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迷宮珍道中~ボウフラってのはどうしてこう、次から次へと湧き続け~


 メンチカツ隊にボコボコにされていたストーカー連中を締め上げ。

 所属を聞き出した僕は、はぁ? と少し間の抜けた声を出していた。


『第二王子の所属? 僕はてっきり第一王子の派閥の連中が漁夫の利でも狙っていると思ったんだが……』

『あぁん!? てめえら? まさか相棒に嘘をついてるんじゃねえだろうな!』


 商人が王族騎士の鎧を着こんだような、そんな覇気の薄い男が必死になって叫びだす。


「う、嘘ではありません! さきほど表の受付で会ったでありましょう!?」

「表でってマカロニさん、こんな人いましたっけ?」

『顔を覚えるのは得意な方なんだが……どうだったかな』


 相手は無個性な顔立ちで、年齢も把握しにくい兄ちゃんである。

 ピントがズレた状態というかなんというか……。


 マカロニペンギンとカモノハシと小娘が、じぃぃぃぃぃいっと顔を覗き込む形となっているのだが……三人共にどっかで見たようなと思いながらも、思いつかない様子。

 一人だけ答えが見つかったのか、呆れたギルダースが横やりを入れ始める。


「会ったもなにも、こやつは第二王子じゃろ。ほれ、それこそ第一王子の派閥と揉めたときに迷宮テントの中からでてきた男じゃ。ワイも見覚えがあるから間違いない、ジャスティン=フォン=イワバリア。順位に変更が起こっとらんのじゃったら、第二王位継承者の筈じゃ」

『ああ! あの無個性王子か!』

「きさんら、本当に思い出せなかったんけ?」

『そうは言うが僕とメンチカツからすると下から見上げる形になるからな、顔もそこまではっきりとは見えてないし、なにより魔力での判別がしにくいんだよ』


 ギルダースが、ん? っと眉を顰め。


「魔力での判別がしにくいじゃと?」

『朝の女神の使徒が王族から魔術を取り上げた弊害かもな。羽毛や瞳で魔力を感知する僕や、ゴムクチバシで周囲の魔力を察知するメンチカツからすると、ここの王族連中の気配って、本当にうっすく見えるんだよ』


 オレがクチバシで魔力を察知?

 と、呟いていることから、このメンチカツ……自分が周囲の魔力を察知する仕組みを理解していなかったようだ。

 まあメンチカツクオリティーはいつものことなのだが。


『アランティア、おまえは人間なんだからちゃんと顔を見て分かっただろう?』

『オレらは仕方ねえが、嬢ちゃんはなあ?』


 僕らがジト目で突っ込んだからか、僕らの後ろではメンチカツ隊もうんうんと頷いている。


「そーは言いますけど、このジャスティンさん……でしたっけ? めちゃくちゃふつーの顔なんで、ぶっちゃけ覚えろって方が難しくありません?」


 無個性第二王子とやらが言う。


「ひ、ひどい言われようですね……白馬の王子じゃなくて草場の王子とか子供の頃から言われてるんで、結構気にしてるんですよ!?」


 狩人やシーフといった斥候が得意なタイプとも言えるだろうが。

 僕とメンチカツは目線だけを合わせ。


『しかしそーなると』

『オレらは第二王子様と王子の率いる軍属騎士を、ボコっちまったわけだ』


 チビカモノハシことメンチカツ隊がサクサク衣色の獣毛を照明魔術で輝かせ、さささ! オレらは悪くねえぞと顔を逸らす中。

 そもそも召喚獣をけしかけたアランティアが他人事のように言う。


「こっちは被害者――迷宮の中での追跡行為は敵対行動っすし。王子だったって事には気付かなかった振りをして、壁とかに埋めちゃいます?」

『おまえ、相変わらず他所の王族には厳しいよな……』

「王族に対して手を出したぁ! とか、責任問題だぁ! とか言いだされる面倒さはマカロニさんも知ってるんじゃないっすか?」


 うっ、まあたしかに……。

 第二王子は怯えているがさすがは王族、それでも矜持を保って僕らの前で交渉を維持しようと顔を上げている。

 部下たちの方は……まあわりと心が折れているようだ。


 王子が王子としての顔と声で言う。


「言い訳となってしまいますし、迷宮内で後をつける行為が敵対行動判定となることは重々承知している。けれどわたしの話を聞いてはくれないだろうか」

『まあ聞くだけはタダだしな』

「感謝する――」


 地味で無個性なジャスティン王子が言う。


「貴殿らはおおらく迷宮の秘密……つまりは最奥に王族の魔術が眠っているという事はもう知っているのだろう?」

『知ってるも何もそれだけが狙いだからな。好き好んで王権争いに首を突っ込む気はこれっぽっちもないぞ』

「ですが、その……ふつーに考えて王族の魔術、つまりは王族が王族であるための力を他国の勢力に持っていかれそうになっていたら――監視をつけると思いませんか!?」


 そりゃまあ正論だが。


『なんで王子が自ら来てるんだよ』

「大事な監視だからこそ自らが赴くべき、それがわたしの王族としての矜持……といいたいところなのですが、正直誰がどこの勢力なのか、もう訳がわからないことになっておりまして。部下を信用はしておりますが、部下に情報を上げてくる者たちが正しいとは限りませんので。自分の目で確認したいと……」


 まあ理屈だけなら分かるが……。


『だったらなんで敵意と殺気なんて向けてきたんだよ』


 そう、僕たちはこいつらが向けてきた殺気に反応したのだ。

 だから反撃も躊躇わなかったのだが……。

 ジャスティン王子が訝しむように無個性な、さらっとした顔をわずかに歪め。


「殺気? なんのことです」


 その言葉に嘘は読み取れない。

 つまりは殺気を向けていた存在は他にいる。

 そもそも王権争いに参加している勢力は複数。


 そう気づいた、刹那――!


 迷宮全体に轟音が走り、周囲に発生したのは魔道具の発動音。

 おそらくは狭い迷宮で複数の魔道具を同時に発動させたのだろう。


「マカロニさん、これって」

『分かってる――まあ普通の相手ならこれで片付くだろうからな』


 ジャスティン王子ごと僕らを攻撃。

 避けられない攻撃で生き埋めにでもしたいのだろうが。

 相手が選んだのは大量の水の召喚。

 そして、周囲の酸素を燃やす効果のある爆炎。


 避ける場所もない迷宮内を水で埋め、水没できない部分の酸素を消費させ――回避不能な窒息状態を作ろうとしたのだろう。

 メンチカツがムフーっと前に出て。


『なあ相棒、こいつらはバカかなんかなのか?』

『まあ普通はおまえがいるとは思わないだろ』


 そう、よりにもよって殺気の主は海の女神の眷属であるメンチカツに水攻撃をしかけたのだ。

 当然、メンチカツならば簡単に返せるし僕にもリヴァイアサン成分があるので簡単に返せる。

 慌てふためくのはこちらの事情を知らない第二王子とその部下たち。


「いけません! これはおそらく兄上の……って! なにゆえにそんなにジト目でのんびりしておられるのです! もうすぐここが生き埋めにっ」


 状況が見えない連中にとってはかなりの恐怖だろう。

 正直、このまま見捨てた方が話も楽なのだが……。

 正義感が割と強いギルダースが、ガシガシとモフ味のある髪を掻きつつ告げる。


「これでも一応知っちょる顔じゃ、すまんが」


 僕は無言でフリッパーを差し出し、契約書と料金表をペラペラペラ。


「だぁあああああああああぁぁぁ。こげん状況で! よく金の請求なぞできおるな!」

『そーはいうが、これ絶対に王権争いに巻き込まれる流れだろ? 僕が興味あるのはこの迷宮に封印された王族の魔術だけだからな。第二王子を救う料金ぐらい貰わないと、なあ?』

「だったらこれと直接契約を結んで、直接請求すればええだけじゃろう!」


 それもそうか。

 僕は狼狽している第二王子ジャスティンに目をやり。

 新たに作り直した契約書をクイクイ!


『お前ひとりを助ける場合は全財産の半分。部下も一緒に助けるなら四分の三だ。十秒以内にどっちがいいか選んでいいぞ』

「全財産を出す、こちらの部下も、そして相手側にいる兄に逆らえない連中も救って欲しい! いかがか!」


 攻撃してきた側の事まで考えているとは、腐った国でも王族は王族なのだろう。

 その判断力だけは僕も評価する。


『即決かつ追加の依頼要求か。いいだろう、その契約を飲んでやろうじゃないか』


 魔導契約は完了。

 僕は人類では生み出せないほどの膨大な魔法陣を展開。

 魔法陣の輝きの中で告げる。


『言っておくが、ギルダース! これで貸し一つだからな!』


 ギルダースと僕が名を読んだことでさすがに気付いたのだろう。

 第二王子ジャスティンの部下たちが、はっと侍傭兵を振り返り。


「ギルダースだと!? キサマ! まさか……っ、あの無能のギルダースか!?」


 露骨な暴言に反応したのは、うちのアレ。


『あぁん!? オレの連れになんつった!?』

「マカロニさーん、この人たちなんか感じ悪いんで見捨てていいんじゃないっすかぁ?」


 相変わらずブレないメンチカツとアランティアだが、すでに契約済みなので却下。

 まあ今の暴言を含めて救助料を吊り上げればいいか。


 黄金の飾り羽の頭上で魔術を編み――。

 僕は迫りくる水を意識し、フリッパーをペチン!

 海の女神の力を借りた水魔術を発動。


生命クラゲ創造魔術:<海より来たれ海聖母(ペペー・ペガンガ)>』


 相手の攻撃を利用した召喚魔術ならば、やりすぎることはないだろう。


 相手が操っていた水に生命の元を配合し、ポン!

 水分を全てクラゲに変換し、グペペペペ!

 魔道具による大洪水を僕の召喚獣に書き換え、召喚!


 一面に発生したのは、道を埋めつくすほどのクラゲの群れ。

 電撃と爆炎の魔術を吸った触手をくねらせた<獣王の眷属たる迷宮クラゲ>が、ぐじょろぐじょろ!


 相手も大洪水を防がれたことに気付いたようだが、もう遅い!

 別にアランティアの童話魔術に対抗するつもりなど、これっぽっちもないが――使い慣れない召喚系列の魔術を慣らすべく、僕は命令を開始。

 邪悪なペンギンスマイルを浮かべ、ビシ!


『さあおまえたち! 今来た道を引き返して、殺さない程度に刺しまくってやれ! そしておまえら! バーカ! クラゲに刺されて反省しろ!』


 ジュジュジュジュルルルルル!

 クラゲの大行進である。


 大洪水から生まれた大量のクラゲが道を引き返す、それだけで大惨事だろう。

 阿鼻叫喚となっているようだ。

 ちなみに、このクラゲに刺されるとかなり痛い。


 しかしあちらは敵意も殺意も剥き出しだった、当然の反撃ともいえる。


 絶え間なく悲鳴が聞こえていて、なかなかに地獄絵図のようだ。

 まあなぜかメンチカツ隊も追撃しズゴバコドカン!

 クラゲとカモノハシによるリンチ合戦が始まっているようだが……殺さないという意図があるので、回復に向かってくれたのだろう。


 ただ。

 存外にコミカルなあちらとは裏腹、こちらはそうとはいかないらしい。

 第二王子ジャスティンが、喉を震わせ言葉を絞り出す。


「魔道具による水を、生命に変換……っ、いったい、あなたは……」

「おんしらも、ケンカを売らん方がええやつに売っちまったようじゃな。こんペンギンこそが商業ギルドのCEOで、冒険者ギルドのギルドマスターで、魔境と呼ばれし地の悪の枢軸スナワチア魔導王国の王マカロニ陛下じゃ……諜報に長けた王族なら聞いたこともあるじゃろうて」


 空気が完全に凍り付いていた。

 さすがにそこまで言われれば僕の正体に気が付いたのだろう。

 肩書きが長いが、まあ事実なので仕方がない。


「ではあなたが、”あの”氷竜帝マカロニ陛下。顕現が確実とされた、咆哮の主……神が残した契約の獣……っ」

『まあそーいうことだ、僕はマカロニ。氷竜帝マカロニ。最近じゃあ偽神マカロニなんて呼ばれ始めているが、おそらくはあんたらが獣王って呼ぶ伝説の<ジズの大怪鳥>本人だよ』


 ってわけで。


『この僕に救助させたんだ、契約は守ってもらうぞ。追加が発生したら料金は更に高くつくから覚悟しておくんだな!』


 僕との契約はあくまでも今この場での、全財産。

 そしてこの場を救うことにある。つまりは、これからの料金は今後の財産から払ってもらうことも可能。

 味方というわけではないしギルダースを追放した側の連中だ。

 料金をきっちり要求するつもり満々である。


 露骨に顔色を青褪めさせた第二王子ジャスティンと、その部下たち。

 ジャスティンはおそらく弟にあたるギルダースに目をやり……。

 妙に悟った声で語りだす。


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― 新着の感想 ―
[一言] もうマカロニさんの魔術が ゆうて いみや おうきむ こうほ りいゆ うじとり やまあ きらぺ ぺぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺぺ ぺぺ にしか見えなくなってきた…
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