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いつもの初手王手~ヤクザ屋さんと詐欺師~


 入港許可を取っていただけなのに、この膨大な魔力。

 メンチカツはあれでもリヴァイアサンを軸とした獣王。

 あんな面でも人類を殲滅することが可能な暴力装置。


 だから過度に暴れられても困るのだが。

 はい、いきなり暴れやがった。

 まあ、何があったのかだいたい想像できる――崩れた積み荷に目をやって僕は言う。


『おいメンチカツ、なにがあったんだ? ウチの積み荷が崩れてるようだが』

『なにがあったじゃねえぞ、相棒! こいつらオレらの商品を壊しやがった!』


 書類上、僕たちは中央大陸の商業ギルド名義でやってきている。

 外国からやってきた商人への嫌がらせというヤツだろう。


 もしこれがネコの行商人ニャイリス相手だったら、おそらくこの東大陸は主神の怒りを買って滅んでいたんだろうが……。

 幸か不幸か。

 彼らは猫の足跡銀河を渡り、三千世界と呼ばれる別の宇宙へと商品の仕入れに行っているらしいので無事である。


 まあ彼らは気まぐれ。

 仕入れからなかなか帰ってこないので、中央大陸に設置したネコの行商人用の祭壇も活用されていない状態にある。早く新しい……というか、あの時に買い損ねたあの<巨鯨猫神>だか<巨鯨魔猫>だかの逸話魔導書を買いたいが、仕方ない。


 僕は崩れた積み荷の前にペタペタペタと向かい。


『で? ウチの積み荷を壊した連中はどうしたんだ?』

『おう! そこの端っこで跳ねてる魚がいるだろ? そいつらだ』


 磯の香りが。

 僕の鼻孔をくすぐっている……。


 ……。

 おそらく、本来なら自分を対象とするはずの<変身系の魔術>を他人にかけたのだろう。

 もちろんメンチカツにこんな器用な魔術の使い方ができるはずもない。


 僕は町娘姿のアランティアに目をやり。


『言い訳を聞こうか』

「あ、あたしは悪くないっすよ! こいつらが悪いんっすから!」

『そりゃそうだが、元の姿に戻してやれ――』


 えぇえええええぇぇっぇ!

 っと、アランティアとメンチカツは仲良く声を上げている。

 こいつらもこいつらでセットにさせると問題児なのが玉に瑕である。

 まあ今回はこういう騒動をわざと起こさせたのもあるが。


『これじゃあ交渉ができないだろ。こいつらが荷を崩して商品を台無しにした証拠はちゃんと押さえたからな、これで脅すつもりなんだよ』

「ああ! なるほど! じゃあさっさと直してくださいメンチカツさん!」

『って、アランティアの嬢ちゃんよ、自分でやったらどうだ』

「え? あたしこういうのを治す魔術は研究してませんよ?」


 ということは、治せないのに変身させたわけで……さしものメンチカツも、おう……っと引きながら。

 水掻きの手を伸ばし、ビシ!

 バチバチバチ!

 平たい尾を左右に揺らし、<海の回復魔術>の波動を水しぶきとして周囲に散らし。


『しゃあねえからオレさまが直してやるが……。嬢ちゃん、おめえ……たまに怖えな』

「え、いや……メンチカツさんには言われたくないんっすけど」


 どっちもどっちである。

 同行しているこの国の王族、ギザ歯のギルダースが僕ら全員を見て。


「おんしら、いつもこんなことしちょるんか……?」

『僕らの言動はともかく、これは立派な業務妨害。とりあえずこの国の足掛かりは作れたから作戦は成功だ。どーせ女神たちはここの騒動が終わるまで諦めないだろうし、まあ乗り掛かった舟だ。大船に乗ったつもりで僕に任せるといい』

「危険な泥船にしか見えんのじゃが!?」


 まあ否定はしない。

 とりあえずメンチカツによる変身状態解除は成功し、魚となって跳ねていた輩たちが目を覚ます。

 僕は嘴を開いていた。


 ◇


 青ざめた顔で俯いているのは、この港町の代表。

 公僕の男らしいが、姿は成金貴族といったようすの胡散臭い男である。

 その横には縛られた輩たち。


 この町の連中はほぼ全員が黒――外国からの商人を脅し、手数料やら通行料やら許可料やらを徴収し、上前を撥ねていたらしいのだが。


 武力による脅しは、より強い武力によって跳ね返されると無力。

 積み荷を崩す嫌がらせをしても、折れるはずがないアランティアとメンチカツを相手にしたのが悪かったという事である。


『というわけで、君たちの管理のせいで台無しにされちゃった商品は弁償して貰う。それと、どうやらこの東大陸では武力による業務妨害が盛んらしいからね、早々に立ち去ることにした。出航許可書を発行して貰おうかな』


 成金貴族風の男が言う。


「べ、弁償だと!?」

『はぁ? 商品を壊されたんだ、当然だろう? 何言ってるんだ』

「そうやって金銭を要求してきたのかこのペテン師め、なにが商業ギルドだ! 生意気な顔のペンギン魔獣が代表などと、ふざけおって!」


 酷い罵詈雑言である。

 当然、録画をしてあるのでこれも後で王家を脅す証拠にできる。

 まるでヤクザが本職みたいにみえる形相のメンチカツが、あぁん!? とメンチを切り。


『――てめえ、ウチの代表になんて口をききやがる。命張る覚悟はできてんのか、おい?』

「ひっ! わ、わたしに手を出したらどうなるか分かっているのですかな!?」

『なんか勘違いしてねえか? はじめに難癖をつけてきたのはてめえらの方だろう? こっちはてめえ様がたがやってくださった事の始末をつけろって、至極まともな話をしてるだけだろ? 分からねえかなぁ、こっちの優しさってもんがさあ』


 このメンチカツ、ふつーにヤクザ風の脅しが上手いな。

 すかさず僕が前に出て。


『用心棒のおまえが怒るのも分かるが、まあそれくらいにしてやってくれ』

『だがよ』

『こっちは脅しに来たんじゃなくて、不当に壊された商品を弁償して欲しいだけなんだ。確かにいきなりウチのかよわい従業員が危険な目に遭って、それに憤ったのは分かるがこっちも商売だ。これ以上、問題になりたくないし、したくないんだよ』

『ちっ、分かったよ。依頼人には従う、命拾いしたなてめえら』


 かよわいウチの従業員アランティアが、ぐすんと泣きまねをしているが……。

 うん、こいつはあんまり喋らせない方がいいな、たぶんボロをだす。

 僕はメンチカツを止めた風を装って、貴族の男に言う。


『そーいうわけだ、こっちも暴れたくないんでな。賠償はしっかりとして貰う。構わないな?』

「ふん! まあいい、たかが積み荷の二、三個。払ってやろうじゃないか! 払ったらとっとと出ていって貰おうか!」

『よし、契約成立で構わないな。ちゃんと内容を確認してサインを頼むぞ』

「いいだろう、ちゃんと契約通りこの港から出ていって貰うからな」


 はい! ばかー!

 内容をちゃんと確認してとこちらが言ったのに、無視してサインしたー!

 契約を確定させた僕は請求書と明細を提示し。


『それじゃあ商品の代金は、共通金貨で53億8千万枚だ。期限は一週間、一枚たりとも譲らないから耳をそろえて払ってもらう。ああ、契約通り払えなかったらあんたの上の人間、つまりこの国が管理するすべての土地を押さえるから。せいぜい頑張れよ』


 言って、僕は確定した契約魔術を空に表記してみせる。

 そこにあるのは契約対象と、拡大解釈可能な国家の名。

 その下には値段と内訳がきっちりと示された書類が刻まれていて。


「な!? ふざけた値をいいおって!」

『契約書にサインをしたのはそっちだろう? 今更の解除はできないからな』


 既に確認しているが現在、この大陸にクーリングオフはない。


「バカめが、この国では不当な代金は払わなくていい事になっている!」

『不当?』

「そうだ、たかが積み荷にそこまでの価値はない!」

『じゃあ価値があったら払うんだな?』


 はい、引っかかった。


『実はこの積み荷、ウチの従業員が開発した蘇生回復アイテムでな。相場通りで売っても軽く100億は越える商品だったんだ。これでも安くしてやったんだがなあ』

「そ、蘇生などとバカバカしい」

『そのバカバカしいが実現可能なのが魔術だろうに、ああ、まあいいよ。期限までに払えなかったら回収するだけだ、公僕なのに欲を出したお前も悪いし、それを管理してなかった王族も悪い。自業自得だろ。疑ってるならさっさと鑑定士でも呼ぶんだな』


 ちなみに、嘘は言っていない。

 本当にメンチカツとアランティアで蘇生アイテムを開発したのだ。値段も本当に偽りはない。

 ちゃんとした錬金術師が調べれば、事実だと分かるだろう。

 まあ僕の能力で<複製>しているので、こっちには一切の損失がないのだが――それをわざわざ言う必要もない。


 詐欺を成功させている僕に、三白眼をジト目にしつつギルダースが言う。


「のう……、これワイはなんも関係のない騒動なんじゃが?」


 僕もそんな気がするが、気にしない。


 この後、慌てて飛んできた国家錬金術師が割れた積み荷を鑑定し。

 顔を青ざめさせたのは言うまでもない。


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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど借金の形に奴を王にするんですね?わかります 王手どころかもう玉を取っちゃうなんてさすが詐欺神!そこにしびれる憧れな〜い
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