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決戦ベヒーモス前日~二番煎じと言う勿れ~


 対ベヒーモスの作戦は前回の二番煎じ。

 強力なアタッカーを一人用意し、戦闘に参加する全員で強化しタイマンさせる。

 極めてシンプルかつ、乱戦によるハプニングも回避できる手堅い手段である。


 で、誰がタイマンするかだが。

 フンフン! と鼻息荒く手を上げているカモノハシこと毒竜帝メンチカツさんをスルーし。

 荒野の高台に設置された玉座の上にて、僕は丸い筒状のメガホンを用いた風魔術で、拡張した声を出す。


『誰か英雄になりたいやつはいないかー!?』


 もしこの中央大陸が長い歴史をこれからも繋いでいくのならば、この一戦は必ず歴史に残る。

 タイマンで神話の獣王と戦った英雄として名を残せるというのに。

 しーん……。


 メンチカツがフンフン!

 オレを選べばいい! と、滅茶苦茶アピールして平たい水掻きを上げているのだが。

 もう一度スルーし、僕はメガホンを構え。


『あーあー! もう一度聞くぞー! 英雄になりたいやつはいないかー!』


 へんじはない。ただのじんるいのようだ。

 なしのつぶてというのは、このことを言うのだろう。

 まあこの世界の兵法は僕の考えとは異なっている、タイマン戦法はあまりメジャーではないのだろう。


 相手が単体の巨獣ならば――結構合理的かつ、優秀な戦術だと思うのだが。


 カマイラ=アリアンテが言う。


「一人を全員で強化してタイマンって言うけれど……そいつがやられちゃったらどうなるのかしら」

『僕が氷の結界でベヒーモスの足止めをしているうちに、回復。次の候補を再強化してまたタイマンだな。それを繰り返していれば安定して戦線維持できる、魔力回復の補給ラインさえ確保できれば絶対に勝てる。成功率はかなり高いと思うぞ』


 侍傭兵ギルダースが、ギザ歯を昼の日差しに輝かせ。


「タイマンっちゅーことは、きさんのところの人類最強女がやったみたいにするっちゅーことじゃろう? あんな芸当、そこらの前衛じゃできんぞ」

「あら? 侍傭兵ギルダース。あなた、いつの間にあの報告書を見たの? あれは幹部にしか伝わっていなかったんじゃ」


 カマイラ=アリアンテに問われたギルダースは、目線を逸らし。


「おんしら上層部だけが情報のすべてを持っとるっちゅーんは、少々どころかかなりの思い上がりじゃ。ワシもワシで情報網ぐらいもっちょる。それよりも誰がやるがじゃが」

「あたしはパス、というか前衛向きじゃないから無理よ」

「なあペンギン陛下、この大陸の人間はタイマンに難色を示しちょる。難色を示しとる連中を従えるのは厄介じゃ。作戦を変えて全員で遠隔攻撃ってのはどーなんじゃ?」


 まあそれも一つの手であるが。


『言っておくが相手が反射魔術を使ってきたら僕は対処しきれないぞ? 僕は確かに獣王だがなんでもできる完璧ペンギンじゃない。死者も普通に出す。一番リスクが少ないのがこの作戦なんだが』

「しかしのう、立候補者がいないとなると……ペンギン陛下のところのそこの嬢ちゃんを貸してくれたりせんのか?」


 ちゃんと人間としては上位ランクだと気付いているのだろう。

 侍傭兵ギルダースはアランティアをご指名のようだが。


「あぁ、なんつーか。あたしは構いませんけど、そっちの大陸の人らとギルダースさんはそれでもいいんすか?」

「なにがじゃ?」


 アランティアが僕にちらっと目線を寄こしてくる。

 情報を開示していいか許可を求めているのだろう。

 僕は頷き、彼女の代わりに告げる。


『こいつは雷撃の魔女王ダリアの娘だ。たぶんそっちにも名前ぐらいは伝わってるんじゃないかと思うが……って、うわぁ……ぜったい伝わってるなコレ』


 ちなみに、ダリアの娘と聞いた中央大陸の連中の反応は畏怖。

 アランティアがブスーっとした顔で。


「ねえ、マカロニさん。やっちゃっていいっすよね!? なんすか、この反応!」

『いや、彼女の逸話を読み込んでみる限り……そりゃこーなるだろうって僕も思うぞ』

「え? あれ? 母が昔、中央大陸の迷宮を攻略したみたいな話は聞いてますけど……そんなに酷かったんです?」


 昔を知るデモモシア=アシモンテ公爵が告げる。


「雷撃の魔女王ダリア……正確ではありませんがおよそ二十年ほど前、突如として魔境より来たりし魔女は、我らの制止と包囲を物ともせず――強引に封鎖されていた迷宮に単騎突入。宝を荒らし、祭壇を蹂躙し魔道具をかき集めて回ったと――我も昔、噂を耳にしたことがある。中央大陸においては鬼神や魔神とされる、いわば上位怪異の一種とされておる」

「うへぇ……母さん、そんなことまでしてたんすねえ」


 雷撃の魔女王ダリアが迷宮で何をしていたのか。

 その辺りは、まあ……あえて追及や深堀はしない方がいいだろう。

 しかし……二十年ぐらい前にアランティアの母がこの地でどんだけ暴れてたのか知らないが……、当時を生きた者たちの目がガチですごいことになっている。


 僕は元気に生きるアランティアから目線を戻し。


『話を戻すぞ、誰か本当に立候補者はいないのか? うちのアランティアがやっちゃうと、そっちの政治的にも色々と面倒なことになりそうな気がするから最終手段だ。いないなら適性から勝手に判断して、僕が選んじゃうが』


 誰がやるかとなると、当然それなりに強い者に目線は行く。

 人類たちは先ほど驚異的な回避を見せたゲニウスに目をやるが。


「小生は神から賜った神器で回避に特化しただけの存在、倒せなければ意味もないでしょう。それに申し訳ありませんが小生は昼の女神さまが創造なされた”魔道具”に分類されますので、はい。自己防衛は可能でも、獣王を直接排除するとなるとブレーキが働いて不可能にございます」


 たぶん後半部分は嘘だろう。

 僕やメンチカツが、直接できるのだから彼も可能な筈なのだ。

 まあ倒せるかどうかは、また別の話だが。


 いまだにメンチカツだけは、フンフンフン!

 と、手を上げているので……僕は、はぁ……と露骨な息を漏らし。


『少しお前たちだけで考えてろ、僕はそこのバカと話がある』


 チョイチョイっとフリッパーでメンチカツを招き、内緒話をするべく玉座の裏へ。

 アランティアが秘書として<情報秘匿結界>を張ったのを見計らい。


『あのなあ、おまえ……ついさっきもゲニウスの状態異常にいいようにされたの忘れたのか?』

『ん? ちゃんと眠らなかっただろう?』

『それは僕がおまえ専用に作った装備のおかげだろう――ぶっちゃけちゃうとだな、今回の戦い、敗因があるとしたらお前が魅了やら混乱状態になって僕をぶっ飛ばすことぐらいしかないんだよ。あとはもう分かるだろう?』


 メンチカツさんは、それはもう怪訝に眉を顰め。


『つまり、オレ一人で戦えば問題ない?』

『違うっての、この脳筋カモノハシ! この際だからはっきりと言っておくが、おまえの攻撃が直撃すれば僕でも死ぬ。何を考えたのかしらないが、ダゴンは本当に極端な設定をしやがってるだろ? おまえの能力値の振り分けを、本気で脳筋方向にしか振ってない。尖り過ぎにもほどがあるんだ』

『分からねえな、だったらやっぱりオレが単騎でぶっ飛ばせばいいんじゃねえか?』


 やはり脳筋である。


『おまえ、もし装備剥がしの魔術だかスキルをくらって魅了されたらどうなると思う?』

『そりゃあ猛ダッシュで一番厄介な相棒をぶっ飛ばしに行くだろ。何を当たり前なことを聞いてやがるんだ?』

『がぁぁぁぁぁあ! そこまで分かってるなら、おまえが単騎で突撃するリスクの高さも分かるだろう!』

『あん? 相棒が魅了されたオレの攻撃を避ければいいじゃねえか』


 簡単に言ってくれる。

 クチバシの付け根をヒクヒクさせ、僕は言う。


『おまえ、いま素早さどれくらいあるんだ?』


 質問に、メンチカツは能力を表示させ。

 うわぁ、見事に知恵と状態異常耐性がない。

 海底から、うちの子を頼みますわね、となんかダゴンの声が聞こえた気がするが……たぶん幻聴ではないだろう。


 なんか国単位で発動可能な<範囲蘇生>やら、<範囲全回復>が可能な高位水魔術をふつうに習得してるっぽいので、そっち方面の能力はすさまじいらしいが。

 まあ基本、宝の持ち腐れである。

 僕がジト目で無駄にハイレベルな回復系統の魔術を眺めていると、メンチカツさんはドヤ顔でゴムっぽいクチバシを開き。


『どうだ、悪くねえ数値だろう!』

『悪くないどころか単純な数値すばやさなら僕より遥かに高いんだよ! この世界の職業の分類上、おまえはモンク僧だがこっちは詐欺師だぞ!? 非戦闘職! こんなの何度も避けられるはずがないだろう!』


 まあ当然僕は戦えるのだが、一応筋は通った言い分だろう。

 こちらは文句をつけたつもりなのだが、どうやら褒められたと思ったらしいメンチカツさんはムフー!

 オッサン臭くベシベシと僕の肩を叩き。


『そうかそうか! じゃあ仕方ねえな!』

『ったく、本当に分かってるのか』

『しかし相棒よ。おまえがこの間手に入れた魔導書……なんつったか、グリグリなんちゃら……』

『逸話魔導書グリモワールな』


 こいつ、魔術に関しての知識を手に入れる気がまったくねえな。


『おう! それだそれだ! 二冊は消費魔力がとんでもないらしいが、異世界ペンギンの魔導書は普通の魔術感覚で使えるんだろ? ぶっ飛ばしちまうのが一番いいんじゃねえのか? 楽だろ』

『これは異界の神の力を借りて、その逸話を再現した魔術を発動する。あるいはその異界の神が所有している魔術をレンタルして使用できるようになる魔道具なんだが……制御に失敗すると結構まずいんだよ』

『まずいってのは』

『仮にだ、この世界を破壊できるほどの魔術を発動したらアウト。確実に僕は主神や女神に消される。ライン越えってやつだな』

『あぁん? よく分からねえな、制御すればいいだけの話だろうが』


 こいつ……、魔術について本当に何もわかってないな。


『おまえなあ、時速二百キロぐらいでるトラックを運転しろって言われて、完璧に動かせる自信あるか?』

『おう、免許持ってるからな! なんだ相棒おまえ、トラックの免許持ってねえのか!?』


 たとえ話をしたら、なぜかマウントを取られてしまった。

 たとえ話をしようとした僕が悪かったと反省し……。


『とにかく、リスクが高いからちゃんと制御できるようになるまでは安易に使いたくないんだ』

『あぁん? だったら最初から使いたくないってだけでよくないか?』

『あ、ああ。そうだな、僕が悪かったよ』

『おう! 分かればいいんだぜ、分かればな!』


 ……あとでさりげなくこの間抜け面を殴るとして。


 僕が自分で解決したくない大きな理由がひとつある。

 もしこれから先、僕が元の世界に帰った後でまた獣王が降臨した場合だ。

 前回は獣王の僕が味方をして、そして獣王が単騎で倒しました――そんな前例を作ってしまうのは愚策、未来の人類にはまったく参考にならないだろう。


 そしておそらく、この世に魔術という概念がある以上、悪用が消えることはない。

 いつか獣王の伝説がまた御伽噺となった時、必ず人類は再び魔術を悪用し始める。

 それは人類の心のせいではなく、時の流れとはそういうものだからだ。


 そもそも本来なら裁くはずの獣王の僕たち、マカロニとメンチカツに理性があるのは女神の気まぐれ。

 例外なのだ。

 そうした例外を主軸にしてしまうのはあまりよろしくない。


 だからこそ可能ならば人類たちに任せたい。

 そう、僕は思うのである。

 おそらくは――彼女も。


『なんだ相棒、昼の空なんて眺めて――センチメンタルか?』

『いや、子供みたいな声と空気だったが――昼の女神もきっと僕と同じ考えなんだろうなって、そう思っただけだ』


 腐っても、テキトーでも、計画性がなくとも女神は女神。

 彼らもやはり、基本は善性。

 だからこそ、あまり言いたいことも言えなくなってしまうのだが。


 それはそれとして、元の世界には帰りたいし。

 やらかしまくっているその面に、フリッパーは決めてやりたい。

 僕は僕で、神に届くまで成長する最強ペンギン計画を進めるしかないだろう。


 ◇


 ベヒーモスの顕現が確認されたのは、僕がメンチカツとの密談を終えた十分後。

 準備はまだだが、ある程度の流れは整っている。

 僕らは急ぎ、防衛ラインを組み始めた。


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