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世界最速ペンギンRTA ~※事前準備あり~


 正義感だけはある侍傭兵ギルダースを個室に連れ込み。

 クチバシを開いた僕は、かくかくしかじか!

 説明したいことだけを”かくかくしかじか”というだけで説明できる神魔術を用いて、事情説明。


 この魔術、僕のオリジナルの筈なのだが……その力を借りている先はこの世界の主神にして創造神。

 おそらくは創世の神なので、自分で好き勝手に魔術を作れる特殊な分類の魔術なのだろうが。

 これ……やっぱチートすぎるんだよなあ……。

 よくもまあこんな属性を僕に付与したもんだと、一応は僕の主人にあたるどっかの女神を思いつつ。


 事情を聞いて、顔面を名画ゲルニカ状態にしている無精ひげ侍に言う。


『――とまあそんなわけで、近いうちにこの大陸はベヒーモスに襲われて沈む』


 告げてやると、ハッとギルダースは正気に戻り。


「はぁ!? マジで言うとるんか!?」

『まあ信じるかどうかは好きにすればいい。けれど僕は僕で勝手に動きたいからな、冒険者としてのおまえの肩書だけ貸してくれればそれでいい』

「待て待て待て! だーれが力を貸す言うたんじゃ!」

『そうだな――ちょっと待ってろ。即興簡易空間魔術! <あっちと、繋がれ(ペペンガ・ガガーペン)!>』


 僕は個室の床に転移魔術を応用。

 僕のオリジナル魔術として再構築させた魔術を発動させ、空間と空間を接続。

 離れた場所と個室を一時的につなげ、空間を共有する魔術を組んでみたのだが――。

 成功したようだ。


 なーんか空中庭園から、今のはなかなかに精密な魔術ですね――と後方神様ヅラをした主神の感嘆の声が聞こえた気がするが、無視。

 ……。

 神々の連中……たぶん集まって僕を見てるんだろうなあ。


 ともあれ、つなげた場所はアシモンテ公爵の私室。

 そこは既に飲み会の会場。

 完全に意気投合しているメンチカツと公爵が無礼講でワインを傾けていて。


「ふむ、マカロニ殿ではあるまいか――どうかされたか?」

『おう相棒! こいつはなかなかいいぞ! ベヒーモスが来てもここの連中だけは守ってやろうじゃねえか!』

「貴殿が守りたいのはここの酒であろうて」

『違いねえな!』


 二人の酒豪、カモノハシと公爵で顔を見合わせ。

 ガハハハハハハ!

 こいつら、これ……ガチで仲良くなってるな。


 しかもなんかマカロニ隊が少しだけ遊びに来てるし。

 これは……、商業ギルドのシフト時間を交代制にして遊びに来てるのか……。

 アランティアだけ忙しいと怒りだしそうなので、あとでフォローするとして。


 呆然としているギルダース氏に僕は言う。


『つまりは、こんな感じだ』

「どんなじゃ!」

『い、いや……僕も正直こんな親しくなってるとは思わなくて。って、それはどーでもいい! こっちは本物の公爵が後ろ盾なんだぞ! 秘密を知ったからには、おまえには協力をしてもらうからな!』

「どんな権限で言っとるんじゃペンギン風情が!」


 ペンギン風情との言葉に、二人の酔っぱらいは「あぁん!?」と邪悪な顔をし。


「貴公、今――我の大切な客人たる”御鳥様おとりさま”に”風情”と申したか?」

『相棒をバカにするってことはオレをバカにしたってことだ、分かるな?』


 公爵と暴力装置に睨まれ、さしもの侍傭兵も引き気味である。

 過度に罰が下ったらそれはそれで困る。

 歪ませ無理やり繋げた空間にフリッパーを当て、ペペペペ! 接続を解除しながら僕が言う。


『はいはい、脅しはそんなもんでいいから。とまあ、こんな感じだ。逆らったら裏ルートではウチの暴力装置が、表ルートでは公爵様がなんか手を回すことになる。協力してくれるな?』

「き、協力するんは構わんが……と、とりあえず、聞きたいんじゃが。公爵閣下が協力なさっちょるいうことは、さっきまでの話は全部……」


 言葉を途切れさせる男に、黄金の飾り羽を輝かせつつ僕は頷き。


『全部本当だってことだ。魔術の悪用を禁じる――古からの魔導契約を破ったわけだから、まあ自業自得っちゃ自業自得なんだがな。神としても契約とはいえ人類を終わらせるのには抵抗があるらしい。で、僕が依頼されてやってきたんだよ』

「ほぅぅぅぅぅん、神に依頼されて……のう」


 そう呟き、ふへへへへっと男は笑い。

 しばらくの間の後。

 血走った目で叫び散らし始める。


「ワイを巻き込むなや!」

『だいたい、僕がこの大陸を救うためにやっていた詐欺行為を妨害しに来たのはおまえだろう。巻き込んだんじゃなくて、おまえが! かってに! 巻き込まれに来たんだよ! 今から冒険者ギルド内に別の協力者を求めるのは面倒だからな、オマエに決めてやったんだ! 感謝して諦めるんだな!』

「おまえが本当に獣王なら、洗脳魔術でもなんなり使ってじゃ! ワイよりも上位の冒険者を捕まえればいい話じゃろう!」


 僕は、はぁぁぁぁ? と眉間に皺を寄せ。


『それは魔術の悪用になる。できるわけないだろう?』

「あの水だってヤバイ中毒性じゃ! もう既にあの水がないと生きていけない連中がではじめとるっ、ありゃあ魔術の悪用じゃ! 今更同じじゃろうが!」

『は! これだから素人は困るね。あれは詐欺だが、魔術を直接用いてないからセーフなんだよ!』

「全人類の水を支配しかねん詐欺が良くて、なんで魔術だけがダメなんじゃ! おかしいじゃろう!」


 まあ、それは僕もそう思う。


『神々が決めたルールだ、僕に言われても困る』

「おまえも神じゃろうがっ」

『神じゃない。ってか! あいつらと一緒にするなよ! この世界での僕の目的の一つに、夜の女神さま以外のまともじゃない神連中に一発”フリッパービンタ”をくれてやるって項目があるんだからな!』

「た、高いのか低いのかよく分からん目標じゃな……」


 はぁ……と侍傭兵ギルダースは、じゃっかんモフモフ味のある髪を掻きながら。


「公爵閣下には恩がある、あの方は正義のお人じゃ。だから力は貸す、じゃがあまりできることも多くないんじゃ。とりあえずペンギンさん、あんたの目的は冒険者ギルドを中から乗っ取ることにあるんじゃろ?」

『ああ、正規の手段で冒険者トップになって、そのまま幹部を飛び越して全権を握るだけでいい』

「だけって……まあええ、あんたがどれくらい強いのか知らんが――すぐにランクを上げるなんて物理的に無理じゃ。冒険者ランクにも段階っちゅーもんがあってじゃな――」


 前向きに、そして現実的に考え始めた男。

 その説明をカットするように僕はクチバシを挟み。


『ハハ! 僕を舐めるなよ! 大丈夫、この世界のギルドシステムは既に把握している。おそらくだが、このギルドシステムってもんは他所の借り物……神が前に住んでいた世界の冒険者ギルドのシステムを流用したんだろうな。神話時代の遺物をギルドシステムの母体とし、魔道具を接続させることでデータベースの書き換えを行っている状態にあるわけで――』

「なにを言っとるんじゃ?」


 ぜんぜん分からんと、やはりゲルニカ状態になってる男に言う。


『とにかく! おまえはとりあえず名前を貸してくれればいい、こっちで勝手にパーティ申請したし、おまえが同意したらもうそこでほぼ解決だ』

「はぁ? どーいうことじゃ」

『ま、見てれば分かるよ』


 言って僕は、侍傭兵ギルダースにパーティ申請を出し続けた。


 ◇


 一時間後。

 商業都市デモモシアの冒険者ギルドを乗っ取った僕は、半壊していたギルドを僕の魔術で再生させ。

 ふぅ――♪

 最奥にあるギルドマスターの椅子の上、座高を調整する魔導書をクッション代わりとし優雅に鎮座していた。


『今回はたった一つの街だったからな、デモモシアの冒険者ギルドを乗っ取る時間は五十七分弱。世界最速記録は狙えたんじゃないか?』


 勝利宣言する僕に、受付のお姉さんだった善人の女性が言う。


「お話を聞いたときは信じられなかったのですが、本当にたった一時間でギルドマスターになってしまわれたのですね」

『それもあんたのおかげだよ、いやあ悪かったな。あんなに大量に頼んじゃって』

「構いませんわ。このギルドをどうにかできると聞いたら、動かずにはいられませんもの」

『さて、次はどこの冒険者ギルドを落とすかだが――』

「そうですね……わたしの知り合いがいて、受付システムに干渉できるとなると――」


 既に僕は次の乗っ取りを考えているのだが。

 なにやら目の前で変な声が響いている。


 和やかな僕らの前で侍傭兵ギルダースが、”な、な、な!”

 と、”な”を連呼し固まっているのだ。


『おう、おまえも名前を貸してくれて助かったよ。じゃあ、もう用はないから。好きにして貰っていいぞ』

「な、な、なななな! なにをしよったんじゃ!?」

『システムの隙を突いたんだよ』


 僕はギルドシステムに接続する魔道具ともいえるアイテム。

 <冒険者カード>の束を掲げ、にひぃ!

 勝利の笑みを作っていた。


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