!?」

「卑怯? どこが?」


 ウィンリーの発言に対し、俺は意味も分からず首を傾げる。

 そして当然のように口を開く。


「持てる力全てを使って、俺はお前に勝つ。そのためには手段なんか選ばねぇ」

「騎士の誇りを忘れたか、この下郎!」

「お前にとっての騎士と、俺にとっての騎士は違う」


 それは自分が悩み続けた結果、辿り着いた俺だけの答え。


「仲間の期待に応えるために、俺は負けるわけにはいかない」


 信頼してくれる友のために。

 俺は自分の信念を以て、自分の騎士道を貫き通す。

 それが、俺の目指す騎士の姿だから。


「……嗚呼、そうか」


 そんな風に考えていた俺の眼前で、ウィンリーはゆっくりと顔を上げる。

 その表情、瞳の奥に映りこむ深淵。


 ゾワッと。背筋が震え、鳥肌が脈打つ。最大出力の警報が脳内に鳴り響いている。

 これは、ヤバい。


「うん、そうだな。わかった。もう決めたよ」


 優し気な笑みを浮かべているが、その裏に込められた感情は隠すことなく放出されている。

 ウィンリーの身体からどす黒い闘気が溢れ出し、対峙するこちらの肌をじりじりと焦がすような錯覚を感じさせる。


「君を殺す」


 嘘偽りなき、完全なる殺意が顕現する。

 そして次の瞬間。


「…………は?」


 突如、音も無くウィンリーの姿が消える。

 否、消えたわけでは無い。ウィンリーが素早く身を屈め、低姿勢で潜り込んできたのだ。

 気がつけば懐に入り込まれているこの状況に、冷や汗が止まることなく溢れる。


「このッ!」


 咄嗟に剣を振るい、ウィンリーの動きを少しでも阻害しようとしたその時。

 まるで陽炎のように姿形がブレる。


「ごッ!?」


 認識する間もなく、腹に響く鈍痛。

 そのあまりに重い衝撃に、吐瀉物が胃から喉へとこみ上げる。

 だが、まだ攻撃は終わらない。


「死ね」


 横薙ぎに振り払ったウィンリーの刃が、俺の胴体に直撃する。

 軋む骨の音を感じながら、俺はそのまま横跳びに吹き飛ばされていく。

 さらに土に塗れていく身体。

 そして。


「お、おぇぇ」


 ついに限界を迎え、口から吐瀉物を撒き散らす。

 まるで不快感が身体中を包み込んでいるかのようだ。

 身体が激痛を訴えている。


「やはり、本気を出せばこの程度か」


 俺を見下すような形で、ウィンリーは一歩ずつ歩み寄って来る。


「これが僕の()()翠玉陽炎エメラルド・ヘイズ


 そして静かに告げられる、違和感の正体。


「君は知っているかい? 天技というモノを」

「てん、ぎ……」


 その名前は過去に一度口にしていた男がいたはずだ。

 嵐撃らんげきのボルカ。隣国で天才と呼ばれていたと自称する、ブーテン村で対峙した因縁の男。

 奴は、確かに天技と言っていた。

 まさか――――


「天技とはすなわち、才能の本質そのもの。文字通り、()()()()()()()()()さ」


 これが。天才と呼ばれる者たちが放つ、違和感の正体か。

 

「この僕でさえ、天技が発現したのはつい昨年のことだ」

「昨年、だと……?」

「あぁ」


 そう言って、ウィンリーは嗤った。

 その姿はまるで、傲慢を具現化したような卑しく醜悪な笑みであった。


「君と御前試合を行った日より少し前……。僕は、この力を手に入れた!」


 恍惚の表情を浮かべながら天を仰ぐウィンリー。

 完全に、自分の世界に入ってやがる。

 俺は痛む身体を抑えながら、ゆっくりと立ち上がった。


「つまりどういうことか、君には理解できるか!? 天技が発現したということは、僕の才能を天が認めたということの証明さ! 故にィッ、僕は人の上に立たねばならないッ! 英雄に選ばれてしかるべき存在なんだよォッ!」


 ウィンリーの瞳孔は完全に開かれており、獣の如き咆哮が周囲を威嚇する。

 その身に纏う闘気は、今までの比では無い。

 憤怒か、殺意か。

 黒い感情に支配されたウィンリーの姿は、明らかに正気とは思えなかった。


「だからァ――――」


 そして獣は、ダラリと腕の力を抜いた。


「俺が正義だァァァッ!」


 爆発する咆哮と共に、獣は俺に向かって一直線に走り行く。

 確かに凄まじい速度だ。しかし、何度もその早さに驚かされるほど間抜けなつもりも無い。

 剣を両手で握りしめ、俺はウィンリーの一撃を迎え撃つ。

 だが。


「ぐッ!?」


 まただ。

 ウィンリーの刃が突如としてその軌道を変える。剣が意志を持っているかのように、俺の防御を音も無く通過していく。

 横腹に奔る衝撃に、俺は再び吹き飛ばされていった。


「が…………ク……ッ」


 痛みで呼吸すらままならない。

 横腹を抑えながら呻きを漏らす俺の姿を、ウィンリーは勝ち誇った様子で眺めている。


「そうだ。土に塗れろ。地面を這いつくばれ。才無き者にはそれが相応しい」


 悪魔。

 そう呼ぶしかない程に、ウィンリーの笑みは邪悪そのものであった。

 痛みに悶えつつも、俺は冷静に思考する。


 攻撃を受けながら、俺は一つ分かったことがある。

 人を惹きつける美しき剣技を繰り出し、燦然さんぜんと輝くまばゆい存在。

 それが天才と呼ばれる人種であると、そう思っていた。

 そして天技とは、まさに天才たちが放つ眩い剣の輝き。


「さぁ、クルード君。その身で味わうがいい」


 つまり。


「才無き者では到達することの叶わぬ――――天上の世界を」


 天技を破らなければ、約束は果たせない。

 才能だけが全てでは無いと、証明することは叶わない。


 トラウマ克服。その最大の壁が今、遂に牙を剥く。

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