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鍍金だらけの不良英雄は、天才少女に煽られて騎士の頂点を目指す  作者: 裕福な貴族
鍍金の騎士

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第20話 演劇、開幕

「さぁどうぞ。ここが、富裕層限定の個室席となります」

「おぉ、すげぇ……」


 カミュ父が紹介してくれた部屋に辿り着いた俺たちは、視界の先に広がる光景に、思わず感嘆のため息を漏らす。

 全面ガラス張りの部屋、そして中央には真っ赤なソファが一つ。

 部屋からは劇場の景色を上から一望することができ、舞台上がとても見やすくなっている。

 今から俺たちは、こんな空間で演劇を見ることが出来るのか。

 明らかな場違い感に、肩身が狭くなる感覚を覚える。


「いいんですか……? こんな場所使わせてもらっちゃって」


 連れてきてもらっただけの立場であるイリスは、少し申し訳なさそうな表情で俺の方へと視線を向ける。

 それは俺も同じ考えだ。

 まさかこんな豪華な部屋を使わせてもらえるなんて想定外でしかない。


「大丈夫ですよ。ガレッソさんの大事な教え子さん方ですから」

「私会ったことないのに……」

「今度会わせてやるよ。まぁ、イリスは絶対に嫌いなタイプだろうけどな」

「なら遠慮しときます」


 カミュ父は、俺たちのことをガレッソの教え子として優遇してくれている。

 だが、それだけではないだろう。


「カミュのお父さんは、ガレッソ先生とどういう関係なんですか?」

「おっと、そういえば自己紹介が遅れましたね」


 俺の言葉を聞き、カミュ父は改めて恭しく頭を下げる。


「わたくし、サック・シュバルツと申します。娘共々、今後ともよろしくね」

「あ、ご丁寧にどうも。俺の名前はクロードって言います」

「私はイリス――――あ! た、ただのイリスです」

「おっと、そうかそうか」


 カミュ父ことサックの後に続き、俺たちも自分の名前を告げていく。

 その時イリスが言い淀んだのを見て、サックは思い出したように頭をかきながら微笑んだ。


「騎士となる人間は、()()()()()()()()()()()。そういう決まりだったね」

「まぁ、家名を捨てても国に仕えるのが騎士の本懐ですから」

「いやはや、そうだった。すっかり失念していたよ」

「あのー、ところで…………」


 そんなことはどうだっていい。

 景色も素晴らしい。部屋なんか最高の一言に過ぎる。こんな特等席を用意してもらって、文句なんかつけようはずもない。

 ただ、一つだけ言わせて欲しい。


「なんで、俺とイリスの二人だけなんですか!?」


 防音対策のしっかり施された部屋の中で、俺の叫び声が響き渡る。


「なんで、って言われても……。君とカミュちゃんが持つチケットは種類が違うからさ。カミュちゃんが持ってたのは一般向けで、君のは優待券なんだよぉ」


 俺の大声に耳を塞いだサックは、まるで当たり前のように口を開いた。

 あぁ分かった。それは百歩譲っていいだろう。

 しかし。

 俺はサックの腕を引き、小さな声で言葉を発する。


「せめて男女別々にしてくださいよ! 館長ならできるでしょう!」

「何を言うんだね。この密室で男女二人きり。何かが始まると思わないかい」

「始まらなくていい!」


 目を輝かせるサックの表情に、思わず少し強めにツッコミを入れる。

 そんなお節介をやられて、思春期の男の子は気が気では無いと思わなかったのだろうか。

 しかも相手はあのイリス。気まずいったらありゃしない。


「あぁ、言っておくけど」


 そんな俺の考えを知ってか知らずか、サックは優しげな表情を浮かべながら俺の肩に手を置いた。


「カミュちゃんに手を出すなら――――覚悟しておいてね?」

「いたたたたッ! 別にそんな考えないですよ!?」


 ミシミシと音を鳴らしながら肩に置いた手に力が入っていく。

 このおっさん、どうやらとんだ親バカだったらしい。

 なるほど、だからこの部屋にカミュを連れてこなかったのか。

 俺は一人静かに心の中で納得した。


「えと、先輩? 大丈夫ですか?」

「あ、あぁ! 何でもない気にすんな!」


 イリスの少し不安げな言葉に、俺は手を振りながら気楽に答える。

 そしてサックからゆっくり離れると、肩を抑えつつ口を開いた。


「で、ガレッソ先生との関係は?」

「なぁに。ただこの劇場の開業時に、少しお力添えをもらっただけさ」

「へぇ」

「それからあの人とは長い付き合いでね。ちょくちょく二人で飲みに行くんだよ。君も大人になったら一緒にどうだい?」

「ハハハ、ソウデスネ」


 癖の強いおっさん二人の飲み会なんてろくなもんじゃない。絶対に巻き込まれてたまるものか。

 俺は乾いた笑いをこぼしながら目を逸らした。


「と、いう訳さ。今日はたっぷり楽しんで欲しいな!」


 そう言ってサックは、ニコニコと笑みを浮かべながら優雅に頭を下げる。

 そして部屋の扉へと足を運び、ドアノブに手をかけるその直前。


「あぁそうだ、クルード君」

「はい?」


 突然声をかけられて、俺は思わず首を傾げる。

 しかし、振り返ったサックの表情を見た俺は、思わず息をのんだ。

 その表情に写し出されていたのは、今までの嬉々としたモノではない。


「君にとって、騎士とはなんだい?」


 サックの鋭い眼光が、俺の鍍金を剥がしにかかる。

 そんな錯覚を覚え、俺は僅かに後ずさった。


「お、れは」


 騎士とは何か。

 そんなことを突然言われても、どう答えればいいのか分からない。

 いつも通り、のらりくらりと適当な事を答えればいい。この人とは初対面なのだから、真剣に答える必要などどこにもない。

 それなのに。

 何故だかこの場では、誤魔化すことは許されないように感じた。

 だから俺は、何も答えられない。

 その答えを必死に自問自答し続け、俺はここまで無様に這いつくばって進んできた。

 だから。


「…………わからない、です」


 そう答えるしかなかった。

 そんな俺を見て、サックは少し悲しそうな表情で笑う。


「その答えが、少しでも見つかるといいね」


 サックはそう言って、今度こそドアノブに手を伸ばし部屋の外へと出ていった。

 そして残される二人。

 辺りには謎の緊張感と共に、沈黙だけが支配している。


「先輩……」


 気が付けば辺りは段々と暗くなっている。

 俺を呼ぶイリスの表情は、暗い影に隠されよく見ることが出来ない。

 間もなく、演劇の幕が上がる。


「悪いな。さ、お前も見たがってたんだろ? ゆっくり楽しもうぜ」

「…………はい」


 そして俺たちはソファへと腰を下ろす。

 柔らかい質感を感じながら、俺たちはゆっくりと沈んでいく。

 どこまでも深い闇の中、視界の先で赤いカーテンが揺れている。


 演劇の舞台が、静かに幕を開けた。

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