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環境の差~井の中の蛙大海を知らず~


 ギルドに駆け込み、おそらく事情説明をしているだろうゲニウス。


 彼の帰りを僕らはじっと待ち、わっせわっせ!

 来店するお客様にウォーターサーバーの契約やら高級ポーションの販売やら、襲ってくる冒険者ギルドの冒険者を返り討ちやら。

 立派に業務をこなしているのだが。


 いつまで経っても帰ってこない。


 ただ待っているだけというのもアレなので、僕らは商業ギルドの商品の一つ<透視の水晶球>で冒険者ギルドを観察していた。

 この水晶球。

 使用者の魔術操作の練度でどこまで遠くを見えるか、距離も内容も変わってくるのだが……。


 無駄に天才な部分があるアランティアが扱えば、どこまでも見渡せるチートアイテムとなっていて。

 メンチカツに半分吹きとばされた冒険者ギルドの様子が映っている。

 僕は言う。


『おまえ……本当に無駄な部分で才能豊かだよな』

「無駄ってなんっすか! 無駄って!」

『これ、おまえに実演させて販売するつもりだったが効果が強すぎるのは少しやりにくいな。ここまでの性能を期待されると、販売した後にクレームがきそうだし』

「それほどあたしが有能って事っすね!」


 まあ実際そうなのだが。

 メンチカツも水晶を覗き込み、魚眼レンズのようにゴムのクチバシを反射させ。


『あのゲニウスとかいう野郎、なにやってやがるんだ。全然説得できてねえじゃねえか』

『まあ、獣王がもう既に降臨していて商業ギルドを乗っ取ったって言っても、なかなか信じて貰えないだろう』

「もしあたしたちに悪意があれば、ふつーに、大陸の危機っすからねえ」


 言いながらもアランティアが水晶球を操作し。

 冒険者ギルドの会話を回収、音として聞こえるように再生してみせていた。

 おそらくは風の流れを読み取り、音を再現しているのだろうが。


「ねえねえ! どうっすか! 音まで拾えるようになりましたよ!」


 うわぁ、すっげえドヤ顔してやがる。

 ん? ん? 褒めてもいいんすよ!

 といった様子なので僕もメンチカツもジト目でスルー。


 調子に乗らせるのも悪影響が出そうなので無視である。

 なんすか! と地味に怒りつつも、尋問にかけられるゲニウスの会話を拾い始める。


「ですから! 何度も言ってるでありましょう! あの方は本物の獣王陛下であり、あなたがたが襲い掛かったという合成獣のような魔物もまた獣王。彼らは小生らに警告に来たのでありますよ!」


 バンバンと審問席を叩きアピールするが。

 ゲニウスを囲うような配置となっているギルドの重鎮たちは、まともに取り合う気がないようで。

 貫禄ある老婆のような声が響く。


「仮にソレが本物の獣王だとしても、それがどうしたというのです。魔獣なのでしたら予定通り討伐依頼で倒してしまえばいいではありませんか」

「勝てると本当にお思いなのでありますか!?」

「もはや失われつつある伝承の魔獣など、所詮は過去の遺物。我ら人類は研鑽を積み重ね、その魔術を伸ばしてまいりました。よもやゲニウス、臆病風に吹かれたのではありませんね? 我らが負けるとでも?」


 自分の力を過信するつもりはないが、まあこいつらには絶対に負けない。

 それはメンチカツも同じのようで、このババアなにいってやがるんだと呆れ顔である。

 ゲニウスが周囲を一瞥し。


「そもそも小生らは既に獣王の手の内。罠にかけられているのですぞ!?」

「罠といいますが、たかが水の何が罠なのです」

「分かりませんか!? ただでさえ強い存在が搦め手を用いてくるのですぞ!?」

「話になりませんね、討伐依頼は下げられません――既に多くの支部を襲撃された状態でそのような逃げ腰では、済みません。冒険者ギルドの権威が疑われるでしょう」


 それでも必死に食い下がるゲニウスがデータを提示して見せ。


「先に襲い掛かったのは冒険者ギルドの方だと証言がとれておりますが!?」

「町の中にまで魔獣が入り込んだのです、当然の処理でしょう」

「既に手練れの侍傭兵ギルダースも敗北している事実がございます!」

「あの者は頭が足りませんから、スキを突かれたのでしょう」


 ぐぬぬぬっと粘るゲニウスに野太い声が降ってくる。


「もういいじゃねえか、そいつらは商業ギルドで飼ってるんだろう? ちょっくら向かって、ぶっ殺してくる。それで終わりだ」

「いけません! 議長! 彼を止めてください!」

「……そうですね、彼が討伐に失敗したら考えましょう。いけますね?」


 野太い声の持ち主と思われる男が、ニィっと口角を吊り上げていた。

 僕らは、しらーっと水晶球でその景色を眺めているのだが。

 アランティアが器用に、遠隔状態なのに鑑定を発動させ。


 さらに、しらー……。

 あのメンチカツが、うわぁっと頭を抱え。


『おい、どーすんだよ、滅茶苦茶レベル低いぞ、こいつ』

『ここまでレベル差があると手加減が難しいからなあ。やっぱり、スナワチア魔導王国がある大陸が異質だったんだろうが……さすがに殺しちゃうわけにはいかないだろうし。どーしたもんか』


 ともあれ、できることは少ない。

 僕らの強さを確信させた後、ゲニウスがもう一度彼らを説得するしかないだろう。


 僕らは冒険者ギルドからの刺客を待つこととなり。

 その三十分後。

 例の野太い声の男は、ペン!


 エントランスを掃除していたマカロニ隊にケンカを売り、ふつーにフリッパーでワンパンされKO。


 敗北者の装備はぼくらのモノだ!

 と、マカロニ隊が装備を回収しそのまま中古販売をしはじめている。

 アデリーペンギンたるこいつらもなかなかに邪悪である。


 冒険者ギルドの連中もようやく少しずつ、焦り始めてくれたようだ。


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