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僕は初心者冒険者 ~腐ったミカンは中から蹴り飛ばせばいいじゃない~


 その日、半壊していた冒険者ギルドを訪れたのは一羽の賢いペンギン魔獣だった。

 彼のモノは美しき羽毛を輝かせる王族のマカロニペンギン。

 褒めるべきところは多様にあるが、省略!


 そう、僕である!


 領主の屋敷で気分良く飲んだ翌日、意気投合した僕らは多くを語り合った。

 アシモンテ公爵は豪胆にして思慮深く、僕らが話した事情も全て理解したようで――。

 とある提案をしてきたのだ。


 僕もその提案がおもしろそうだと乗り――また苦労することになるゲニウスに商業ギルドの代表代理を頼み、アランティアを護衛兼、転移係兼、マカロニ隊の監視兼、転移でちょくちょくカモノハシの様子を見るメンチカツさん係を頼み!

 商業ギルドの守りは完ぺき!


 僕は単身でペタペタペタ。

 生み出した氷の玉座に乗って、冒険者ギルドの受付に顔を出し。

 よっこいしょ!


 尾羽を揺らしつつ、黄金の飾り羽を輝かせ!

 ふふん!

 カウンターの人気年上お姉さん、という言葉が似合いそうな女性を呼んで。


『冒険者登録をお願いしたいんだが、ここであってるよな?』

「え? は、はい! そ、そーですけれど……あの、あなた商業ギルドの新しい代表の方ですよね?」

『ん? そーだが、ギルドの掛け持ちは正式に認められている。ちゃんと許可証も紹介状も持ってきたんだが?』


 だが? だが? だが?

 と、話を前に進めさせる詐欺の手口を使いつつ、僕は受付のお姉さんの前でドヤ顔。


 そう、中から冒険者ギルドを正式に乗っ取っちゃえばいいじゃない、作戦である。

 おそらく僕の考えが正しいなら、さほど時間もかからない。

 ちなみに。

 今回の作戦に参加すると絶対にやらかすことが確定な某メンチカツさんは、領主の館で接待を受け続けることになっている。

 ようするに、酒で足止め中だったりする。


 酒の相手は例の公爵様。

 アシモンテ公爵もなかなかの変わり者で、僕らが怖い存在だと理解したうえで、ふつーに接してくるのだ。

 まあ、公爵にまで成った男は器が違うのだろう。

 獣王への接待ともなれば、堂々と公務を休めるという結構かなしい事情もあるようだが。


 ともあれ。


 受付のお姉さんは困った顔で、僕と紹介状を交互に見て。


「あのぅ……大変申し訳ありません。わたしだけでは判断できない案件のようです、上の判断を仰いでからでも構いませんか?」

『へえ、ちゃんと自分で判断できないことは上に投げる。分かってるじゃないか、いいよ、待っててあげるから呼んできなよ。ただし、待たせたまま受付時間の終了を狙う、なーんて手を使ってきたら僕は”公爵”を通じて正式に講義をする、そう上には伝えておいてくれ』

「さきほどもお話になった”侯爵”さまですか? んー、そうですね。伝えるのは構いませんが……」


 受付のお姉さんはキョロキョロと周囲を見て、顔を近づけ僕に耳打ち。


「実はこのギルド、けっこう腐ってるんですよ」

『それは知ってる』

「それだけじゃないんですよ、侯爵さまぐらいの権力者でも魔物討伐をこっちに任せている関係で……お恥ずかしい話権力で握りつぶしちゃうと思うのです」

『それも知ってる』


 あら? とお姉さんはキョトンとした顔である。

 お姉さんは疲れた声と顔で苦笑し。


「そう、なら自信があるということでいいのかしら。わたしとしても、可愛いペンギンさんが酷い冒険者の方々に羽を毟られてしまうみたいな場面はみたくないので」

『受付のあんたがそこまで心配しちゃうほどってよっぽどなんだな、冒険者ギルド』

「昔はこうじゃなかったんですけど……っと、あまり長話もできませんね。それでは紹介状をお預かりさせていただいても?」


 しかし、ゲニウスの言葉ではないがやはり腐った組織といえど、全員が全員腐ってるわけではないようだ。

 公爵からの書類なのでちゃんと許可を求める、その姿勢も悪くない。

 僕は素直に手渡し、そしてお姉さんは「ん?」と固まり。


「あ、あのもしかして紹介状を用意されたのは侯爵様ではなく、公爵閣下だったり……」

『ああ、だから急いだほうがいいぞ。これ、実は王命でもあるからな』

「い、急いで確認してまいります!」


 んーむ、お姉さんには悪いことをしてしまったかもしれない。

 僕はそのまま氷の玉座をスライドして移動したのだが、なにやら知った顔がこちらを眺めていた。

 職業は侍傭兵。名前は確か……ギルダース……だったかな。

 無精ひげのギザ歯で、なんだかんだ僕の手口に気付いていた優秀な男である。


 このあいだ衛兵さんに連行された彼がもうここにいる。

 その時点で冒険者ギルドの”権力と腐敗”がどれほどまで伸びているのか、理解もできる。

 武器を背中でベシベシと遊ばせながら近寄ってきた男は、あぁん!? と、メンチカツさん並みとまでは言わないがそれなりの眼光で僕を睨み。


「こんっペンギン畜生めが! どの面さげてワイらのギルドの敷居を跨いどるんじゃっ!?」

『ペペペ?』

「喋れんフリはやめんかっ! あんま舐めとるとその胴体をぶった切ってケモノの餌にしてやってもええんじゃぞ!?」

『ペペ?』


 それでも僕は無垢なペンギンなフリをしてやったのだが。

 あ、これ以上揶揄うのはヤバそうだ。

 歯茎を剥き出しに、ぐぬぬぬぬっとする侍傭兵ギルダースに肩を竦めてみせ。


『悪かった、悪かった。僕はちょっと冒険者ギルド内部に用があってな、正式な許可を取って冒険者として潜り込んでるところなんだ』

「ほぅ、そうか」


 カチャりと武器に手を掛けようとしているが。

 僕は親切にジト目で言ってやる。


『言っておくが、剣を抜いたら国際問題になるからな』

「国際問題じゃぁ!?」

『そうだ! これを見ろ!』


 偉そうに告げて玉座によじ登り、ペカーっと掲げたのはデモモシア=アシモンテ公爵の正式な客人である証拠の徽章。

 アシモンテ公爵の家名と家紋が刻まれた高価なアクセサリーであり。

 ようするに、公爵家に出入りしている客人ですと分かりやすくするための偶像である。


 バカでも分かるようにと、僕は周囲にも見せつけるように徽章を見せびらかし。

 ドヤァァァァ!


『さあおまえら、僕を崇めろ!』


 無論、この辺の流れは僕の演技である。

 ただ目立ちたいだけのペンギンのふりをしているのだが、効果はそれなりにあったようだ。

 今の僕はバカなペンギンに見えるだろう。


「は!? このペンギン畜生めが、なしてそんなもんを持っておる!?」

『実は公爵とは飲み仲間でなあ! 今回の手続きもあのオッサンに頼んでちゃーんとぜーんぶ正式な許可が下りてるんだよ! どうだ! 参ったか!』


 参ったか! 参ったか!

 ピョンピョン跳ねてやり、チラ! チラっ! と、公爵の徽章を周囲に自慢して見せてやる。

 羽毛を輝かせて胸を張り、僕は流し目でフフン!


『ギルダースだったか、おまえが僕に地面に手をついてちゃーんと謝るなら。許してやらんこともないんだが?』

「誰がそげんことするか! 殺すぞペンギン!」

『あれぇえええ? いいのか!? 公爵閣下のお気に入りの僕を殺すだってえ!? おまえはともかく、その家族まで罰を受けちゃったりするんじゃないのかあ!?』


 ちなみにこの嫌がらせ。

 普段、冒険者ギルドの一部の冒険者側がやってることのオウム返しだったりする。

 だからこそだろう、分かるモノには分かったようだ。


 そして僕の水のからくりにも気付いていたこの男も、僕の意趣返しに当然気付いていた。

 空気をわずかに変え、僕の顔をじっと見て。


「ペンギン、おまえもしかして」

『さて、どうだろうな――ただまあ、公爵の評判を知ってるなら話は簡単だ。あの公爵の正式な許可があるってことの意味は、まあ分かるだろう?』

「あの詐欺にも意味があったということじゃな」


 お、こいつ。

 使えそうだな。


『信じる信じないは任せるが、僕はこの大陸を救いに来ている側だ。ま、あくまでも今のところはだがな』

「……もし、こん状況をなんとかしようとしとるんじゃったら、先の非礼は詫びてやってもええ。ワイにも話を詳しく聞かせろや。嫌なら叩き斬ってでも聞くが。どうじゃろか」


 言わなければ脅す宣言である。


 ……。

 こいつ、他の住民も巻き込んで攻撃してきたし……。

 優秀で正義感もあるが、なかなかの問題児のようだ。


 この男を手駒として使うかどうか、悩む僕に声がかかる。

 受付のお姉さんだ。


「お待たせしました、許可の確認が取れましたのでギルドカードを発行いたします。それでその、確認なのですがご職業はこちらであってますでしょうか?」


 僕のギルドカードに刻まれた職業は詐欺師。


『ああ、間違いない。ありがとう』

「って、詐欺師ってなんじゃぁぁぁあぁぁぁああっぁぁあ! やっぱりただのせこいクソペンギンじゃろう!」

『耳元で怒鳴るなっ、掴むなっ、顔が近い!』


 僕は思わず<神速のフリッパー>で侍傭兵ギルダースの頭を叩いてしまい。

 当然、彼は沈没。

 床にめり込み、”はへはへ”と気絶した男の髪を掴んで運びながら僕は言う。


『悪いが、床の賠償金は商業ギルドの方にだしておいてくれ。なにやら最近、そっちのギルドが攻撃を仕掛けてきているが、正式な手順でやってきて暴れないなら客は客だ。ちゃんと対応はする』

「は、はい。構いませんが……ギルダースさん、どうしたんです? いきなり倒れちゃいましたけど」

『……僕はこれでも金にものを言わせるタイプだからな、たぶんだが、自動防御の魔道具が反射的に発動しちゃったんだろ』


 神速すぎて、常人には見えなかっただけである。


 この男は僕の<ウォーターサーバーによる支配計画>に気付いている。

 記憶操作による口封じか、或いは仲間に引き込むか。

 どちらかは必要だろうと、僕は気絶した鋭いがバカな男を奥の個室へと運ぶことにした。


 ズリズリズリと、気絶した成人男性の髪を掴んで運ぶマカロニペンギンの姿もなかなかシュールだろうが。

 まあ気にしても仕方がない。


 なんだあれ……と騒ぐ連中を振り向き、首を傾け。

 ガァァァ!

 っと威嚇し、これで良し。


 受付で話すのはまずい、外に情報を漏らしたくない依頼人が使う個室は三つ用意されていたが、全てが空いている。

 ま……僕が言うのもなんだが。

 半壊した状態じゃあ、依頼人もそんなにいないのだろう。


 個室に入るなり、僕は男をポイっと椅子に投げ――。

 海と水の女神ダゴン直伝の回復魔術で男を気絶状態から回復。

 事情を説明した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 鳥好きの公爵から見て、カモノハシはクチバシがあるから鳥扱いなのか。 卵も産むし。
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