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ギルド襲撃~いや、そりゃあ物理的に不可能じゃないが……~


 <ペンギン印の高級ポーション>の特設販売所。

 僕が生み出した実用性と引き換えに、ちょっとだけ中毒性のある回復アイテムなのだが。

 実演して見せたのと手に取りやすい価格だけあり、順調に売れていた。


 そんな販売所を襲った謎の爆発に気付き、僕らは緊急転移。

 焼け焦げた香りが周囲に満ちているが……。

 とりあえず死人は出ていないようだ。


 誰かと誰かが戦った。

 というよりは、誰かが一方的に集団を吹っ飛ばしたといった様子である。


 転移魔術に驚き慌てる元CEOゲニウスが「な、なんですかな!? これは!?」と騒ぎ、すっころぶ横。

 僕とアランティアは華麗に着地し、現場を眺め。

 しばし沈黙。


 爆煙の中に浮かぶのは、ずんどうなシルエット。

 見知った顔である。

 僕のクチバシからは呆れた声が滲み出てしまう。


『メンチカツ、おまえなあ……こんなところでなにやってるんだ?』


 そう、そこにいたのは本国で待機していた筈のメンチカツ。

 毒竜帝の名を冠し、女神ダゴンの正式な眷属の獣王。

 まあ分類するなら僕の仲間で、カモノハシな男なのだが。


『おう、そこにいたのか! ギルドにいるっていうから探してたんだぞ? はん! 会うのに結構時間がかかっちまったな!』


 メンチカツはエントランスの爆風と瓦礫をベチンと水掻きパンチで払い。

 ペタペタペタ!

 こっちに向かって、ペタペタペタ!


 彼の横には敗北者が山のように積まれている。

 おそらくはメンチカツに襲い掛かったバカがいたのだろう。

 初めての転移で<転移酔い>をするゲニウスが、敗北者の山を眺め。


「こやつらは……冒険者ギルドの連中ですな」

『あん? なんだこの胡散臭い男は。おいマカロニ、こいつはぜってぇ裏切るタイプだぞ? いまのうちにぶっ飛ばしとくか?』


 あいかわらず暴力思想なカモノハシである。

 しかしこのゲニウス、アランティアからもメンチカツからもこの反応である。

 ほんとうに胡散臭く見えるのだろう。


『それを承知でこっちも使ってるんだ、まあ大目に見てやってくれ』

『そうか、おまえがそーいうなら黙ってるが。てめえ、あんま相棒に迷惑かけたら裂きイカみたいに縦方向に、バシュってするからな? ああん!? わかったか!?』

『だぁぁぁぁ! ここで騒ぐな!』


 <毒竜帝の咆哮>が発動しているので、僕も<氷竜帝の咆哮>で相殺。


 モフっとした丸いフォルムで器用に二足歩行するメンチカツは、ジト目の僕を平たい水掻きで指差し。

 目を三角に尖らせ、ゴムに似たクチバシをクワ!


『てか! おい相棒! オレを置いていくとはどーいうことだ!?』

『いや、おまえ暴力担当だし……今回は穏便に侵略するつもりだから、おまえがいると面倒になるっていうか』

『面倒だと!?』


 ガーン! とショックを受けているようだが、僕はおそらくこいつが壊しただろうエントランスを眺め。


『あのなあ、それをやったのもおまえだろう?』

『おう! 強大な魔物が攻め込んできたってなんかバカどもが突っかかってきたからな、軽くワンパンよ!』

『それがあそこに伸びてる連中か……まあ人体のパーツが吹き飛んでもいないし、生きてるから手加減はちゃんとしたようだが』

『いや? やりすぎだと思ったから急いで回復してくっつけた』


 ……。

 アランティアが言う。


「ねえマカロニさん……こーいう暴力主義の人が、いざとなったら蘇生とか回復で元に戻せるって逆に危なくありません? こう、なんていうか……元に戻せるからこそヤバいっていうか」

『まったくもってその通りだが、まあ自分で治したんだろうし……相手が襲ってきたのは事実っぽいし』


 ゲニウスの指摘通り、たぶん冒険者ギルドの連中だろう。


『それでメンチカツ、おまえはなんで冒険者ギルドの連中に狙われてたんだ』

『あぁん!? ギルドを探してたって言っただろ? 冒険者ギルドの方にいって、相棒を出せって依頼を出したんだが――なんか奴らがオレを急に襲いだしてな。返り討ちにしてやっただけだぜ!』


 ハッハッハ! と、メンチカツさんはそれはもう満面の笑みである。

 まあこいつの行動をいちいち気にしても仕方ない。

 僕は少し話題を変えるべく――こほん。


『けど、ここまでやってこれたってことは――おまえもようやく転移魔術を使えるようになったんだな』

『は? 使えねえぞ?』

『どーいうことだよ、だってここまで来てるだろ……』

『泳いできたに決まってるだろう、なにいってんだおまえ』


 いや、なにいってるのはおまえだと突っ込みたいが。

 獣王なのだ、海を泳ぐぐらい僕でも実際にできるだろう。

 かなりの距離があるが……。


 僕とアランティアは互いに、まあこいつだしなぁ……と納得。

 魔術で崩れたエントランスをすべて元に戻すという、さりげない荒業を披露して見せアランティアが言う。


「それで何の用なんです? こっちはこっちで結構順調なんで、まだメンチカツさんの出番じゃないんすけど」

『いや、なんかな。なにをしててもイライラするっつーか、どーしてもこの大陸に来たくなっちまうんだよ』

「ありゃ……それってマカロニさん」

『ああ、たぶん獣王の本能のせいでこの大陸に引っ張られてるんだろうな』


 納得し合う魔術組の僕らを見て、メンチカツさんは獣毛に皺を刻みメンチを切り。


『てめえらだけで納得するなってオレは前からいってるよな!?』

『はいはい、悪かった悪かった。よーするに、この大陸に蔓延ってる魔術悪用の気配に惹かれてるんだよ、おまえ。だいたいだな。ただでさえおまえは状態異常に弱いんだ。気をつけないと魔術悪用を裁きたくなる欲求っていう<破壊衝動>の状態異常で、やらかす可能性がかなりあるからな』


 僕がメンチカツに与えている状態異常耐性装備は複数。

 状態異常耐性の基礎値を底上げする”足の付け根に装備する足輪”や、高すぎる威力の爪攻撃を弱体化させる代わりに状態異常耐性を引き上げる”ゴムの爪”など、エトセトラ。

 小言を受けても気にもせず、メンチカツさんは目線を上にあげ。


『ああ、獣王の本来の役割……だったか。なるほどなあ。だからあそこもぶっ壊しちまいたくなったんだな』


 カモノハシアームを組んで見せ、妙に納得顔である。

 ん?


『メンチカツ、おまえ、いまなんか変な事言わなかったか?』

『あぁん? 相棒が言ったんだろ、破壊衝動みたいなもんがでちまうって』

『もうやらかしてきたのか……で? なにやったんだ』

『睨むなよ、人死にはでてねえし正当防衛だって』


 おそらく嘘は言ってない。

 が! この男はこーやって誤魔化す悪質さも持っている。

 僕はじとぉぉぉぉおっとペンギン半目で、クチバシを開く。


『で? 本当は何をやらかした』

『……ぶっこわした』

『なにをだ?』

『ぼ、冒険者ギルドを、ちょっとな』


 あー、やっちゃったか。

 まあこの町の冒険者ギルドぐらいなら……。

 そう考えた賢い僕の頭脳に、なにやら嫌な直感が働く。


 いや、いやいやいや。

 ないない。

 そう思いつつも、僕はグギギギっと曲線を描くペンギン首を回し。


『な、なあメンチカツ……その、ちょっとってのはどれくらいの規模だ』

『だ、だからっ、通り道にあった各地の冒険者ギルドを全部ぶっ壊しただけだ!』


 ああ……うん。

 ……。

 ゲニウスが慌てて確認を取ると、頬を掻きながらこくりと肯定の頷き。


 僕は、ヒクっとした青筋をクチバシの根元に浮かべ。


『ああぁっぁぁああぁぁ――っ! おま、おまっ、おまえええええぇぇぇ! 登場一瞬でいきなり特大なやらかしを起こしやがってっ、冒険者ギルドは僕が裏から無傷で乗っ取るつもりだったのに、どーするんだよ!?』

『は!? 相手が勝手に襲ってきたんだぞ!?』


 突然メンチカツを襲った相手も悪いが、見た目は魔獣。

 いきなり冒険者ギルドに強大な敵がやってきたと思われても不思議ではない。

 そりゃあ、冒険者たちも襲い掛かる。


『こっちはちゃんと交渉したし、やめとけって警告もした! オレは悪くねえぞ!』

『だからってやりすぎなんだよ、このバカ!』

『バカをうまく使えないてめえの失態を人のせいにするんじゃねえ!』


 怒声を受けた僕の羽毛はぶわぶわと揺れて。

 ついでに僕の瞳が赤く染まり、ギラリ!


『開き直るなぁぁぁあ!』

『ガハハハ! 獣王の本能を計算に入れてなかったてめえが悪いんだろ! オレは悪くないぜぇぇぇ!』


 額をぶつけ、魔力もぶつけ合う僕たち。

 マカロニ隊が結界を張り周囲を守る中に、よっこいしょ。

 獣王同士の間に平然と割り込みアランティアが言う。


「はいはい、そこまでっすよ! まあいいじゃないっすか。たぶん賢人とかまともな思考の持ち主がいたら、これでこの世界には獣王が実在するって分かってもらえたでしょうし」


 アランティアの何気ない言葉にゲニウスが、ヒクついた頬を上げ。

 なんとか作った笑顔で手もみの構え。


「あのぅ、みなさま……」

『なんだマント男』

「ゲニウスとお呼びいただきたいのですが、さきほどからみなさま……この方が獣王だと言わんばかりのご発言なのですが……」


 メンチカツは、あぁんと片眼を開き。


『なーに言ってんだ、あったりめえだろう? オレと相棒こいつは今代の獣王そのものじゃねえか。知らなかったのか?』


 そう。

 察しはついていただろうが、知らなかったのだ、この男は。

 胃痛を押さえるように手を腹に添え、背広マント姿の長身伊達男は吐血しつつ。


「そーでありますか、ははは、やはり……あなたさまが獣王陛下で……はは、はは……はぁ」

『あん? ガチで知らなかったのか』

『こーなるとは分かってたからなあ……おいゲニウス、悪いが本当に獣王はこの大陸を滅ぼす裁定を下しかけている。僕やこいつは理性があるから判断を待てるが、ベヒーモスが軸となってる最後の一匹は違う。容赦なく壊しに来るからな』


 わりと本気で時間もないと僕は真摯に告げてやる。


 言葉を受け止めたゲニウスは口元の吐血を拭いつつ。


「分かりました、まずは崩壊した冒険者ギルドに伝達をし報復は考えるなと念を押してきます。できればなのですが、その……もしギルドの方々が襲ってきても、反撃を待っていただけると」

『おう、任せろ! ちょっと反撃を待てばいいんだな?』


 ゲニウスがちょっと? と頭を悩ませているので、合図を送ってやる。

 こいつの言葉は信用するな、ぜったいやらかす。

 と。

 メンチカツを眺めた僕とアランティアは首を横に振っていた。


 ゲニウスは猛ダッシュで冒険者ギルドに駆け込んだ。


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