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ゲニウスの胃痛~まともな人材は板挟みになりやすい~


 冒険者ギルドから帰還した元CEO。

 背広マント男なゲニウスは販売されている”敗北者達の中古装備”の山を見て、はぁ……。

 開口一番、超下手(したて)の構えで――。


「あのう……皆様、たしかにあの冒険者ギルドの連中めが愚かである事は事実なのではありますが。もう少しっ、もう少しだけでいいのです! どうか、お手柔らかにお願いできないでしょうか?」


 氷竜帝に毒竜帝にアランティア、僕らはそれぞれに言う。


『あのなあ……そうは言うが、勝手に僕らを討伐対象にして冒険者を次から次へと送り込んできてるのはあいつらだろう?』

「あたしたちは襲われたから仕方なく返り討ちにしてるだけっすからねえ」

『おう! オレらはなにひとつ悪くねえからな!』


 襲われたから反撃し、その報奨として装備を徴収。

 エントランスで販売。

 このサイクルを繰り返しているだけである。


 お手軽価格で中古販売されている魔力剣を眺め、ゲニウスは困った顔で。


「さすがにやりすぎです……あなたがたも恐怖で中央大陸を支配したいわけではないのでしょう?」

『そりゃあそうだが、変に舐められてウチの大陸にまで攻め込んでこられても困る。さすがの僕でも全部に目が行くわけじゃないからな、守れる範囲にはどうしても限界がある』


 告げて僕はジト目で天を見上げ。


『なにしろウチの領域は女神アシュトレト、あの女神の信仰圏内。あいつ、美の女神としての側面もあるってことでヤツの加護範囲では、一般的に見た目が良いとされる人類が生まれやすい。そんなわけで結構そーいう人身売買的な対象にされやすいってか、されていたっていう史実があるわけで――なんなら向こうの王として、正式にその辺を抗議してもいいんだが?』

「仰りたいことはわかりますが――あなたがたの魔境に手を出すほど、小生らの中央大陸に余裕などありません」


 現実的にそうなのだろう。

 だがアランティアが、「なんか……すんません」と<透視の水晶球>に目線を移しだす。

 そこには現在も暗躍する冒険者ギルド内の映像が、そのまま筒抜けで表示されている。


 毒竜帝メンチカツがヤクザの顔で、あぁん!? と、ゲニウスを睨み。


『ゲニウスとやら。てめえがこっちを止めてくるって席を離れた途端だ、やつらなんて言ったと思う? ”彼らの家族を人質にすればいいのでは?” だとよ』

「あたしはもう身内なんていないんで問題ないっすけど、ぶっちゃけこれはライン越えっすよね?」


 相手が強くて勝てないなら人質を取ればいい。

 確かに解決策としては有効な手段だろうが。

 ゲニウスはしばし考え。


「いやはや、これは面目ない。ただ……言い訳をさせて貰えれば、彼らがここまで意固地になっているのはメンツのせい。メンチカツ殿が道中の冒険者ギルドを破壊し歩いてきたせいもあるかと……」

『あぁん? そーはいうが、オレはちゃんと相棒を探して欲しいって依頼を出しに行っただけだぞ? 襲ってきたのは奴らだ。てめえらじゃ相手にならねえからやめとけって警告までしてやったんだ、マジでオレは悪くねえぞ』


 いやあ、多少は悪いとは思う。

 が、こっちが不利になりそうなことは黙っておくのが吉。


 そうこうしているうちに、外ではまた冒険者が一人返り討ちになっていたようだ。

 さすがにマカロニ隊の強さも知れ渡り始めているようで――。

 商業ギルドの前を通った近所の子供たちが――敗北冒険者から装備を剥ぐマカロニ隊を指差し。


「あぁ! すごく強くてかわいいペンギンさんだぁ!」

「悪い冒険者をぶっとばしてくれるんだよね!」

「ママァ! 抱っこさせて貰ってもいい?」


 と、きゃっきゃっきゃ!

 順調に人気も出ているようで何より。

 和やかな景色を横目にアランティアが言う。


「しっかし、冒険者ギルドってよっぽど嫌われてるんすねえ。あそこの連中を返り討ちにしてるだけでこの好評って――いったいなにしてたんです、冒険者あのひとたち」

「……まあ評判が悪くて当然。それなり以上の目に余る振る舞いが目立っているとだけは」


 言葉を濁すゲニウスだが、それでも少し疲れた苦笑をしてみせて。


「誤解をしないでいただきたいのは、全員が全員そうではないということです。きちんと真っ当な仕事を受けて、真っ当な報酬を受け取り市民からも愛されている冒険者もいる。それだけは信じていただきたい」

『つまり、おまえはまともな冒険者は救いたいって思ってるわけだ』

「商業ギルドでありますからな、様々な方と出会います。やはり生き残って欲しいと応援したくなる冒険者の方もちゃんとおりますので……どうか、しばしのお時間を」


 結局のところ、このゲニウスはやはり善性な男なのだ。

 だからこそ僕もやりにくい。

 相手が悪の大商人とかなら無視してもいいのだが……、僕は澄ました顔で告げる。


『ぶっちゃけ、こうやっていつまでも話が進まないんじゃあ冒険者ギルドは諦めて、領主とか王様とかそっちの方面に警告しに行った方が良いんじゃないかって思い始めてるんだが。あいつらっておまえの印象からするとどうなんだ?』

「領主様、でありますか……」


 ゲニウスはなんとも言えないといった顔で、ふーむと唸り。


「領主様ご本人はとても良い方です、直接お会いしたこともあるので間違いなく善人です。まああくまでも謁見した当時での話ですが、厳格ではあるモノの人の心を理解なさっている君主だと。ただ……」

『ただ? なんだ、勿体ぶるじゃないか』


 相手が領主だとさすがに言葉を選ぶのか。

 ゲニウスは神妙な顔で、探りながら言葉を紡いでいく。


「実はここ十数年ほど出現する魔物が強力になってきておりましてな、上の方々も冒険者ギルドの力に頼らざるを得ない状況が続いておりまして――やはり崩すのならばまずは冒険者ギルドの方が建設的かと」

『魔物が強力にか、それはちょっとまずいかもな』

「と、仰いますと?」

『僕も完全に把握しているわけじゃないが、この世界の魔物ってのは罪を犯した存在が転生してなるパターンがそこそこあるらしいんだよ。もちろん自然発生する魔物もいるから全てがそうとは言わないが――魔物や魔獣は獲物として狩られることで浄化され、再び人類に生まれ直すんだ。それが創世の神々が設定したこの世界のサイクル。つまりは手に負えないほどの強力な魔物が増えてるってことは、そのサイクルに乱れが出てるってことでもある。それほど罪を犯した連中が多い可能性もあるってわけだ』


 仮にその罪が、魔術の悪用に該当していたとなると。

 やはり時間はあまりなさそうだ。


「分かりました、とりあえず領主様に謁見できないか連絡を入れてみます。ただ上の方々ですので、すぐにお返事をいただけるかどうかは」

「いやあ、たぶん大丈夫。直でお返事をもらえると思いますよ」

「そんな簡単に上は動きませんよお嬢さん」


 はぁ、これだから王族やら貴族を知らないお嬢さんは――とゲニウスは少しオッサン臭い顔である。

 そーいや、こいつが元王族であの雷撃の魔女王ダリアの娘とは知らないのか。

 僕もアランティアもわざわざ伝えてなかったし。


「そうっすか? まともな貴族だって話なら、今の事態を把握していないとは思えませんし。事態をどうにかできるチャンスを見過ごすほどバカじゃないでしょうし。ゲニウスさん本人がもし相手に信用されているなら、たぶん即行すよ?」


 どうやらゲニウスは領主からの信頼も厚かったらしい。

 アランティアが言った通り、ゲニウスが連絡を入れ半刻も過ぎぬうちに返事はあり。

 僕らは領主の館に向かう事となった。


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