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獣王探検隊 ~ルートが逸れるとヤツらは唸る~


 状況的に考えておそらく事実だろう王級の秘密を暴露した僕は、騒然とした現場を無視。

 そのまま迷宮に突入していた。


 マッピングは既に完了。

 本来なら創造神の力を借りているらしい僕のオリジナル魔術にて、最奥までの最短ルートも構築済み。

 まともな魔物は全て僕とメンチカツの魔獣としての格の差に怯え、エンカウントもなし。


 ちょっとしたピクニック気分である。

 淡い光を放つヒカリ苔の道を進み――ペタペタペタ。

 八十万金貨の領収書を眺め、証拠固めに成功した僕はメンチカツのようにムフー!


『グペペペペペ! 馬鹿な奴らめ、この八十万金貨が後で何十倍のツケとして返ってくることも知らずに、ぬわははははは!』


 アランティアが言う。


「いいんすか? 秘密を暴露するだけ暴露してスルーしちゃって。迷宮に入っていくあたしたちを凄い顔で睨んでましたよ?」

『知らん、勝手にケンカを売ってきたあっちが悪い』


 そう、こっちが被害者だという証拠は山ほどにある。

 大義名分があるのならば僕はまったく気にしない。


『それに、いくらなんでも第一王子の派閥はやり過ぎだ。ほぼ初見の僕ですらイラっとしたんだ、たぶんここの住人は相当にイラつかされてる筈だぞ』


 そしておそらく、自分の名を騙られた朝の女神もだ。

 ……。

 というか、それが一番の問題だろう。


 朝の女神はまともな女神だった。

 そう……まともなヤツほどキレた時が一番怖い。


 あの天の女神アシュトレトがフォローに回っているのが、なによりも危険を物語っているだろう。

 女神は基本的に下界への干渉はできないし、禁じられている。

 しかし、これは下界側からの神への干渉でもあるのが厄介で……ようするに、朝の女神の真意を捻じ曲げて、朝の女神の宣託や神託があったと偽った連中がいるのならば。

 それはおそらく、直接的な介入の理由にできる。


 よーするにこの大陸。

 実は今、めちゃくちゃ危険な状態にあるのだ。

 それもこれも王様のアホウのせいだろうが。


「八十過ぎの王様は何を考えてるんすかねえ。そもそも第一王子の……シャ、シャ……」


 名前が浮かばない様子のアランティアの背に向かい、露骨な呆れを示すギルダースが肩を落とし。


「シャインじゃシャイン。おんしら、ほんとうにてきとーじゃのう。ヤツは王位継承権第一位で、王妃と王の最初の息子。シャイン=フォン=イワバリア。性格以外は優秀な魔法剣士じゃ」

「やっぱりギルダースさんもその殿下のこと知ってるんすねえ」

「――そりゃあこっちから見れば兄じゃからな。ま、向こうにとってみればワシなど弟にも見えておらんかったじゃろうが。きさんらがあの場でバラしたせいで、いろんな意味で兄じゃない可能性も増えたがのう」


 実際に兄じゃない可能性もあるのだから、問題は複雑だ。

 ただ――。

 ギルダースが王妃との子供ならば、そのシャイン殿下とも血は繋がっているのだろう。

 まあこの辺はデリケートでセンシティブ、とても繊細な問題だろうから追及はしたくないのだが。


 こちらには空気が読めないヤツが二名。


 実際、空気が読めないカモノハシの方が近道をしようと壁をペタ足キックで破壊――!

 僕のマッピングが、そっちは正規ルートじゃない! と引き返す要求を繰り返しているが、構わず前進するヤツの名はメンチカツ。

 こいつはちゃんとギルダースも通れるサイズの壁穴を作り、振り返り。


『で? そいつとてめえは仲が良かったのか?』

「言うても、魔術がろくに使えんかったワイはすぐに宮殿から出されたからのう。正直あまり知らんのじゃ。まあダンジョン都市の責任者の”ハインのおっさん”には何度か会いにきちょったようじゃが……直接はほぼ接触なしじゃ」

『はーん、じゃあなんかあったらぶっ飛ばしちまってもいいんだな?』


 暴力装置のブレない言葉の意図は単純。

 僕らの後ろをついて回っている集団がいるのだ。


 表での騒動を逆恨みしたのか、それとも僕らの迷宮攻略を邪魔するのが目的か――案外、僕らが最奥までたどり着く実力があると悟り、漁夫の利を狙っているのか。

 ともあれジト目でギルダースが告げる。


「ワイ個人は構わんが、おんしらは一応それでもスナワチア魔導王国の王と側近なんじゃろう? 問題になっても知らんぞ」


 どうやらこちらの心配のようである――。

 ギルダースの様子を見る限りはやはり、もうこの国家とは一線を引いているようだ。


 同じく背後の気配を感じ、結界を強化――。

 客観的にこの国を見ているアランティアが言う。


「しっかし、わからないっすねえ。そのシャインって殿下が自分の子供じゃないって噂ぐらい、王様も知ってると思うんすけど。なんでそのままにしているのか……。血のつながりが全てって古い考えは好きじゃないっすけど――王族が国を維持するためには多くの儀式魔術を扱いますからねえ。さすがに王の血を引いていない不義の子だと、もし王となった時に儀式魔術の対象エラーを起こす問題がでると思うんすけど」

『はぁ? どーいうことだ?』


 ギルダースとメンチカツは顔を見合わせて、こてんと首を横に倒している。

 魔術知らない組に僕が言う。


『たとえば国民全員と王との間に税の契約をしようと思ったら、魔道具としての<王の玉璽ぎょくじ>が必要なんだよ。で、玉璽には大抵の場合は使用条件が付与されている。そうだな、おそらく今回の場合だと……使用条件:<イワバリア王権の直系>、こんな感じのな。王の血族以外が使用できないようになれば、おいそれと反乱も起こせなくなるってわけだ』


 メンチカツが眉を顰め。


『あぁん? じゃあなおさら分からねえな、そんな契約できねえ王子がもし王になったら問題だらけだろう』

『そーだな。考えられる理由は複数ある』


 僕はしばらく考え、一気に可能性を語りだす。


『まずは王妃の不義による不倫じゃないパターンだな。王は王妃の相手を認めていた、あるいは召し上げ娶った時には既に胎の中に子供がいたら……人によっては愛する妻の子として認めているかもしれない。そもそも不倫を信じず、父違いの息子を自分の子だと思い込み続けているっていうパターンもある。あるいはあくまでも国家を維持するための判断か。自分の子ではないと知っていても有益と判断した可能性だな……って、僕より先を歩くなメンチカツ!』


 マッピング魔術を操作――ルートを地図に再設定し、この階層の床に魔法陣を展開。

 罠を解除しながら僕は話を続ける。


『実際、除籍された連中を除けば――そのシャイン殿下ってのが現在では魔術がまともに使用できる唯一の王族なわけだ。国家を維持するには魔術は必須。特に魔術至上主義のこの国ならなおさらだ。いざとなったら玉璽を作り直し、本当の王とするつもりの可能性もある。イワバリアの直系は終わるが、新しい王朝をつくり王権を維持するのもわりと普通の選択肢だろ?』


 まあ妄想や邪推しかできない。

 王族や貴族のごたごたはあまり好きではないのだろう、アランティアがげんなりしながら言葉を漏らす。


「それにしてもマカロニさん、よく色々と考えつきますねえ……」

『実は今、趣味で国を乗っ取る詐欺マニュアルを作り始めててな。その過程でこの世界の王国やら帝国の成り立ちを調べてみると、なかなか見えてくるものも多い。女神たちがどこまで干渉できるのか、その辺りのラインもチェックできるから一石二鳥なんだよ』

「うわぁ……マカロニさん、最近なんか資料を集めまくってるとは思ってたんすが……。想像以上に外道なことしてますね。この国で試すつもりっすか?」


 三人共にドン引きである。


『試す気なんてないが、向こうの態度次第だろうな』


 まあ作った以上は、ちょっと試してみたくもある。

 その辺の、微妙な僕の感情を読み取ったのだろう。

 アランティアの視線が、じぃぃぃぃぃぃぃぃい。


「やっぱその気はちょっとあるんじゃないっすか!」

『だいたい他国の王であり獣王! そして冒険者、商業両方のギルドの最奥に入り込んでいる僕に詐欺を仕掛ける時点で、本来ならアウトだろ!』

「いや、おんしらが魔獣判定ならふつーに魔物退治名目で通るんじゃないんか?」


 ……。

 その可能性はある。

 だからまあ、後ろの連中も魔物退治名目で来る気なのだろう。


 追尾している連中から明確な敵意と殺意が滲み始めた頃。

 パキパキ!

 ヤクザしぐさで水掻きハンドを器用に鳴らしたメンチカツが、ギロり!


『やっちまってもいいって話だったな?』

『構わないが、迷宮まで壊すなよ? この最奥に封印された王の魔術だけには価値がある……って! おまえ! なんだそのキョトン顔は! 僕はそこまで難しいことを言ってないだろう!?』

『いや、ちょっとオレの尻尾がぶつかっちまったら、迷宮ぐらい崩壊しちまうかもしれねえだろう? だから先に許可を取ったんだが。それを壊すなってのはちょっとな?』


 ダメだこいつ、壊すこと前提でやがる。

 かく言う僕もちょっと加減を間違えると地味に危ない。

 なにしろ地下に潜っていくタイプの迷宮は狭いのだ。


 以前、ペンギン大王の<逸話魔導書グリモワール>で暴走した時のようなことが起こる可能性もある。


 例の厄介主神に釘を刺されているので、次にやらかしたらさすがのアレも黙認はしないだろう。

 戦いにはならないだろうが、これ幸いと”一日羽毛をモフモフさせる権”などを要求されるリスクもある。

 となると、アランティアに任せるのがベストなのだが。


「あたしってことっすかね」

「いや、ワイがやる」


 前に出たのはギルダース。

 彼はこう見えても獣王を何度も倒し、なおかつ僕らが装備させた伝説級の呪いの装備で身を固めた存在。

 特殊クラス<呪われし侍傭兵>なこともあり、ふつーの人間に負けることは万に一つもないだろう。


「女や魔獣に戦わせて見学っちゅーんも、気が引けるきに。構わんじゃろ?」


 なにやら格好をつけているが。

 僕とメンチカツがジト目でギルダースに言う。


『もう”こいつ・嬢ちゃん”がやりはじめてるぞ』

「って!? きさんら、ほんまに人の話も空気も読まんヤツらじゃのう!」


 叫びはむなしく――。

 既にアランティアの詠唱は終わっていた。

 魔法陣で衣服を揺らし、ニヒィ!


「昼の女神ちゃん直伝! 童話再現:<童話魔術アリスマジック>!」


 なにやら童話のような魔導書を開き、力を発動。

 召喚系統の昼属性の魔術らしいが。

 こいつ、いのまにか午後三時の女神ブリギッドの魔術が使えるようになってやがるのか。


 童話の書の中から、見たこともない魔物が召喚され始める。


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