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鍍金だらけの不良英雄は、天才少女に煽られて騎士の頂点を目指す  作者: 裕福な貴族
忠義の騎士(後編)

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第9話 【思い出しましたか?】

お久しぶりの更新です。

「バルタニカ皇国が強者となったのか、我々が弱者と化したのか。はたまた、どちらも、か」


 口を閉ざしたまま呆気にとられるデネットは、まるで背景の一部と化してしまったのか、誰からも視線を向けられることは無い。この舞台において主役は英雄たちであり、王家の血を継ぐ者たちであった。


「先日、ナナシという男が暗躍していた一件。奴は自らのことを亡霊と語ったそうだ。三十年前、戦争に勝利した我々が、バルタニカ皇国の捕虜を奴隷として使役していた歴史からすれば、まさに奴は『過去の亡霊』であろう。――だが、報告ではナナシの見た目は若く、到底三十年前の戦争に従軍していたとは思えない」

「何が言いてぇ?」

「王国で暗躍していた『亡霊』はナナシだけではない。いや、真に『バルタニカ戦役の亡霊』がいるならば、その者は十中八九、この王都で復讐の機会を狙っている」


 ベリエッタの疑問に後押しされるように、ライアードは自らの推論を口にする。その内容は一見すると飛躍しているように感じられたが、その辻褄の合った内容と、押し込められた感情には確かな説得力があった。


「そして、ナナシをその手に斬り伏せたとされる正体不明の黒装束。恐らく奴こそが首謀者であり、亡霊の将であり、キャメロン王国の負の遺産そのものである」


 吐き捨てられたため息と、クックと押し殺すようにして喉をかき鳴らす笑い声。


「なァ、聖女。王国の正しき歴史の象徴よ。貴様は知っていたのだろう?」


 ライアードの瞳は、殺意を以てエリーゼを貫く。


「貴様の父が、故意に隠そうとした――ガレッソという男の正体を」


 デネットは大きく背筋を震わせる。それは友であるエレガスと共に聖キャバリス学院で講師を務めていたとされる男であり、クルードが師事していたと目される、まさに目下捜索中の男なのだから。


「兄者だけではない。学院の長と共謀し、まさか()()()()()()を学び舎に閉じ込めるとはな」

「……その男は、ただの元バルタニカ皇国の戦士でしょう。身辺調査は済んでいるはずですが」

「いいや!? そのような言い逃れで、今さら追及を逃れることなどできんぞッ!」


 鬼気迫る形相から滲む執念が、ドロリと音を立てて溢れ出し、王宮そのものを包み込んで飲み干していく。そんな錯覚を抱かせるほどに、ライアードは全身を身振り手振り震わせて感情を叩きつける。


「我が兄、ライドリヒが唯一愛した女! そう、貴様の亡き母親は、かつてバルタニカ皇国民であった! ……そしてガレッソ。奴こそ、彼女が唯一愛した肉親――――実弟()()()()()


 仇敵の名を呟くように、ライアードは言葉を絞り出す。


「貴様ら親子は、敵国の危険因子を腹の中で匿い続けていたのだッ! 重罪だッ! 死刑すらも生ぬるい愚行だと、貴様らは理解しているのかッ…………などと怒鳴り散らすことは簡単だ」


 荒ぶった波が、ピタリと音も無く静まり返る。自然の理不尽さに似た起伏の読めない様子に、デネットは一人静かに恐怖を抱く。


「よって、一つ取引をしようじゃないか。私と貴様、王国の政権を二分する存在である我々による、代理戦争によって此度の一件に幕を下ろそう」

「……聞きましょう」

「貴様は『聖女』という役割に縛られ、表舞台で公に動くことができない。それは【言霊(ことだま)の権能】が、人間として自由に動くことができず、一市民と同じ立場に降りることができないという制約がもたらす、一種の催眠術だからだ」


 道化師は、嬉々として術のからくりを語る。


「手の届かぬ高みという立場は尊敬の対象となり、過度な威光は時として畏怖と成す。神の如き御言(みこと)は、本能的に逆らってはいけないと肉体に信号を送る。これこそが、長き歴史に裏付けられた『聖女』の力。そうだろう?」

「よく調べたものですね。その執着、素晴らしい才能です。いっそ歴史研究家になられたらいかがでしょう?」

「故に、貴様は自分の代わりとなる手足を用意した。特務部隊『天秤』に、剣と盾」


 ゆっくりと持ち上げられた腕が、緩やかに交差する。十字を描く腕の軌跡。その上で、ライアードは厭らしい笑みを浮かべる。


「その全ての行動を禁止する。それが私の条件だ」

「何?」

「ベリエッタ、スレイドの行動は貴様が制限しろ。城外に出さず、事が終わるまで盤上の隅にでも追いやるがいい。貴様ができることは、権能を用いて状況を間接的にコントロールすること。そこで口を閉じている、哀れな操り人形共を使う事は許そう」


 ライアードの視線が、跪く騎士団長三名に注がれる。その視線の内、自分に注がれていた視線の重みが、不意に消え去るような予感がした。


「無論、私も使わせてもらうがな」


 盤面の駒になってしまったかのような感覚に、デネットは己の矮小さを自覚する。この舞台において、自分に人権というモノは無く、騎士団長という肩書など意味を為さないと知った。

 あるのはただ、自分を使役する人間にまともな倫理観が備わっていること。それを祈るのみ。


「そうそう。それと、クルードという男は邪魔だ。事が始まる前に、舞台上から消させてもらうぞ」


 ここに来て初めて、デネットは自分の意志で瞳を向けた。信じられない者を見るかのような眼差しで、ライアードを見つめる。


「奴は、我が息子の行動を制限している。私が今回、奴を呼び戻すにあたって、あの男には退場してもらわねば。ザハト」

「……は」

「いずれお前に、その任を下す」

「……御意」


 目の前で繰り広げられる問答に、デネットは強く歯を嚙み締めた。己が認めた若き英雄が、こんな怪物たちの余興によって未来を絶たれようとしている。

 そんなことが、あっていいはずがない。許されていいはずが無い。


「ふざ、け」

「…………あ?」


 声に、出していた。無意識の行動が生んだ結果、幾数もの怪物たちの視線が一斉にデネットを貫いていた。

 その中でも一際、ライアードは酷く冷たい視線を降り注がせている。


「才なき劣等種が、言霊に抗うとでも言うのか? エリーゼ。貴様の権能が衰えているのではないか?」

「私への不確かな信仰よりも、友への信頼が(まさ)ったということでしょう」

「……不快な」


 眉を歪ませ、ライアードは短く吐き捨てる。


「こいつを、クルード退場に一枚かませろ」


 それが、デネットの運命を大きく捻じ曲げた。


「……何故、私があなたの命令に従わねばならないのでしょう。それは取引に含まれていません」

「いや、クルード退場にこいつは必要だ。私がそう判断した」

「ですが」

「父の罪を晒せば、王家の信頼は失墜するぞ。私はそれでもいいが、どうする?」

「…………下衆が」


 初めてエリーゼの口から放たれた侮蔑の言葉。やがてデネットの元に近付く靴音は、処刑までのカウントダウンのように感じられた。

 そして頭上から降り注ぐ威光の塊が、ゆっくりと口を開く。


「せめて、あなたが苦しまぬよう。善意による行動が、いずれあなたを蝕まないように。全て、忘れてしまいましょう」


 手を伸ばせば触れることのできる距離で、天使が優しく呟いた。デネットの瞳に視線を合わせるように、エリーゼもまた低く屈む。鮮やかに輝く極彩色の瞳が、眩く一筋の光を伴って、デネットの脳髄を仄かに焦がしていく。

 デネットの視界を覆い隠すように、エリーゼが掌をかざす。


「いずれ思い出す、その時まで」


 その言葉はあまりにも微かな声色で、デネットでさえ聞き逃すほどの小さなものであった。


「さぁ……【王命。七雄騎将を辞す――――」


 泥の中に沈んでいく。

 夢の中に溶けていく。

 泡の中に消えていく。

 意識を微睡(まどろみ)と同化させ、世界が緩やかに崩壊を迎えていく。それは現実か、妄想か。

 周囲の声色が遠ざかる。聖女の鮮やかな虹色だけが、暗闇に呑み込まれていく意識の中で、燦々と輝いていた。

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