童話魔術~新たなる眷属と雇用条件~
町娘の格好を継続しているアランティアが、童話のような魔導書を胸の前に浮かべ。
ニヒィ!
童話魔術と宣言された、僕の知らない魔術が発動される。
術の構成は、魔導書に描かれた内容を現実化させる特殊な魔術式だった。
召喚系統に属するらしいその魔術が呼んだのは、二足歩行で小型のカモノハシ魔獣。
……。
ちびメンチカツの群れが、ムフーっとゴムクチバシを動かし。
グワグワグワ!
グワグワグワ!
グワグワグワ!
後ろの集団に向かってパキパキと水掻きを鳴らし、突撃!
平たい足でのヤクザキックで袋叩きにしつつ、致命傷を与えてしまった場合は回復をさせ証拠隠滅。
ぼっこぼこにしているのだが……。
『おい、アランティア……なんだこのメンチカツの群れは』
「なんだって、メンチカツ隊っすけど?」
『その童話魔術とかいう魔術の式は童話の再現だろう!? なんで小型メンチカツが大量にでてくるんだよ!』
「いや、だって童話を再現して現実化できる魔術っすよ? だったら自分で童話書を用意して再現すれば、なんでも召喚できるって事じゃないっすか!」
あたしって天才っすね! と自画自賛である。
理論としては正しいが……。
『あのなあ、おそらくその魔術の仕様条件にはある一定以上に読まれた、つまりは人類に童話として認識された書物である必要が……って、ああそうか……中央大陸で僕とメンチカツのぬいぐるみが販売されてるから』
「ちゃんとこの世界の人類にメンチカツさんは認識されてるって事っすねえ。そもそもリヴァイアサンをベースにしてる合成獣王なんすから、人類にはある程度浸透してる判定になるんじゃないっすか?」
よーするにこいつら。
リヴァイアサンの伝説がメンチカツを通して童話化され、それをアランティアが童話魔術という形で召喚したのだろう。
昼の女神こと午後三時の女神の、昼属性の魔術の奥義にも近いのだろうが……。
『おまえ、昼の女神ブリギッドの魔術なんていつ覚えたんだ』
「この間の御茶会で手土産を用意して、新しい魔術が欲しいっすって言ったらあたしの持ち分だけならいいわよ? って全部くれましたよ?」
こいつ、しれっと全部とか言いやがった。
あいかわらず女神に気に入られやすい体質をもってやがる。
メンチカツは興奮気味にメンチカツ隊を眺め。
腕をブンブンブン!
『おいおい、なんだなんだ! こいつらはオレの子分か!? 舎弟か!?』
「子分かどうかはともかく、基本はメンチカツさんのスケールを小さくしたバージョンっすね。基本性能は<肉体言語>特化、後は全員が海属性の回復系魔術を使えますんで」
肉体言語って……。
いやまあ暴力による説得を言いかえるとそうなるが。
ともあれ、これは魔術によって召喚された存在、一時的な顕現だ――どうもメンチカツは僕のマカロニ隊を羨ましがっていた感じもあったので、あまり期待させるのも可哀そうか。
僕は目を輝かせているメンチカツに目をやり。
『これは召喚魔術だ、すぐに消えるからな。おまえの舎弟になるわけじゃないだろ』
「いや、この童話魔術で呼び出された存在はそのまま現実化してますんで。舎弟にしようと思えばできる筈っすよ? この子たちもメンチカツさんの覇気に惹かれてるっぽいですし、なによりあたしってこーいう眷属とかの管理は苦手なんで……」
こいつ、家事全般が絶望的だからなあ。
話を聞いていたギルダースが、抜いた刀で自らの肩をカシャカシャ叩きながら。
「ふむ、魔術とは相変わらず理解不能な力じゃのう、そげんこともできるんか」
『ふつうはできないって、アランティアが異常なんだよ……』
アランティアを基準に魔術の基礎を語られても困る。
童話という制限はあるが――。
童話に描かれた存在の”永続的な召喚”ができるとなると、わりとぶっ壊れたチート魔術である。
僕は迷宮内から透視モードで天を見上げ、ガァガァガァ!
午後三時の女神に僕にも寄こせと訴えるも――反応は薄い。
あの幼女女神……。
他の女神連中と違って僕にわりと辛辣だな。
おそらく天の女神アシュトレトが僕を贔屓にする理由は、僕の人間だった時が美形だったから。
主神レイドが僕にデレデレしているのは、女神の計らいで僕が羽毛モコモコなペンギンとなっているから。
海の女神ダゴンもこう言ったらなんだが、腹黒とされる部分に共感している上に自分の眷属のメンチカツの世話をしているから。
地の女神バアルゼブブとは、正直まだそこまでの関係は作れていないが……相手側からは、あそぼぅ、あそぼぅと何度も呼びかけてくる声は受信している。
おそらくは遊び相手認定はされているとみていい。
そして夜の女神さまは、僕がこの世界で唯一まっとうに信頼している女神。その信仰に応えてくれているのと、僕が狩り対象の魔獣ということで、狩猟の神として、獲物を愛でる目で見てくれている可能性もある。
朝の女神とは接点はあまりない。
逆に午後三時の女神とは接点もそこそこにあるのだが……。
どうやら、僕との相性はあまりよくはないようだ。
まあある意味でそーいう女神がいた方が、損得勘定で動いてくれそうなので信用もできるが。
ともあれだ。
僕は午後三時の女神に、ケチだなぁ……と嫌味な目線だけを送って、女神通信とも言うべき念波を一方的に解除。
ミニメンチカツを眺めるメンチカツに、しれっと告げる。
『で、どうするんだメンチカツ。こいつらを舎弟とか眷属にするなら、その生活を支える必要があるが』
『舎弟を支えるのも親分筋の仕事っつーことだな』
メンチカツが考え込んでしまうが、メンチカツ隊は兄貴! なんとかならんのですか!? と目線を送ってきている。
よーし、釣れた。
『しょーがないな、こいつらの維持費はスナワチア魔導王国の経費から落としてやるよ。うちの連中にも生活や順位や派閥ってもんがあるから――最初は城の兵士としての待遇になるが、それでもいいならな』
『いいのか!? 相棒!』
『ああ、おまえは結構金遣いが荒いからな。こいつらの給料は僕の方で払っておく方が安心だろ。まあただこっちが給金を払うだけだとおまえも気が引けるだろうから、こいつらには緊急時だけは働いてもらうが、そこは了承して貰えるな?』
こっちが相手を気遣っている体で、交渉開始。
相棒!
っと、メンチカツは僕に感謝をしているようだが、詐欺に鋭いギルダースはじっと僕を見て。
「いんや、そりゃあ……こげんな強さでなおかつ回復魔術を扱える高ランク魔獣の部隊を、たかだか一般兵と同じ給金で確保できるんじゃ。むしろおんしら、このペンギンに詐欺られ――」
『――メンチカツ、いますぐにここにサインをしてくれ。まああくまでも書類上の契約だ、国家予算から払うとなるとどうしてもこーいう書面が必要なんだよ』
『これでいいか?』
よーし!
迷宮のそこそこ奥まで入れる人間を一方的にボコボコにでき、ついでに高ランクの回復魔術を使える労働力の確保成功である!
この世界にはまだまだ回復魔術は浸透していないので正直、ヒーラー部隊を雇う給料としては相場よりかなり安い。
アランティアもその辺は分かっているようで、僕の詐欺を黙認している。
ま、メンチカツ隊はメンチカツを主人としているようだが、召喚者はアランティア。
彼女が認めているのならそれでいいだろう。
とりあえずこれにてメンチカツ隊が新たに仲間入り、スナワチア魔導王国に配属され戦力増強。
そのメンチカツ隊にボコボコにされた追跡者たちは、沈黙。
生きてはいるが、戦闘不能状態で転がっていた。
殴っては回復して。
蹴っては回復して。
心まで折られただろう彼らから事情を聞くのは、かなり簡単そうである。
転がっている彼らに水をかけ。
僕は尋問を開始した。