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黒幕(笑)~TPOを考えるとそりゃこうなる~


 カビとも違う迷宮独特の香りが広がる空間。

 人類とペンギンとカモノハシ、そしてクラゲが蔓延るダンジョン内。


 カシャカシャ!

 ペタペタ!

 ぐじゅじゅじゅじゅ――と、複数の足音? が響き渡っている。


 契約を済ませた僕らは現在、猛ダッシュで迷宮を進行中。

 目的はもちろん王家の魔術の回収。

 その受け取り手は契約により僕と決まり、皆が皆、一致団結してダンジョン攻略を行っていたのである。


 まあ、そりゃあこんな事態だ。

 国どころか大陸の危機である。

 王権争いなどという些事や、派閥争いなどという矮小な事柄に縛られている場合ではないと気付いたのだろう。


 これからどうなるかは分からないが、最悪のケースでは朝の女神と直接対決の可能性もかなりある。

 王家の魔術の回収は、その戦いを見越したモノでもあるのだが……。


 朝の女神、か……。


 同僚は私欲を美徳とすら感じ肯定する、ろくでもない女神たち。

 上司はもふもふ狂いの変人。

 信徒たちは国家総出で喧嘩。


 それだけでもストレスになるだろうが、目に余ったのはやはり第一王子が神託を騙ったことだろう。


 そもそもだ。

 人類が女神の使徒たる君主ハインを殺してしまった時点で、朝の女神には疑念がわいていたのかもしれない。

 まあようするに。


 女神がブチぎれる理由は十分にあり過ぎた。

 あの後、念のためとアランティアが他の女神から神託を賜ったのだが――結果は同じ。

 事情を聞きつけた常識人枠、ヤンキー風美女の夜の女神さまが、僕に天から語りかけていた。


『なあこいつら、あいつをキレさせたってマジでなにしやがったんだよ……』

『実は<かくかくしかじか>でして――』


 全速力で迷宮の最奥に向かいながらも説明魔術を発動!

 僕が知っている限りの情報をかくかくしかじかで共有。

 事情を聞いた夜の女神さまが、同行する人類全員に聞こえる声で告げる。


『なるほどな。んじゃあ沈んだ東大陸はなんならおまえが支配してもいいぞ? 海中都市ハイン、いや国家の名はイワバリアだったか? どっちでも構わねえが――空中に神々の庭園があるんだ、海中にペンギンの城があってもオレは構わねえぞ』


 キシシシシ! と、ヤンキー美女が歯を出して笑っている様子が目に浮かんでしまう。

 僕は敬意を持った言葉を選びつつ、空を一瞬見上げ。


『なんだか楽しそうですね、夜の女神様。いちおう、人類の危機なんですが?』

『一部の人類だけだろ? 朝の女神……かつて神話の時代において夜の女神と呼ばれたアレは夜の女帝。あいつが持っている夜の性質は宇宙と死の世界だった。むかつくことにあいつはスケールがかなりでけえ神性だ。気に入らねえがオレよりもちゃんと周りを見ている。おそらく、潰すのは本当にその東大陸だけだろうさ』


 気に入らない相手だからこそよく知っている。

 そんな声だった。


『宇宙と死の神性……ですか』


 おそらくはこの通信相手、神話時代ではなく現在の夜の女神たるキュベレー様よりも強い筈。

 まあ不敬になるのでそれをクチバシにする気はないが。

 女神たちは基本的に僕らの心など容易く読んでしまう存在、口にはせずとも伝わってはいるようで。


『はは、なんだ。いっちょ前に気を遣ってるじゃねえか。気にするな、事実は事実として受け止めてるからな』

『……ではお聞きしたいのですが、午後三時の女神と比べて朝の女神は、その、どうなのですか?』

『強さって事でいいんだよな? 単純な魔力量で言えば天と海と地の三女神の次、あいつが第四席になる。とはいってもだ、女神の中でも力の幅ってのはあるからな。三女神がぶっ壊れてるだけで、他の多くの女神よりもアレは強大。認めたくはねえがはっきり言ってクソ強えぞ? オレとブリギッドのガキと比べると頭一つ抜けてやがる』


 夜の女神さまが自分よりも頭一つ抜けて強いと断言する女神、か。

 ……。

 めちゃくちゃ厄介だよなあ、これ。


『ま、オレはおまえがどう暴れてくれるのか楽しみにしてるぜ。他の大陸に被害を出そうって言うなら、オレたちは全員でペルセポネーを止めるが、そうじゃねえなら止めはしねえ。ってわけだ! 聞こえてるんだろ? あの女をキレさせちまった人類ども、神々は基本的に今回の件には不干渉。せいぜいこのペンギンの話を聞いて上手くやるんだな』


 女神通信はこれで終了。

 他人事のように僕は言う。


『とまあ、女神の中で四番目に強い女神さまを敵にまわしちゃったみたいだな、おまえら』

「なんじゃ。随分とひとごとのように言いおるな、ペンギン陛下」

『他人事のようにもなにも実際に他人事だからな。契約がある以上協力はするが、負けそうなら普通に引くつもりだし……そこまで期待はするなよ?』


 僕の言葉に第二王子ジャスティンが困った表情で、無個性顔から言葉を漏らす。


「どうにかしてくださるのではないのですか!?」

『協力はするって言っただろ。でもちゃんと契約書を見ろ』


 僕と付き合いも長くなってきたアランティアが、はぁ……と肩を落とし。

 契約書の複製を召喚。

 ズラーっと並ぶ、細かく長い文字の山の中から該当する一文を指さし。


「特約の所に書いてあったの見なかったんすか? マカロニさんは敗北が確定した時には相手に下るって書いてあるんっすよ」


 第一王女が叫ぶ。


「ひ、卑怯ではないか! 詐欺じゃろうこれ! こんな細かい所まで読むバカはおらぬ!」

『契約は契約だからな。まあそれは本当に敗北が確定した時に、僕の身の安全を確保するためだ、僕はこれでも蘇生魔術が使えるからな。僕が生きてさえいれば最悪、大陸は失っても後から大陸にすんでいた人類の蘇生はできるんだ。その保険のためだよ』

「な、なるほど――妾はてっきりおぬしが面倒になった時のための、契約通りだからと逃げる口実かと思うたわ。すまぬ」

『あのなあ……これでも一応おまえらの命だけはどうにかしようと動いているんだ、少しは信用しろよな』


 しれっと言っているが……実は第一王女が正解である。

 これ、面倒になったら逃げることも可能な契約なのだ。

 それを知っているだろうメンチカツとアランティアとギルダースが、マップを見ながら先頭をペタペタ走る僕をじぃぃぃぃいっと眺めている。


『おいおまえら、なんだその顔は』

「ここで言っていいんすか?」

『はあ? 士気に影響するから言っていいわけないだろ? バカなのか?』

「バカはそっちでしょうが! てか! なんで朝の女神さんと戦う流れになってるんすか、これ! 普通に勝てるわけないじゃないっすか!」


 まあ普通は勝てるわけがない。

 だからその普通じゃない状況をどうにかして作りださないといけないのだが。

 僕は言葉尻を捕らえるように、ニヒィっと悪ペンギン顔で嘴を開く。


『そーは言うが、じゃあ――東大陸の人類を全部見捨てた方が良かったのか? 創世の女神の座から降りてもいい……そんな宣言した上での介入だ、決意はたぶん固いだろう。僕らがなんとかしないと本当にやっちまうぞ、あの女神』

「そ! それは、そうなんすけど……」

『だけど、なんだよ』

「よくこんな話受ける気になりましたね。こっちにあんまり利がないと思うんすけど」


 ほぼ王族全員との契約を交わしたので、成功すれば僕の資産は間違いなく跳ね上がる。

 おそらく次にニャイリスと接触した時、かなり有利に交渉できるだけの金銭を用意できるだろう。

 そして失敗しても別に構わないのだ。

 先ほども言った通り、本当にいざとなったら”あとで蘇生するため”という大義名分があるので戦線から逃げることができる。


 敵対することとなる朝の女神との関係は拗れるが、それも実は問題ない。

 モフモフを餌に主神に執り成しを頼めば、すんなり通るだろう。


 この流れは僕にとってデメリットはあまりない。

 まあ死ぬほど面倒というデメリットはあるが……。


 ギルダースがモフ味のあるボサボサ髪をカカカと手で掻き。


「そげんことはどーでもええが、実際の話じゃ。朝の女神に勝てるのか? ワイが戦っとった獣王アレとは比較にならんほどの相手じゃろう?」


 そう、それが問題だ。

 けれど僕は周囲から見れば呑気に思える空気で告げていた。


『ま、なるようになるだろ』

「うえぇぇぇぇえ……っ、ノープランすか!?」

『そーいうつもりじゃないが、そうだな――あまり深刻に考えなくてもいいってことだ』


 朝の女神はまとも側の女神。

 ならばいくらでもスキはつける。


 僕らはそのまま迷宮最奥まで突っ走り――。

 そして。

 全員で一致団結した状態で最深部へと突入した。


 ◇


 迷宮最奥を言葉で表現しようとすると、広大な墓標か。

 迷宮内にとても広い祭壇神殿が建設されていたのである。

 そしてその中心。


 そこにあったのは一個師団には程遠いが、かなりの軍勢を従えた一人の男。


 魔術で強化しただろう改造騎士団を揃え、祭壇の前で待ち構えていただろう偉丈夫である。

 無駄に豪華な儀礼服を装備した王族なので、間違いなく彼が第一王子。

 おそらく今回の事件の黒幕的な存在だった。


 のだが。

 正直、いまさら登場されてもインパクトは皆無。


 第一王子シャインは王族特有の、高見に立ち、下々を見下す王者の視線でこちらを眺め――スゥ。

 どうやら、悪役らしく慇懃に礼をして見せている。

 怜悧な顔立ちから、覇気を含んだ貫禄ある声を漏らしていたのだ。


「お待ちしておりましたよ、皆さん。初めましての方もいるようなので、まずはご挨拶を。我こそが次代の王にして、このイワバリア王国の真なる後継者。シャイン=フォン……っと、なんですかあなたがたは、なぜ我を無視し祭壇へ――」

「今はそれどころではないのだ!」


 第二王子ジャスティンの怒号が響き渡ったと共に、第一王女が拳にメリケンサックのような拳武器をはめ。


「ええーい! どかぬかこの下郎! 一分一秒を争っているときに、なにが真なる後継者じゃ!」

「姉上!? 我がいまから貴公らの魂と引き換えに、この王櫃とも言うべき魔術の封印を――」

「じゃかわしぃと言っておろう!」


 魔術を失ったことで体術を鍛えていたのだろう。

 第一王女のそれなりに強力なパンチが、なんか偉そうなシャイン王子の顔面を直撃。


 第一王子シャインはそのまま吹っ飛び。

 迷宮最奥の壁に、ごふっと叩きつけられ、ズズズズズ……。

 一応、黒幕だったのだろうがこれだけで沈没である。


 追い打ちをかけるようにメンチカツ隊が近寄り――気絶した第一王子の足を掴んで、ぶんぶんぶん!

 装備品をはぎ取っているのだろう。

 豪華な装飾も奪い取っているが、まあ戦利品回収だと思えばいいか。


 シャイン王子の部下がようやく、はっとした様子で目を見開き。

 それぞれに統率の取れていない突っ込みをし始める。


「で、殿下!?」

「王女に、第二王子に……第五王子までっ。なぜおまえたちが全員一緒にっ、仲違いしているはずでは」

「それに、カモノハシにペンギンにっ、なにがどうなって……っ」


 あまりにも速い流れだったので、主人を守る動きができなかったようで。

 キリ――!

 今更になってこちらを攻撃しようとしてくるが、すかさずアランティアが動いていた。


 マカロニペンギンの御神体ぬいぐるみを取り出したアランティアは、昼の女神の魔術を発動。

 超高速詠唱で、ご神体の口をパカっと開けさせ。

 にひぃ!


「はいはーい、こっちに注目! こんなことしてる場合じゃないっすからねえ! ブリギッドちゃん直伝の模倣魔術:<かくかくしかじか>!」


 マカロニペンギンの口から、<かくかくしかじか>が発動されていたのだ。


 どうやらぬいぐるみ化させた対象の魔術を真似る、そんな魔術効果のようだ。

 僕の魔術を真似たその説明魔術の出来は完ぺきだった。

 ……。

 午後三時の女神の魔術は応用がかなり効くな……正直、かなり便利そうだが。


 事情を知ったシャイン王子の部下も事情が事情だけに、こちらに敬礼。

 逆らう気などなくなったようだ。


 すぐさまに第二王子の指揮を仰ぎ、隊列に加わり始めていたのである。


 なにやら不義の子だったり、色々と計略を組んでいたシャイン王子にはかわいそうだが。

 神の前では全てが些事。

 東大陸全部が沈む瀬戸際で王権争いなんてしている暇はない。


 そりゃあ、こうなるわな――。


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