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ぼくらの萎びたほうれんそう~こいつらの欠点~


 城内で負傷していた者達や死亡していた者達の回復が終わり、一段落。

 マカロニ隊がそれぞれ自分の部屋を見つけ、ペペペペペ!

 ぼよんぼよん、とベッドで跳ねている月の綺麗な夜。


 僕たち三名は打ち合わせという形で集合。

 料理を片手に小さな宴会を開いているのだが――その主な理由は”気を遣った”という至極ふつうな理由だった。

 二度と治らぬ傷で臥していた者。

 それこそ蘇った者たちにとって、今日は大切な仲間や家族と再会した日。


 肉汁が詰まったウィンナーにフォークを突き刺し、アランティアが言う。


「まあ、あの状況でこっちに気を使わせるのはちょっと野暮っすからねえ」

『ま、それにこっちはこっちで彼らに内緒で話を詰めておきたいからな。キレた朝の女神が魔術を回収したって話だが……アランティア、どう思う? 基本的に女神はこの世界への直接介入ができなくなっているはずだ。なのに、現実として王族から魔術がほぼ回収されている。そのからくりを知りたいんだが――具体的に何をしたのか、ちょっと僕にはわからなくてな』


 魔術の事なのでメンチカツは話には参加せず、最上級の酒を傾けグビビビビっとやっている。


「そうっすねえ……そもそも神々が人類に魔術を与えたのは偶然、ネコが魔術が封印されている箱をひっくり返したせいらしいっすからねえ。この世界のどこかに天から落ちた魔術の元とか、源みたいなもんがあると思うんすけど……それとの接続を妨害している、とかっすかね」

『あぁん? それってもう直接的な介入じゃねえのか?』


 グビグビっとゴムクチバシを揺らし、ぷはぁ!

 グラスを客室の机に置き、メンチカツが疑問を口にしている。

 アランティアは魔術を知る王族の顔で、ふっと吐息の波紋でジュースを揺らし。


「たとえば今メンチカツさんが飲んでる超お高いブランデーを直接あたしが取り上げたら、それは直接的な介入でしょうけど……。お酒を用意してくれてる執事さんを天災に巻き込んでお酒を取り上げたり、もっと離れると、未来を読んだ上で眷属を使って事前にお酒を造れないようにしたら……それはもう直接的な介入とは断言し辛くなりませんか?」

『いや、それだって介入だろ。何言ってるんだ、嬢ちゃん』


 メンチカツの言葉は尤もなのだが。

 僕が言う。


『この辺りも詐欺と一緒だな。断言できないのなら、不問になることもあるってことだ。まあその辺の曖昧な基準があるからこそ、神も人類の魔術の悪用について考えるようになるんだろうが』

「ラインを決めちゃうと、そのラインを越えないようにする狡猾な連中が暴れるだけ~それがマカロニさんの持論だそうですよ。ぷぷ-! 面白いっすよねえ! ふだん自分がそのラインの曖昧さを利用する側なのに!」

『詐欺は基本、抜け穴や抜け道を探すことからだからな』


 と、そんなことはどうでもいい。

 僕も氷が詰まったグラスにクチバシを伸ばしグビっと傾け。


『魔術を取り上げた過程で朝の女神は必ず眷属を使ったはずだ。厳格そうな女神だったからな。となると三女神……天と地と海の女神みたいに獣王に似た存在を使ったか』

「昼の女神、午後三時の女神ブリギッドちゃんみたいに人類と契約をして駒を送り込んでいるか、そんなとこっすかね」


 メンチカツがそんな言葉遊びで”間接的な介入扱い”になるのか?

 と、納得いっていない顔をしているが、女神に一般的な常識は通じない。

 文字通り神なのだから。

 だからこそ度し難い存在と言えるし、面倒な連中ともいえるが。


 ともあれ、僕はじぃぃっとアランティアを睨み。


『それよりもおまえ、ブリギッドちゃんって……いつの間に会ったんだ』

「この間、午後三時のお茶会に誘われたんでリーズナブルさんと一緒にお呼ばれされたんすけど……あれ? 言ってませんでしたっけ」

『まったく報告を受けてないぞ!』

「えぇぇぇぇ、マカロニさん、まさか女子の集いにまで口を出すつもりっすかあ? 束縛系王様みたいで、ちょっと引くんすけど」


 こ、こいつ……っ。

 報連相の大切さを説教してやろうと思ったのだが、メンチカツも蒸したジャガイモの皮を捲りながらしれっと告げる。


『ああ、あの時の集まりか。オレも行ったぞ? なんだ相棒、呼ばれてなかったのか?』


 ……。

 こんなときに、いつもは空気を読まないアランティアが何故か空気を読んで。

 そっと目線を逸らし。


「その、あの……本当にすみませんでした」

『おいこら! なんかこっちが可哀そうみたいに言うんじゃない!』

「えぇぇぇぇ! だって可哀そうっすよ!?」

『だいたい! 女子の集いみたいな空気だったのに、なんでこの暴力装置が呼ばれてるんだよ!』


 メンチカツは、ん? と眉間を訝しげに歪め。


『いや、だって女だけで現場に行ってなにかあってもヤベエだろ。オレみたいな用心棒がついていくってのはよくある事じゃねえか。なーに言ってんだ、相棒おまえ

『どこのヤクザだよ、女子会ってのはそーいうんじゃないだろ……』


 このメンチカツ、前々から思っていたのだが。

 こいつ生前は本当にそーいう筋の人間だったんじゃないだろうか。

 価値観が任侠と言うかなんというか。

 ともあれ。


『話を戻すぞ、明日になったら朝の女神が当時なにをしたのか、んで、君主ハインがなんで殺されたのか。そーいう部分を全部聞き出すぞ。ちまちまと周囲からの情報を固めてないで、本人に聞いた方が早いからな』

「本人って朝の女神さんに聞くんすか? あのひと、そーいうのは教えてくれそうにないっすけど」

『女神の駒だか使徒に聞くんだよ』


 メンチカツとアランティアは顔を見合わせ。


『何言ってるんだ相棒、それが誰だか分からねえから明日探すんじゃねえのか?』

『あのなあ……おまえらももう会ってるだろ』


 言いたいことを察したのか、アランティアがなるほど……と呟くもメンチカツの方は、んぬ? っとカモノハシフェイスにハテナを浮かべている。


『朝の女神の反応を見れば分かるだろ。暗殺されてた君主ハインが朝の女神の使徒だよ。たぶん、君主が殺されるのは女神の想定外だったんだろ。証拠って程じゃないが、あの厳格さのわりに少し強引だった。契約で手駒にして介入させた手前、君主殿を死なせるのは彼女の倫理的にアウトだったんだろうな』

『はーん、なるほどな。だからギルダースの野郎もなんか違和感があって……神妙な顔でこんな時間に君主のおっさんのところに行ったのか』


 ……。


『おい! なんでそれを言わないんだよ!?』

『なんでって、聞かれてねえからな』


 ああぁぁああぁぁぁ!

 こいつら、本当に報連相ができてねえ!

 たしかに風にあたってくると言っていたが。


 これは密偵を別の任務に使い、なおかつキンカンやマロンを連れてこなかった弊害だ。

 あいつらなら絶対に報告を上げてきただろうし。

 そう考えると、僕も抜けていたといえるが。


 僕は慌ててテーブルのステーキを切り分け、ガァガァガァ!

 クチバシを上に向けて丸のみにし、準備は完了!

 膝にあたる部分の羽毛をモコっと揺らしながらも、椅子からジャンプと直地!


 口の端にステーキソースをつけながらも、ギルダースを追いかけた。


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