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大いなる秘宝~それ、僕に何か関係あるか?~


 歴史を感じさせる庭園の大樹から、朝露のしずくが垂れていた。

 旅立ちの朝は早く、王権争いに介入しないことを決めた僕らは四人――街の市場で買い物中。

 朝だというのに市場は元気で賑やか。

 仕入れたばかりのリンゴに艶を出すために、布で皮を磨いている光景が僕の瞳に映っている。


 迷宮攻略に休みはなく、毎日、毎時間それぞれの別勢力の団体様が突入しているので乾く暇はなし。

 需要があれば市場も続く。

 なにしろあの迷宮の最奥には王となるための魔術が眠っているのだ。それぞれの勢力が躍起になって探るという状況も当然か。


 二日酔いで、ぐでーっとなっているギルダースが言う。


「あの……なんちゅーか、間抜けな顔をしたペンギン共を城においてきてよかったんか?」

『マカロニ隊のことか? あいつらは城の護衛だ、おまえが帰還したことを嗅ぎ付けるヤツもいるだろうしな。悪意ある偵察者は全部氷漬けにしとけって命じてある。あの城はとっくにマカロニ隊の別荘扱いだし、あいつらに任せておけば城の連中は無事だ』

「無事なんはええが、もうこの国を発つんじゃろ? 回収しないと置いてけぼりになるじゃろうが」


 マカロニ隊まで心配するギルダースの言葉に、魔力回復効果のあるりんご飴を購入したアランティアがガジリと甘いコーティング蜜を齧り。

 子供のように無邪気に口の端を汚す姿を、りんご飴に反射させながら、えっへん!


「ああ、あの子たちはとても素晴らしい天才魔術師の教えで転移魔術を会得したんで。いざとなったら自分で帰ってきますから、大丈夫っすよ?」

「転移魔術を? あの小生意気な連中が? それはそれで地獄じゃろう」


 マカロニ隊の悪辣さを知っているギルダースはうげぇ……、とギザ歯を三角にしている。

 繁殖し始めて、数を膨大にし始めている彼らは商業ギルドの従業員でもある。

 転移魔術が使えると配達も便利になると彼らの進言を受け、アランティアに指導を命じたのだが……。


 実際、あれが自由に転移していると思うとけっこう危険かもしれない。

 郷土料理の屋台から焼きそばのような現地食料を大量に抱えたメンチカツが飛んできて、青のりをゴムクチバシにつけながら、ぐわっわわわ!


『は!? ちょっと待てよ相棒! なんでオレより先にあいつらに転移魔術を教えてやがるんだ! ずりぃだろ!』

『いやメンチカツ……おまえ、空間座標の把握能力を持ってるのか?』

『――? なんだそれ?』

『あのなあ……そーいうのがわかんないやつに、転移なんて危ないもんを教えられるわけがないだろう!?』


 んぬ? っとメンチカツはなんで怒られているのか理解していないようだが。


「えーと、転移魔術って結構危険なんすよ。ほら! ダンジョンの罠にランダムワープさせられちゃうやつあるじゃないっすか? あれで迷宮の壁の中に埋もれて即死なんて話、聞いたことありません?」

『おう、あれか! 壁の中から壁を掘るのは結構大変だったぜ!』

「って、え? あれ……メンチカツさん、なんで壁座標に埋まったのにふつーに生きてるんですか?」

『あぁん? んなもんぶっ壊せば問題ねえだろ。実際に、オレは壁に埋まったが生きてるし、こうやって元気にやってるじゃねえか?』


 だめだ、こいつ基準で話を進めようとすると全てが破綻する。

 まあ何事にも例外はあるということでもある。

 ギルダースが言う。


「それにしてもこげん仰山、食料品をアホウみたいに買い込んでどんだけ食べるつもりじゃ。ハインのおっさんのところならちゃんと用意してくれるじゃろうに」

『これからダンジョンに潜るからな、そのための食料品だよ』


 言って、僕は片っ端から露店で食材と食料を購入。

 フリッパーの付け根にあるアイテム保管羽毛空間に、よいしょよいしょ!

 次々に保管していく。


「は!? いま、なにを言うた!?」

『だから、ダンジョン用の食料だって』

「なしてダンジョンに入ることになっちょるきに! は聞いとらんぞ!?」


 荒ぶると魔術による翻訳がブレるようだが、もしかしたら王族として囲われていたときには我とか言っていた可能性もあるか。

 ともあれ僕は、は? とギルダースの無精ひげを下から見上げ。


『ふつう、この流れならどこの勢力よりも先に迷宮攻略するだろう。何言ってるんだ、おまえ』

「なにを言うとるのかは、こちらの台詞じゃ! ワシは王になどならんぞ!」

『ああ、そういう心配か。いや大丈夫、別におまえを王に祀り上げて属国にする気もないし、僕自身が王となるつもりもない。もう分かるだろう?』

「いや、分からんって……なにが言いたいんじゃ」


 りんご飴を齧り終えたアランティアも僕と同じ顔で言う。


「いや、ふつうわかりますよね……?」

「……それはきさんらが根本で同族でお仲間、同じような理解不能な思考の持ち主だからじゃろう。ワイにはまったく分からん」

「だって、迷宮の最奥に一番乗りで行けば王族の魔術を回収できるんですよ? 回収するに決まってるじゃないっすか!」


 そう、別に王権に興味はなくとも王の魔術には興味がある。

 僕はまだ、元の世界に人間として戻る道と可能性を捨てたわけではないのだ!

 黄金の飾り羽を輝かせジャンプした僕と、魔術に興味のあるアランティア。僕らはマカロニペンギンと人間でハイタッチ。


『この後この国がどぉぉなろうが、僕には関係ないからな!』

「一般にも開放されてる迷宮っすからねえ! あたしたちはただ迷宮を完全踏破するだけなんでー!」

『王族の魔術はこの僕が!』

「あたしが!」


 二人同時に腰に手を当て、なははははは!


『頂いちゃって』

「とんずらすればいいんっすよ!」


 魔術にさほど興味のないメンチカツが、なーにやってんだこいつら……と呆れているが。

 この国の事を少しは気に掛けているだろうギルダースは、あばばばばば!


「ほ、本当にやる気なんかおんしら!」

『いやだってさあ、ここの王族に魔術を返すのもなんか違うんじゃないか? だったら僕らが有効活用させて貰った方がいいだろう』

「後から不正とか言われないように、ちゃんと定められた入場料は払いますし。転移は使わず真っ当に攻略して、その流れをちゃんと魔術で保存しておけば証拠も作れますしねえ。世界の調停国扱いになってる聖王国バニランテとは繋がりもありますし、国際裁判が起こっても勝てますよ?」


 ギルダースがぐぬぬぬと唸り。


「コネで動く国なら調停国じゃないじゃろうが!」

「いやいやいや。不正じゃなくて、あくまでもあたしたちに悪意がない事の証明をしてくれるだけですって。マカロニさんの言葉じゃないっすけど、魔道具を用いた判定でも勝つ自信ありますよ?」


 それでも何か言おうとしているギルダースの肩にペチン。

 獣毛輝く平たい手を乗せ、器用に空を浮かぶメンチカツさんが言う。


『やめとけやめとけ、こいつらこうなったら話なんて聞かねえよ。それに別にいいじゃねえか、どうせおまえさんを捨てた国だ。滅びようがどうなろうが、それも一つの結末。自業自得だろうさ』

「あぁぁぁぁ! どいつもこいつも……っ」

『じゃあギルダース。おまえ、留守番するか? 僕はそれでもかまわないが』


 無理についてくることはないという僕に、いまだに呪われた装備をしている侍傭兵ギルダースはがしゃり……。

 大げさなしぐさで肩を落とし、訓練の痕が生々しく残る筋張った指を額に当て。


「きさんらを放置しおったらなにをするか分からん……ついていくに決まっとるじゃろう」


 というわけで、僕らは観光しながら食料品を買い込み。

 迷宮の入口へと向かった。


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